会える夜
眠るのが楽しみになるなんて、変だと思う。
昼の私は、ちゃんと学校へ行って、ちゃんと笑って、ちゃんとごはんを食べる。けれど、その全部が夜までの時間みたいになっていった。早く夜にならないかな。早く眠れないかな。そう思ってしまう。
夢の中で会えるからだ。
お姉ちゃんは、会うたび昔みたいだった。
私しか知らないと思っていたことを、お姉ちゃんはちゃんと覚えている。私が小さい頃にお気に入りだったぬいぐるみの耳を噛みちぎって、怒られる前に一緒に隠したこと。苦い野菜が嫌いで、いつもお姉ちゃんのお皿にこっそり移していたこと。お祭りの日に迷子になって、私よりお姉ちゃんの方が泣いていたこと。
「そんなの、私が覚えてなくても、お姉ちゃんなら覚えてるか」
そう言うと、お姉ちゃんは笑った。
「ユナが忘れてても、私が覚えてればいいでしょう」
「ずるい」
「何が?」
「そういうこと言うの」
言いながら、少し泣きそうになった。
私は何度も考えた。
これは本当にお姉ちゃんなんだろうか。
それとも、私が会いたすぎて作った、都合のいいお姉ちゃんなんだろうか。
だって、あまりにも優しいから。
あまりにも欲しい言葉をくれるから。
でも、ときどき私の知らない話が混ざることがあった。
お姉ちゃんが昔書いていた日記のこと。私が勝手に覗こうとして見つからなかったこと。私が知らないと思っていた、私の癖のこと。そういうのを自然に口にするたび、私は考え込んでしまう。
私が勝手に作った夢なら、こんなふうに私の外側にあるものまで混ざるだろうか。
ある夜、私はIRISに聞いた。
「これ、本当にお姉ちゃんなの」
IRISは少し離れたところでこちらを見ていた。
白いドレスの裾が、風もないのに少しだけ揺れて見えた。
「ユナにとって、どちらであれば満足なの?」
「そういうことじゃなくて」
「そういうことよ」
淡々と返される。
腹が立つわけじゃない。ただ、簡単には触らせてくれない感じがあった。
「でも、会えてる」
私がそう言うと、IRISは一度だけ瞬きをした。
「ええ」
肯定はそれだけだった。
その夜、私はお姉ちゃんと星の話をした。
小さい頃に一緒に見た空のこと。お姉ちゃんは、あの時ユナは星より私の指の先を見てたよ、と笑った。そんな細かなことまで覚えているんだ、と思って、やっぱりこれはただの夢じゃない気がした。
夜だけでいい。
夢の中だけでいい。
このままずっと会えたらいいのに。
私は本気でそう思ってしまった。




