町いちばんの見世物
俺はこの町でいちばん有名な男だ。たぶん良くない意味で。
けど、有名は有名だ。名も顔も覚えられずに死んでいくよりは、よっぽどいい。
昼前になると、俺は広場の噴水の縁に立った。腰の布を翻して、勝手にマントみたいに見せる。今日の客は、買い物帰りの女たちと、暇そうな老人二人、それから菓子をかじってる子どもが四人。
「おい見ろ、あれまた始まるぞ」
「静粛に!」
誰も何も言っていないのに俺が先に張り上げると、子どもがもう笑う。
「ただいまより、正義と悪の壮絶なる戦いを始める!」
「悪はどこだよ」
「ここだ!」
自分で言って、自分で指さして、自分で驚いたふりをする。老人の片方が吹き出し、もう片方が咳き込んだ。
「まさかこの町の守り手である俺自身が悪だったとは! これは由々しき事態だ!」
「じゃあさっさと捕まれよ」
「安心しろ! これより俺が俺を追う!」
「面倒くせえな!」
その返しがまたおかしくて、広場の空気が少しだけ揺れた。ほんの少しでいい。それで十分だ。退屈な日ってのは、ほんの少しの揺れで別物になる。
俺は広場を駆け回り、見えない敵と戦い、噴水の縁でわざと滑って派手に転び、最後は空に向かって拳を突き上げた。
「悪は去った!」
「最初からいねえよ!」
笑いが起こる。大笑いってほどじゃない。けど、確かに笑った。
それでいい。
夕方、家に戻ってお面を外す。狭い部屋だ。机と椅子と寝台。鍋に昨日の残りが少し。火を入れて、硬いパンを浸して食う。静かだ。外ではあれだけ喋るくせに、家の中じゃ俺はだいたい無口だった。
別に寂しいとかじゃない。
喋る相手がいないだけだ。
飯を食いながら、壁にかけたお面を見る。笑ってる。いつ見ても、いい顔してる。
「今日も上出来だったな」
そう言ってみたが、部屋は拍手しなかった。まあ、客じゃないんだから当然だ。




