気に食わない相手
あの大柄な雄猫とは、何度か鉢合わせた。
魚屋の裏。空き地。古びた神社の石段。住宅街の外れの、ごみ捨て場の近く。どこで会っても、相手はいつも偉そうだった。堂々と道の真ん中を歩き、先にこちらを見つけると、喉の奥で低く鳴らす。
吾輩はああいう手合いが嫌いだ。
自分の体が大きければ、それだけで何でも通ると思っている。腕力の強い猫はたしかに強い。だが、それだけで偉いわけがない。路地裏は頭も使う。匂いの読み方も、逃げ方も、隠れ方も、全部いる。
なのにあいつは、ただ前から来る。
気に食わない。
何度目かに顔を合わせた時、向こうが先に吾輩の前足すれすれを踏み越えていった。わざとだ。体をぶつけるほどではない、だが無視とも言えない距離。挑発に決まっている。
吾輩は振り返り、声を張った。
相手も振り返る。
唸り合いはすぐに喧嘩へ変わる。人間の世界では何が正しいか知らないが、猫の世界ではこういう時、引いた方が負けだ。少なくとも、そういう気持ちになる。
飛びかかり、爪を立て、噛みつく。毛が舞い、地面に擦れる音がする。相手は重くて力があった。吾輩は素早い。正面から潰される前に横へ回り込み、肩に爪を入れる。だが相手も馬鹿ではない。振り向きざまに頭をぶつけられ、視界が揺れた。
その日は決着がつかなかった。互いに血を流し、離れた。
だが、終わっていないのは分かった。
次に会えば、もっとひどくなる。
それでも吾輩は、あの道を避けなかった。魚屋へ行く道だし、日向のいい塀にも近い。あいつがいるからといって譲る理由はない。譲ったら、本当に向こうの場所になってしまう。
何日かして、また女の子を見た。家の前でしゃがみ込み、今度は落ちた葉を集めている。妙な遊びだ。こちらに気づくと、ぱっと顔を上げた。
「ねこ」
そう言って指を差す。
失礼な話だ。猫なのは見れば分かる。
吾輩は知らん顔で通り過ぎる。だが、足元に何か落ちた。昨日の夕飯の残りらしい、小さな魚の欠片だった。
ちらりと見る。
女の子は少し離れた場所にいて、こちらを見ている。追いかけてくる気配はない。
吾輩は鼻をひくつかせた。食えそうだ。怪しい匂いもしない。
仕方なく食う。
それだけだ。決して懐いているわけではない。
食べ終わると、女の子が満足そうに頷いた。変な人間だ。こんな小さなことで嬉しそうにする。
だが、その後ろから出てきた大人の女は違った。吾輩を見るなり、困ったように眉を下げる。追い払うでもなく、近づくでもなく、ただ女の子に何か言った。たぶん、触っちゃ駄目とか、近づきすぎるなとか、そういうことだろう。
正しい言い分だ。野良は汚いし、噛むかもしれない。連中はそう考える。
別に構わない。吾輩も勝手に触られるのは嫌いだ。
ただ、女の子は少しだけ不服そうな顔をした。
その顔が、なんとなく印象に残った。




