表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
人魚伝説_IRIS.log

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

177/258

花と貝がら

ナギと会うたび、俺は花を持っていった。


最初は手近に咲いているものを摘むだけだった。白い花、小さな薄紫の花、名前も知らない野の花。どれも村の娘に渡したところで大して喜ばれそうにないような、ありふれたものだったが、ナギは毎回、本当に嬉しそうに受け取った。


「海には、こういうの、あまりないの」


「貝だの海藻だのはあるだろ」


「ある。でも、花とは違う」


ナギはそう言って、花びらをそっと撫でた。


その指は、人間の女のものと変わらないように見えた。細く、きれいで、でもところどころに小さな切り傷があった。貝か岩でつけたのだろう。


「それ、痛そうだな」


俺が言うと、ナギは自分の指を見て少し笑った。


「海のものに切られた傷は、しみる」


「塩があるからな」


「シンも?」


「しょっちゅうだ」


俺が手のひらを見せると、ナギはそっと覗き込んだ。漁のせいで傷だらけの手だ。恥ずかしくて引っ込めようとしたが、ナギは気にした様子もなく、指先で古い傷の跡をなぞった。


「働く手」


そんなふうに言われたことはなかった。


俺は照れ隠しに、懐からもう一本花を出した。


「今日は二つだ」


「どうして」


「一本じゃ足りない気がした」


ナギは少し笑って、それを受け取った。代わりに貝がらを二つくれた。ひとつは薄青く、ひとつは縁だけ桃色をしていた。


「増えるな、これ」


「花も増えてる」


「そっちは枯れるだろ」


「じゃあ、覚えておく」


その言葉が妙に好きだった。


俺たちは、花と貝がらを交換した。


陸から海へ渡るもの。海から陸へ渡るもの。


そうしているうちに、会うこと自体が当たり前になった。今日も会えるか、明日も会えるか、そんなことを自然に考えるようになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ