表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
人魚伝説_IRIS.log

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/258

波打ち際のひと

次の日も、俺は同じ浜へ出た。


別に会いに行ったわけじゃない、と自分には言い聞かせていた。網の様子を見るついでだとか、波の具合を確かめるだけだとか、理由はいくらでもつけられた。


だが、姿を探していたのは本当だった。


彼女はいた。昨日より少し沖の岩陰に寄りかかるようにして、海を見ていた。俺に気づくと、尾びれがひとつゆるく揺れた。


「来た」


「たまたまだ」


「ふうん」


嘘だとばれているような返事だった。


俺が近づくと、彼女は昨日もらった花を手にして見せた。少ししおれていたが、まだ捨ててはいなかった。


「これ、好き」


「すぐ枯れるぞ」


「でも、咲いてた」


その言い方が妙にまっすぐで、俺は何も返せなくなった。


彼女の名はナギといった。俺が名乗ると、ナギは「シン」と小さく繰り返した。波の音に混じって、その呼び方だけがやけに耳に残った。


「おまえは、ずっとこの辺にいるのか」


「たぶん、シンが思ってるより広いところにいる」


「じゃあ、なんでこんな浅いとこまで来る」


「静かだから」


少し間を置いてから、ナギは付け足した。


「それに、きみがいるから」


胸の奥が、変なふうに熱くなった。


その日は長くは話さなかった。互いの名前を知って、少しだけ笑って、それだけだった。けれど帰るころには、昨日とは違っていた。波打ち際に人魚がいた、という奇妙な出来事ではなく、ナギというひとりの相手に会ったのだという感覚が、もう俺の中にあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ