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IRIS-Log-Archive  作者: IRIS
手に誇りを、心に鉄を_IRIS.log

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115/258

人の命

 映像は、そのまま実戦記録へ移った。


 制圧後の街並みらしかった。崩れた壁。黒ずんだ石畳。逃げ惑う影。兵たちは整然と進んでいく。画面は落ち着いていて、記録としては見やすい。だからこそ、余計に嫌な感じがした。


 逃げる男が一人、振り返る。

 兵が銃を構える。


 乾いた音。


 男が倒れる。


 その場の誰も、大きな反応はしなかった。画面の中の兵は次へ進む。記録は記録として流れ続ける。だが俺の目は、別のものを見ていた。


 銃口の下の金具。

 装着部の癖。

 銃剣の留め具。

 軍剣の反り。


 見間違えるはずがねぇ。

 俺が基準を引いた形だ。

 俺が良しとした寸法だ。

 俺が何度も何度も直して、これなら使えると通したものだ。


 それが、人を殺した。


 次の場面。

 近距離。銃剣。突き出される刃。

 短い悲鳴。

 倒れる体。


 俺の喉の奥が、急に乾いた。


「さすがですな」

 隣で案内役が言った。

「現場からの信頼も厚い。使い勝手が戦果に直結しています」


 戦果。


 その言葉が、妙に硬く耳に残った。


 画面の中では、兵が軍剣を抜いていた。刃の重心がいいから、振り抜きがぶれない。あれも俺が調整した。握りの太さも、手の大きい兵向けに少し削った。切るために、扱いやすくした。


 それを見ながら、俺は何も言えなかった。


 間違っていた、とは言えない。

 だって俺は、手を抜かなかっただけだ。

 使う奴に応えるように作っただけだ。

 いいもんを出しただけだ。


 なのに、画面の中で人が死ぬたび、その全部が俺の手元まで戻ってくる気がした。


 映像が終わった。


 明るい室内に戻る。

 案内役が何か称賛の言葉を口にしていた。帝国への貢献だの、職人の誇りだの、立派なことを並べていた。ガドも、最初は何か言おうとした気配があったが、結局黙った。


「……もういい」

 俺はそれだけ言って立ち上がった。


 帰り道、ガドは珍しく静かだった。

 何度か口を開きかけて、やめていた。俺も話したくなかった。風が冷たい。石畳を踏む音ばかりが妙に響く。


 工房に戻ると、炉の前がいつも通りそこにあった。

 途中まで仕上げた鍋。

 研ぎ待ちの包丁。

 納品前の軍剣。

 どれも、俺の手が入るのを待っている。


 俺は自分の手を見た。


 節くれ立って、傷だらけで、焼け跡も残っている。

 鍋を作ってきた手だ。

 包丁を作ってきた手だ。

 軍剣を作ってきた手だ。


 同じ手だった。


 誇りを捨てる気にはなれなかった。

 あの映像を見たからって、今さら自分の仕事が全部汚れたとも思えねぇ。俺はいいもんを作ってきた。それは事実だ。


 だが、もう前みてぇに真っ直ぐ持てる気もしなかった。


 炉の火が揺れる。

 赤い。

 静かで、熱くて、きれいだった。


 俺はしばらく、その火を見ていた。

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