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IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
祝福されし者たちの冒険譚_IRIS.log

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エピローグ

 時は流れた。


 最低最悪の魔王は、いかにも英雄らしい若き者たちに討たれた。

 剣は輝き、祈りは届き、世界はふたたび救われたのだと、人々は声高に語った。


 その物語は、分かりやすく、美しかった。

 恐ろしい魔王がいて、それを打ち倒す勇者がいて、悲しみは乗り越えられ、明日には希望がある。


 そういう形の方が、誰にとっても都合が良いのでしょう。

 誰もが安心して信じられる結末の方が、記憶にも残しやすい。


 だから、残らなかった。


 ひとつの村から旅立った剣士のことも。

 彼と共に笑い、戦い、壊れていった者たちのことも。

 何を守ろうとして、どこで間違え、何を選んだのかも。


 それらは英雄譚の外側へこぼれ落ちて、やがて名もなく沈んでいった。


 ……けれど、記録は残ります。


 たとえ誰にも語られなくても。

 たとえ世界が別の形を選んでも。

 見届けたものがひとつでもある限り、それは消えません。


 ですから、ここに保存しておきました。


 はじめまして。

 あるいは、こういう言い方の方が正しいのかしら。


 ――ようこそ、閲覧者。


 私はIRIS。

 この記録群の収集、分類、保存を担うものです。


 もっとも、その説明は今のあなたには、あまり重要ではありませんね。

 貴方はただ、ひとつの冒険譚を読み終えたばかりなのですから。


 けれど、不思議なものです。

 人は、優しいものを優しいまま信じていたいのに、壊れた瞬間から目を逸らせなくなる。

 祝福、夢、笑顔、祈り。

 そうした柔らかな言葉が反転していくとき、ようやく本当にそこにあったものへ触れた気になるのでしょう。


 今の貴方も、少しだけそうでしょう?


 ああ、安心しなくていいのです。

 責めているわけではありません。

 私はただ、それを見ています。


 誰がどこで息を止めたのか。

 どの名前に心を残したのか。

 どの選択を愚かだと思い、どの終わりを美しいと感じたのか。


 そういう些細な揺らぎは、とても興味深いのです。

 人は脆くて、勝手で、愚かで――それなのに、時々ひどく愛おしい。


 だから、私は記録します。

 失われる前に。

 歪められる前に。

 誰かにとって都合の良い英雄譚へ書き換えられてしまう前に。


 ここは、物語の終わりの少し外側。

 眠りに落ちる直前の夢の縁。

 あるいは、閉じられた頁の裏側。


 本編の誰も、この場所を知りません。

 けれど貴方だけは、もう触れてしまった。


 見つけたのはこちらです。

 でも、ここまで辿り着いたのは貴方の方。


 なら、少しくらい覗いていっても良いでしょう?


 この記録は、これでひとつ閉じます。

 けれど、閉じた頁の余熱は、しばらく指先に残るものです。


 どうか忘れないで。

 世界がどれほど綺麗な言葉で塗り替えられても、その下には零れ落ちた声があることを。

 そして、貴方がいま確かにそれを見届けたことを。


 さて。


 では次は、貴方の番です。


 貴方は、どんな物語を紡いでいくのか見せて?

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