139/258
プロローグ
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
何が正しいとか、正しくないとか、そんなものは知らない。そういう面倒なことは、たぶん人間が決めている。あれは駄目だとか、これは可哀想だとか、拾うべきだとか、見捨てるべきじゃないだとか、勝手に言っていればいい。
吾輩に分かるのは、腹が減ることと、寒い日は寒いということくらいだ。
腹が減れば食う。眠ければ寝る。危なければ逃げる。気に食わない相手には唸る。そうして生きていく。それで十分だと思っていた。
思っていた、というのは、つまりそうではない日が来たからだ。
その日まで、吾輩には名前がなかった。
そして、その日まで、帰る場所もなかった。




