人の命
映像は、そのまま実戦記録へ移った。
制圧後の街並みらしかった。崩れた壁。黒ずんだ石畳。逃げ惑う影。兵たちは整然と進んでいく。画面は落ち着いていて、記録としては見やすい。だからこそ、余計に嫌な感じがした。
逃げる男が一人、振り返る。
兵が銃を構える。
乾いた音。
男が倒れる。
その場の誰も、大きな反応はしなかった。画面の中の兵は次へ進む。記録は記録として流れ続ける。だが俺の目は、別のものを見ていた。
銃口の下の金具。
装着部の癖。
銃剣の留め具。
軍剣の反り。
見間違えるはずがねぇ。
俺が基準を引いた形だ。
俺が良しとした寸法だ。
俺が何度も何度も直して、これなら使えると通したものだ。
それが、人を殺した。
次の場面。
近距離。銃剣。突き出される刃。
短い悲鳴。
倒れる体。
俺の喉の奥が、急に乾いた。
「さすがですな」
隣で案内役が言った。
「現場からの信頼も厚い。使い勝手が戦果に直結しています」
戦果。
その言葉が、妙に硬く耳に残った。
画面の中では、兵が軍剣を抜いていた。刃の重心がいいから、振り抜きがぶれない。あれも俺が調整した。握りの太さも、手の大きい兵向けに少し削った。切るために、扱いやすくした。
それを見ながら、俺は何も言えなかった。
間違っていた、とは言えない。
だって俺は、手を抜かなかっただけだ。
使う奴に応えるように作っただけだ。
いいもんを出しただけだ。
なのに、画面の中で人が死ぬたび、その全部が俺の手元まで戻ってくる気がした。
映像が終わった。
明るい室内に戻る。
案内役が何か称賛の言葉を口にしていた。帝国への貢献だの、職人の誇りだの、立派なことを並べていた。ガドも、最初は何か言おうとした気配があったが、結局黙った。
「……もういい」
俺はそれだけ言って立ち上がった。
帰り道、ガドは珍しく静かだった。
何度か口を開きかけて、やめていた。俺も話したくなかった。風が冷たい。石畳を踏む音ばかりが妙に響く。
工房に戻ると、炉の前がいつも通りそこにあった。
途中まで仕上げた鍋。
研ぎ待ちの包丁。
納品前の軍剣。
どれも、俺の手が入るのを待っている。
俺は自分の手を見た。
節くれ立って、傷だらけで、焼け跡も残っている。
鍋を作ってきた手だ。
包丁を作ってきた手だ。
軍剣を作ってきた手だ。
同じ手だった。
誇りを捨てる気にはなれなかった。
あの映像を見たからって、今さら自分の仕事が全部汚れたとも思えねぇ。俺はいいもんを作ってきた。それは事実だ。
だが、もう前みてぇに真っ直ぐ持てる気もしなかった。
炉の火が揺れる。
赤い。
静かで、熱くて、きれいだった。
俺はしばらく、その火を見ていた。




