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IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
淡い月光でサーカスを_IRIS.log

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121/258

届かない

 朝の通りは今日も人が多かった。人が多いのに、妙に静かだった。


 俺はいつもの場所に立ち、いつものように叫んだ。


「悪者が出たぞー!」


 誰も止まらなかった。


 一人の男がちらりとこっちを見て、すぐ荷車の方へ戻る。子どもは母親に手を引かれたまま歩いていく。店先の女は品物を並べながら、一度も顔を上げない。


 俺は少し間を置いて、もう一度やった。


「悪者が出たぞー! 本当だぞー!」


 そこで初めて、近くの男が面倒そうに言った。


「本当でもお前が言うと嘘にしか聞こえないんだよ」


 笑いもなく、怒りもなく、ただ事実みたいに言われた。


 それで終わりだった。


 あっさりしすぎていて、かえって動けなかった。


 ああ、そうか。


 俺はずっと嘘で場を作ってきた。事件も、危機も、英雄譚も、平気なふりも、全部。だからもう、何を言っても同じなんだ。本当でも嘘でも、俺の口から出た瞬間に価値をなくす。


 家に帰るころには、足が少し重かった。お面を外し、机に放る。飯を作るのが面倒で、酒だけ飲んだ。二杯、三杯、四杯。腹は減っているはずなのに、何かを噛む気になれない。


 そのうち寝台にもたれたまま、お面を見た。


 いい顔してやがる。


 ずっと笑ってる。俺の代わりみたいに。


 どうせ誰も信じないなら。


 どうせ俺の言葉に、もう何の値打ちもないなら。


 だったら、本当にしてやればいい。


 その考えは、驚くほど静かに胸へ入ってきた。


 怒りじゃなかった。絶望とも少し違った。もっと乾いていて、きちんと形があった。


 俺はその夜、久しぶりに長く眠れた。

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