表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
百物語_IRIS.log

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/258

九十九話目まで

八十話を越えるころ、教室の外はすっかり夜だった。


見回りの教師は来なかった。廊下の向こうから物音もしない。校舎全体がもう眠っていて、この教室だけが起きているように感じられた。


「はい、八十一。俺いきます」


勢いのある声は、もう最初ほど軽くなかった。


話したのは、古いアパートの郵便受けの話だった。

引っ越してきたばかりの部屋の郵便受けに、毎朝、自分の名前だけが書かれた白紙の封筒が入っている。捨てても燃やしても、次の日また届く。ある朝とうとう中を開いたら、小さく一文だけ書いてある。


――まだここにいるんだね


「それ、地味にやだ」


「やめて、郵便受け見れなくなる」


「次、私」


八十六話目は、踏切の話だった。


夜中、遮断機も鳴っていないのに、一人だけ踏切の前でずっと待っている女がいる。追い越すと、次の踏切にも、その次の踏切にも、同じ女がいる。


九十話目では、ウチが笑いながら話し始め、途中から笑わなくなった。


祖母の家に泊まったとき、夜中に二階から何か重いものを引きずる音がした。朝になって祖母に聞くと、「あそこはもう階段を外した」と言われた、という話だった。


「……あと何話?」


「九十二」


「うわ」


「ここまで来たら逆に短い」


「短いって言うな」


九十三、九十四、九十五。


ぼくは、夕方の公園の砂場に埋まっていた手の話をした。

僕は、アパートのベランダに干していない服が揺れている話をした。

俺は、友達の家で撮った集合写真にだけ、自分の顔が毎回違う話をした。


それから、九十九話目まで一気に進んだ。


九十六話目。

九十七話目。

九十八話目。


九十九話目は、私だった。


夜の図書館で、貸出記録にない本を見つける話。背表紙に題名もなく、開くたびに一ページだけ増えている本。その増えた一ページには、次に図書館へ来る人間の名前が書いてある。最後にめくられたページには、自分の名前と、来館時刻が今日の時刻で載っていた、という話だった。


話が終わると、誰もすぐに動かなかった。


「……終わった?」


「いや、まだ」


「百、だれ」


「順番的に……」


そこで、輪の上に短い沈黙が落ちた。


誰が話す番か、みんな分かっているようで、分かっていないようだった。ここまで順番は崩れずに回っていたはずなのに、九十九話目のあとで、妙に数え方が曖昧になっていた。


「え、次、誰だっけ」


「僕?」


「いや、さっき話してなかった?」


「俺じゃない」


「ウチも違う」


「ぼくも……たぶん」


たぶん、という言葉だけが、場に細く残った。


そのあと、誰も何も言わないうちに、話が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ