プロローグ
人は一人で生きていけない。気高く生きるとか、人を離れさせる馬鹿みたいな行為だ。
そう思ってる。
別に、すごく特別なことじゃないだろ。人に合わせるのなんて普通だし、多少キャラを変えるのだって当たり前だ。相手によって話し方が変わるのも、笑うところが変わるのも、空気読んでるだけの話でしかない。そこで「これが本当の自分だから」とか言い出して場を冷やすやつの方が、よっぽど不器用で迷惑だと思う。
一人でいられるやつは、それでいい。
でも俺は違う。
一人は嫌だ。
昼休みに机で一人、放課後も一人、帰り道も一人。そういうのを平気な顔でやれるほど、俺は強くない。だから誰かといる。誰とでもいる。別に難しいことじゃない。話を合わせて、適当に笑って、向こうが気持ちよく喋れるようにしてやれば、大体どこにでも入れる。
教室の後ろでだるそうにしてるやつらと駄弁るのもできるし、真面目な顔して進路の話してる連中の横に座るのもできる。部活帰りの流れに乗るのも、帰る方向が同じやつと何となく一緒に歩くのも、夜に通話に入って適当に喋るのも、全部それなりにできる。
別に誰かを騙してるつもりはない。
相手が見たい俺を、ちょっとずつ出してるだけだ。
それの何が悪いのか分からない。むしろ、そうやってちゃんと人と繋がっていける方が偉いだろ。自分を守るみたいな顔して一人でいる方が、よっぽど馬鹿みたいだ。
少なくとも、俺はそう思ってる。
思ってる、はずだ。
朝の教室は、いつも少し曇って見える。窓の外が晴れてても関係ない。人が増える前の空気は、机も椅子も妙に余って見えて、そこに一人で座ってると世界の輪郭がはっきりしすぎる。だから俺は、できるだけその時間を短くする。
教室に入った時、すでに何人か来ているのが見えた。後ろの方で昨日の動画の話をしてるやつら、前の方で小テストの確認をしてるやつら、その中間でぼんやり端末をいじってるやつ。俺は一瞬だけ教室を見渡して、それから迷わず後ろへ向かった。
「おはよ」
「お、ユウ」
「昨日あれ見た?」
それだけで十分だ。座る場所はできる。笑う場所も、適当に相づち打つところも、すぐ決まる。
皆そうしてる。
俺もそうしてる。
ただ少し、それが上手いだけだ。
だから、大丈夫だと思ってる。
ちゃんと人と繋がれてるって。
少なくとも、誰もいないところに一人で立ってるよりは、ずっとましだって。




