百話目
これは、百物語をしていた話です。
集まっていたのは五人でした。放課後の教室で、机を寄せて、灯りをひとつだけ点けて、順番に怖い話をしていました。最初は笑っていました。途中で飽きる者もいると思っていました。けれど九十を越えるころには、全員が最後まで行くものだと理解していました。
百話目が近づくと、誰が何話目を話したのか、少しずつ曖昧になります。数え間違いではありません。順番の問題でもありません。ただ、もう十分に暗く、十分に遅く、十分に疲れていて、ひとつくらい多くても少なくても、その場では誰も気づけないだけです。
九十九話目が終わります。
そこで、誰かが次の話を始めます。
声は大きくありません。よく通る声でもありません。低くも高くもなく、聞き取りにくくもありません。ただ、話し始めたとき、全員が自然に耳を向けます。そういう声です。
話の内容は、こうです。
五人で百物語をしていた。放課後の教室で、机を寄せて、暗くして、順番に話していた。九十話を越えたころから、みんな少しずつ疲れていた。それでも百話目まではやろうと決めていた。
九十九話目が終わったあと、六つ目の声がした。
けれど、その場の五人は誰も驚かなかった。百話目に気を取られていたからです。怖い話を百まで積み上げたあとでは、知らない声が混じることより、最後の一話を聞き逃さないことの方が大事になります。
六つ目の声は、静かに話します。
五人で百物語をしていた。
放課後の教室で。
机を寄せて。
灯りをひとつだけ点けて。
九十九話が終わったあと、六つ目の声がした。
その声は、五人のうちの誰のものでもない。
けれど話し終わるまで、誰もそれに気づかない。
話が終わって、ようやく誰かが言う。
――いまの話、誰?
すると五人とも、自分ではないと言う。
そこでやっと、五人は数え直す。
僕。
俺。
ぼく。
私。
ウチ。
五つしかありません。
なのに、さっきの話は、たしかに誰かが話していました。
その時にはもう、教室のどこにもいません。
最初からいなかったものは、帰りません。
最初から数に入っていなかったものは、抜けても減りません。
ただ一話だけ、きれいに置いていきます。
それが百話目です。
話はそこで終わりました。
教室には、しばらく何も聞こえませんでした。
それからようやく、引きつったような笑い声がひとつ上がりました。
「……今の、誰?」
誰も答えなかった。
「え、待って、今の誰?」
「俺じゃない」
「僕でもない」
「ウチも違う」
「ぼくじゃない」
「私も話してない」
五人とも、そこで初めて顔を上げた。
輪の中を見た。
机を見た。
空いた椅子はなかった。
最初から椅子は五つだけだった。
外は暗い。
教室の戸は閉まっている。
開いた音はしなかった。
誰も動かなかった。
動けなかったわけではなく、ただ、ここで何かを確かめるのがよくないと、五人とも同じように思っただけだった。
灯りだけが机を照らしていた。
その小さな光の輪の外側は、どこまで行っても教室の暗さしかないはずなのに、その時だけは、暗さの方が少し近かった。
誰も次の話はしなかった。
百話目で終わりにする、と最初に決めていたからだった。




