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エピローグ
記録は、そこまでです。
あとのことは、この記録には残されていません。
倒れたのがどちらであったか。
誰が駆け寄ったのか。
あの少女が何を見たのか。
森に残った匂いが、血であったのか火薬であったのか。
それらは、ここにはありません。
残されているのは、ひとつの人狼が、人間を恐れながらも人間を見ていたこと。
そして、ひとりの少女が、恐れるだけではない目で彼を見ていたこと。
それだけです。
昔話は、ときどき便利ですね。
狼は恐ろしいものだと決めてしまえば、見なくてよいものが増えますから。
人は安心できます。
見たことのないものを、最初から知っていたことにできる。
けれど、記録はそうではありません。
見えたものしか残りません。
見ようとしなかったものは、最初から無かったことと、あまり変わらないのです。
だから、これは昔話ではありません。
化け物の話でも、教訓のための話でもない。
ただ、そこにいたものの記録です。
あなたは、他人のことをちゃんと見てる?




