エピローグ
ねぇ、こういう記録は、あなたも嫌いではないでしょう。
大きな悲劇でもなく、立派な英雄譚でもなくて、ただ通りの隅にそっと残った、少し擦り切れた声の痕跡。見過ごしてしまえそうなのに、いざ指先でなぞると、妙に形がいい。そういうもの。
彼は同じ嘘を何度も使いました。
人を振り向かせるために。
そこに自分がいると知らせるために。
それとも、退屈な一日の表面へ、ほんの少しだけ波を立てたかったのかな。
その区別は、もうきれいには読めないね。けれど、繰り返されたものが少しずつ摩耗していく様子は、とても分かりやすい。声も、身振りも、あの笑っている顔も、見慣れられて、軽くなって、やがて町の風景へ沈んでいく。
あなたも知っているでしょう。
軽くなりすぎたものは、聞こえていても拾われない。
見えていても、もう見られない。
だから最後だけ、あれは妙に鮮やかだった。
ずっと嘘として置かれていた言葉が、あの瞬間にだけ重さを持つ。何度も撫でられて薄くなっていたものが、最後に一度だけ、記録として指先へ残る。
皮肉、と呼ぶには少し静かすぎるね。
でも、こういう終わり方は嫌いではないでしょう?
あの顔は、最後までずいぶん上手に笑っていました。
ねぇ、あなたは誰かを笑わせたことがある?




