花と貝がら
ナギと会うたび、俺は花を持っていった。
最初は手近に咲いているものを摘むだけだった。白い花、小さな薄紫の花、名前も知らない野の花。どれも村の娘に渡したところで大して喜ばれそうにないような、ありふれたものだったが、ナギは毎回、本当に嬉しそうに受け取った。
「海には、こういうの、あまりないの」
「貝だの海藻だのはあるだろ」
「ある。でも、花とは違う」
ナギはそう言って、花びらをそっと撫でた。
その指は、人間の女のものと変わらないように見えた。細く、きれいで、でもところどころに小さな切り傷があった。貝か岩でつけたのだろう。
「それ、痛そうだな」
俺が言うと、ナギは自分の指を見て少し笑った。
「海のものに切られた傷は、しみる」
「塩があるからな」
「シンも?」
「しょっちゅうだ」
俺が手のひらを見せると、ナギはそっと覗き込んだ。漁のせいで傷だらけの手だ。恥ずかしくて引っ込めようとしたが、ナギは気にした様子もなく、指先で古い傷の跡をなぞった。
「働く手」
そんなふうに言われたことはなかった。
俺は照れ隠しに、懐からもう一本花を出した。
「今日は二つだ」
「どうして」
「一本じゃ足りない気がした」
ナギは少し笑って、それを受け取った。代わりに貝がらを二つくれた。ひとつは薄青く、ひとつは縁だけ桃色をしていた。
「増えるな、これ」
「花も増えてる」
「そっちは枯れるだろ」
「じゃあ、覚えておく」
その言葉が妙に好きだった。
俺たちは、花と貝がらを交換した。
陸から海へ渡るもの。海から陸へ渡るもの。
そうしているうちに、会うこと自体が当たり前になった。今日も会えるか、明日も会えるか、そんなことを自然に考えるようになっていた。




