似合う女
彼が来る回数は、少しずつ減っていった。
最初は週に二回。次に週に一回。気づけば、来ると言って来ない日の方が多くなった。
『ごめん、仕事長引いた』
『今日はだるいからまた今度』
『友達と飲んでる』
私は毎回、分かったと返した。責めない。重くならない。そういう女の方が好かれると思っていたし、少なくとも捨てられにくいと思っていた。
実際には、追わない女は、追われないだけだった。
職場ではミホが異動になった。代わりに入った新人は私より若くて、覚えも早かった。接客中の笑顔も自然だった。私は少しだけ教えるふりをして、あとは店長の前でフォローしている顔をした。
「アヤさんって、面倒見いいですよね」
そう言われた時、私は反射みたいに笑った。
「まあ、頼られ慣れてるから」
口にした瞬間、自分で少し空しくなった。
誰に、だろう。
いつから、だろう。
その夜、大学時代の友達のひとりから個別に連絡が来た。
『最近どう? 元気?』
本当に心配しているような文面だった。
でも私は、そういう時ほど軽く返す。
『元気だよー! 仕事も順調だし、相変わらず忙しい笑』
少ししてから返事が来る。
『そっか、ならよかった』
それで終わり。
もしあの時、「全然だめ」「ちょっとしんどい」と返していたら、何か違ったんだろうか。たぶん違わない。あるいは違ったのかもしれない。でも私は試さない。弱っていると知られるのが嫌だった。手を差し伸べられて、それを受ける自分になるのがもっと嫌だった。
だから、私はいつも先に整える。
見苦しいところを隠して、無事な顔をして、だいじょうぶと言う。
彼から呼び出されたのは、金曜の夜だった。
少し洒落た店。照明が落ちていて、隣の席の会話も聞こえにくい。私はそういう場所が好きだった。綺麗に見えるから。
彼は水を一口飲んでから、あっさり言った。
「ごめん、たぶんもう無理」
一瞬、意味が分からなかった。
「え?」
「別に喧嘩したいわけじゃないんだけどさ。なんか、お前といても楽しくないんだよね」
お前。そう呼ばれたの、初めてかもしれない。
彼は続けた。
「いつもちゃんとしてるし、文句も言わないし、すごいとは思うんだけど。なんか、隙ないっていうか。正直、他の子の方が一緒にいて楽なんだわ」
他の子。
私はそこでようやく、ああ、と思った。
そういうことか。
「そっか」
自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。
「ごめんな」
「別に。いいよ」
私は笑った。泣かなかった。縋らなかった。やめてとも言わなかった。
そういうところだよな、と彼が少しだけ苦笑したのを覚えている。
店を出たあと、追いかけようとは思わなかった。
思わなかったんじゃない。思えなかった。
見栄が、先に立った。
捨てられた女が、往来でみっともなく男を追うなんて、そんなの絶対に嫌だった。
だから私は、まっすぐ駅まで歩いた。
家に帰って、玄関の灯りもつけないまま座り込んだ。
暗い部屋の中で、スマホだけが明るい。
投稿した写真には、たくさんのいいねがついていた。
『綺麗』
『憧れる』
『相変わらず素敵』
私はその文字を見て、少しだけ笑った。
ちゃんと綺麗に見えている。
なのに、どうしてこんなに空っぽなんだろう。




