表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
MiE〜美しくあるために〜6月号特集_IRIS.log

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

157/258

似合う女

彼が来る回数は、少しずつ減っていった。


最初は週に二回。次に週に一回。気づけば、来ると言って来ない日の方が多くなった。


『ごめん、仕事長引いた』

『今日はだるいからまた今度』

『友達と飲んでる』


私は毎回、分かったと返した。責めない。重くならない。そういう女の方が好かれると思っていたし、少なくとも捨てられにくいと思っていた。


実際には、追わない女は、追われないだけだった。


職場ではミホが異動になった。代わりに入った新人は私より若くて、覚えも早かった。接客中の笑顔も自然だった。私は少しだけ教えるふりをして、あとは店長の前でフォローしている顔をした。


「アヤさんって、面倒見いいですよね」


そう言われた時、私は反射みたいに笑った。


「まあ、頼られ慣れてるから」


口にした瞬間、自分で少し空しくなった。


誰に、だろう。


いつから、だろう。


その夜、大学時代の友達のひとりから個別に連絡が来た。


『最近どう? 元気?』


本当に心配しているような文面だった。


でも私は、そういう時ほど軽く返す。


『元気だよー! 仕事も順調だし、相変わらず忙しい笑』


少ししてから返事が来る。


『そっか、ならよかった』


それで終わり。


もしあの時、「全然だめ」「ちょっとしんどい」と返していたら、何か違ったんだろうか。たぶん違わない。あるいは違ったのかもしれない。でも私は試さない。弱っていると知られるのが嫌だった。手を差し伸べられて、それを受ける自分になるのがもっと嫌だった。


だから、私はいつも先に整える。


見苦しいところを隠して、無事な顔をして、だいじょうぶと言う。


彼から呼び出されたのは、金曜の夜だった。


少し洒落た店。照明が落ちていて、隣の席の会話も聞こえにくい。私はそういう場所が好きだった。綺麗に見えるから。


彼は水を一口飲んでから、あっさり言った。


「ごめん、たぶんもう無理」


一瞬、意味が分からなかった。


「え?」


「別に喧嘩したいわけじゃないんだけどさ。なんか、お前といても楽しくないんだよね」


お前。そう呼ばれたの、初めてかもしれない。


彼は続けた。


「いつもちゃんとしてるし、文句も言わないし、すごいとは思うんだけど。なんか、隙ないっていうか。正直、他の子の方が一緒にいて楽なんだわ」


他の子。


私はそこでようやく、ああ、と思った。


そういうことか。


「そっか」


自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。


「ごめんな」


「別に。いいよ」


私は笑った。泣かなかった。縋らなかった。やめてとも言わなかった。


そういうところだよな、と彼が少しだけ苦笑したのを覚えている。


店を出たあと、追いかけようとは思わなかった。


思わなかったんじゃない。思えなかった。


見栄が、先に立った。


捨てられた女が、往来でみっともなく男を追うなんて、そんなの絶対に嫌だった。


だから私は、まっすぐ駅まで歩いた。


家に帰って、玄関の灯りもつけないまま座り込んだ。


暗い部屋の中で、スマホだけが明るい。


投稿した写真には、たくさんのいいねがついていた。


『綺麗』

『憧れる』

『相変わらず素敵』


私はその文字を見て、少しだけ笑った。


ちゃんと綺麗に見えている。


なのに、どうしてこんなに空っぽなんだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ