酒と自慢
久しぶりに会ったガドは、相変わらずでかい声で笑う男だった。
「おいジン、顔がいいな。てめぇ、なんかあっただろ」
「顔で分かるかよ」
「分かるね。職人の面じゃねぇ。今日はただのご機嫌じじいだ」
酒場の木椅子に腰を下ろしながら、ガドがにやにやとこっちを見る。腹の立つ顔だが、久しぶりに見りゃ少し懐かしくもある。こいつとは若い頃からの付き合いだ。鍛冶はやらねぇが、手を使う仕事にゃうるさい。だからこそ、話していて楽なところもある。
「軍から仕事が来た」
俺が言うと、ガドの眉がぴくりと上がった。
「ほう」
「でけぇ口だ」
「ほうほう」
「監修だとよ。銃の基本部、銃剣、軍剣。まとめて質を引き上げてほしいんだとさ」
「はっ」
ガドが吹き出した。
「そりゃ帝国さんもようやく目が覚めたな。お前使わねぇで誰使うんだって話だ」
そう言われると悪い気はしない。
いや、正直に言やぁ、かなり気分はいい。
俺は自分の腕を安く見積もる趣味はねぇ。いいもんを作ってきた自負がある。街の連中の鍋も包丁も、兵の刃物も、みんな俺の工房から出たもんだ。それでも軍がこうしてわざわざ頭を下げて来るってのは、やっぱり格が違う。
酒がうまい夜だった。
「聞いたか、王国はもう終わりだとよ」
隣の卓から、そんな声がした。
「城まで燃えたって話だ」
「赤かったろうなあ」
「帝国様々だ」
下卑た笑いが混ざる。
ガドが肩をすくめた。
「景気のいい話だか悪い話だか、分かんねぇな」
「俺たちにゃ遠い話だ」
「遠いか?」
「遠いさ」
そう答えながらも、酒場の熱気の奥に、妙な張りつめ方があるのは分かった。兵の数が増えた。酒の席でも軍の話が増えた。町が少しずつ、戦の方へ向いている。そういう空気だ。
だが、その時の俺にとっちゃ、それより自分の仕事の方が大事だった。
「で、どれくらいの数を回すんだ」
ガドが身を乗り出す。
「相当だ。量産の監修だからな」
「気が遠くなるな」
「数が増えようが、質は落とさん」
「言うねぇ」
「言うんじゃねぇ、やるんだよ」
俺が杯を空けると、ガドは楽しそうに笑った。
「そういうとこだよ、ジン。だからお前の作るもんは信用できる」
その言葉は、酔いより深く胸に残った。




