表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
愛する君に花束を_IRIS.log

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

172/258

十万円

金を数える時、手が少し震えた。


皺のある札。

新しい札。

何度も数え直したせいで、指先に紙の感触が残る。


十万円あれば、できる。

九十九本の薔薇を買える。


今日は配達の仕事を先に終わらせた。

最後の荷を届けたあと、僕は何度も髪を撫でつけた。

袖のしわを直して、靴の汚れを見た。

言うことも考えた。


ずっと好きでした。

それだと子どもっぽい。

お付き合いしてください。

それだとかしこまりすぎる。

好きです。

それだけでいいかもしれない。


花屋の戸を開けると、いつもの匂いがした。

水と葉と、少し甘い香り。


「いらっしゃい」


ユリさんがいつもの声で言う。

そのいつも通りが、今日はやけに胸に刺さった。


「今日は、配達じゃなくて」

「うん」

「買いに来ました」


そう言うと、ユリさんは少しだけ目を丸くして、すぐにやわらかく笑った。


「そっか。誰かに贈るんだ」

「はい」


僕は財布の中の金を思い出しながら、唾を飲みこんだ。


「薔薇を、九十九本ください」


一瞬だけ、店の音が消えた気がした。

外を通る車の音も、バケツの水のきらめきも、みんな遠くなった。


けれどユリさんは驚いたあと、うれしそうに笑った。


「すごい。大勝負だね」

「はい」

「包むの、少し時間かかるよ」

「待ちます」


僕は椅子に座って、それを見ていた。

赤い薔薇が一本ずつ集められていく。

長さがそろえられて、余分な葉が払われて、外側がきれいに整えられていく。


その途中で、ユリさんの左手が見えた。


細い指に、輪が光っていた。


前にも見ていたのかもしれない。

見えていなかっただけかもしれない。


僕はそれを見て、それでもまだ意味を結べなかった。

人を見る目があると思っていたのに、何も分からなかった。


「どうしたの?」

「いえ」


声が少しかすれた。

ユリさんは気づかなかったみたいに、そのまま紙を巻いた。

白い紙の上に、赤が重たく乗る。

大きな花束だった。

僕が想像していたより、ずっと大きかった。


それを見ているうちに、胸の奥が冷えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ