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IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
淡い月光でサーカスを_IRIS.log

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118/258

町いちばんの見世物

 俺はこの町でいちばん有名な男だ。たぶん良くない意味で。


 けど、有名は有名だ。名も顔も覚えられずに死んでいくよりは、よっぽどいい。


 昼前になると、俺は広場の噴水の縁に立った。腰の布を翻して、勝手にマントみたいに見せる。今日の客は、買い物帰りの女たちと、暇そうな老人二人、それから菓子をかじってる子どもが四人。


「おい見ろ、あれまた始まるぞ」

「静粛に!」


 誰も何も言っていないのに俺が先に張り上げると、子どもがもう笑う。


「ただいまより、正義と悪の壮絶なる戦いを始める!」

「悪はどこだよ」

「ここだ!」


 自分で言って、自分で指さして、自分で驚いたふりをする。老人の片方が吹き出し、もう片方が咳き込んだ。


「まさかこの町の守り手である俺自身が悪だったとは! これは由々しき事態だ!」

「じゃあさっさと捕まれよ」

「安心しろ! これより俺が俺を追う!」

「面倒くせえな!」


 その返しがまたおかしくて、広場の空気が少しだけ揺れた。ほんの少しでいい。それで十分だ。退屈な日ってのは、ほんの少しの揺れで別物になる。


 俺は広場を駆け回り、見えない敵と戦い、噴水の縁でわざと滑って派手に転び、最後は空に向かって拳を突き上げた。


「悪は去った!」

「最初からいねえよ!」


 笑いが起こる。大笑いってほどじゃない。けど、確かに笑った。


 それでいい。


 夕方、家に戻ってお面を外す。狭い部屋だ。机と椅子と寝台。鍋に昨日の残りが少し。火を入れて、硬いパンを浸して食う。静かだ。外ではあれだけ喋るくせに、家の中じゃ俺はだいたい無口だった。


 別に寂しいとかじゃない。


 喋る相手がいないだけだ。


 飯を食いながら、壁にかけたお面を見る。笑ってる。いつ見ても、いい顔してる。


「今日も上出来だったな」


 そう言ってみたが、部屋は拍手しなかった。まあ、客じゃないんだから当然だ。

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