プロローグ
放課後の教室には、まだ昼の熱が少しだけ残っていた。
窓の外はもう暗い。校庭の端にある木々は風に揺れているのに、ガラスの内側は妙に静かだった。黒板の上の時計だけが、規則正しく秒を刻んでいる。
机は五つ、輪になるように寄せられていた。
「で、ほんとにやるの?」
軽い調子の声がした。
「やるって言ったじゃん。今日、先生も見回り遅いし」
「百話って、ほんとに百までやるの?」
「途中で帰るとかナシね」
「まあ、怖くなったら言って。電気つけるから」
「最初の一話、誰にする?」
五人は、それぞれ少しずつ違う顔つきで笑っていた。怖いもの見たさと、退屈しのぎと、放課後を長引かせたい気持ちと、そういうものがちょうどよく混ざった笑い方だった。
誰かが言った。
「そうだ。最初、景気づけに、あの話しようよ。狂った道化師の話」
「ああ、知ってる。テレビでやってたやつでしょ?」
「この前の特番のやつじゃん」
「それ怖い話っていうか事件の再現じゃない?」
「じゃあ別の話するね」
それで決まった。
怖い話は、もっと古くて、もっと曖昧で、ほんとうか嘘か分からないものの方がいい。そういう空気が、輪の中にゆっくり落ちていった。
窓際の机に置かれた小さな灯りだけが、五人の顔を下から照らしている。明るすぎず、暗すぎず、輪郭だけを残す光だった。
百物語は、そうして始まった。




