表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
百物語_IRIS.log

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/258

百話目

これは、百物語をしていた話です。


集まっていたのは五人でした。放課後の教室で、机を寄せて、灯りをひとつだけ点けて、順番に怖い話をしていました。最初は笑っていました。途中で飽きる者もいると思っていました。けれど九十を越えるころには、全員が最後まで行くものだと理解していました。


百話目が近づくと、誰が何話目を話したのか、少しずつ曖昧になります。数え間違いではありません。順番の問題でもありません。ただ、もう十分に暗く、十分に遅く、十分に疲れていて、ひとつくらい多くても少なくても、その場では誰も気づけないだけです。


九十九話目が終わります。


そこで、誰かが次の話を始めます。


声は大きくありません。よく通る声でもありません。低くも高くもなく、聞き取りにくくもありません。ただ、話し始めたとき、全員が自然に耳を向けます。そういう声です。


話の内容は、こうです。


五人で百物語をしていた。放課後の教室で、机を寄せて、暗くして、順番に話していた。九十話を越えたころから、みんな少しずつ疲れていた。それでも百話目まではやろうと決めていた。


九十九話目が終わったあと、六つ目の声がした。


けれど、その場の五人は誰も驚かなかった。百話目に気を取られていたからです。怖い話を百まで積み上げたあとでは、知らない声が混じることより、最後の一話を聞き逃さないことの方が大事になります。


六つ目の声は、静かに話します。


五人で百物語をしていた。

放課後の教室で。

机を寄せて。

灯りをひとつだけ点けて。

九十九話が終わったあと、六つ目の声がした。


その声は、五人のうちの誰のものでもない。


けれど話し終わるまで、誰もそれに気づかない。


話が終わって、ようやく誰かが言う。


――いまの話、誰?


すると五人とも、自分ではないと言う。


そこでやっと、五人は数え直す。

僕。

俺。

ぼく。

私。

ウチ。


五つしかありません。


なのに、さっきの話は、たしかに誰かが話していました。


その時にはもう、教室のどこにもいません。


最初からいなかったものは、帰りません。

最初から数に入っていなかったものは、抜けても減りません。

ただ一話だけ、きれいに置いていきます。


それが百話目です。


話はそこで終わりました。


教室には、しばらく何も聞こえませんでした。


それからようやく、引きつったような笑い声がひとつ上がりました。


「……今の、誰?」


誰も答えなかった。


「え、待って、今の誰?」


「俺じゃない」


「僕でもない」


「ウチも違う」


「ぼくじゃない」


「私も話してない」


五人とも、そこで初めて顔を上げた。


輪の中を見た。

机を見た。

空いた椅子はなかった。

最初から椅子は五つだけだった。


外は暗い。

教室の戸は閉まっている。

開いた音はしなかった。


誰も動かなかった。

動けなかったわけではなく、ただ、ここで何かを確かめるのがよくないと、五人とも同じように思っただけだった。


灯りだけが机を照らしていた。


その小さな光の輪の外側は、どこまで行っても教室の暗さしかないはずなのに、その時だけは、暗さの方が少し近かった。


誰も次の話はしなかった。


百話目で終わりにする、と最初に決めていたからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ