夢の中の姉
その日も、いつも通りの一日だった。
学校へ行って、授業を受けて、友達と少し話して、家に帰る。別に嫌なことがあったわけじゃない。楽しいことがあったわけでもない。ただ、ちゃんと過ぎていく日だった。
こういう日が、いちばん困る。
何もない日は、余計に空いた場所が目立つからだ。
家に帰って、鞄を置いて、部屋着に着替える。台所から夕飯の匂いがしていた。母さんの声も、父さんの咳払いも、テレビの小さな音も聞こえる。ちゃんと家なのに、ときどき自分だけ別のところにいるみたいに感じることがあった。
夕飯のあと、宿題をして、歯を磨いて、布団に入る。
眠る前に、なんとなくカーテンを少しだけ開けた。
夜空には星が出ていた。
綺麗、と思うより先に、お姉ちゃんが見たら何て言うかなと思った。
そういうところが、自分でも少しおかしいと思う。いない人の反応を、ずっと考えてしまうなんて。
けれど、そのまま目を閉じたら、夢を見た。
お姉ちゃんがいた。
最初からそこにいるのが当たり前みたいに、静かな場所に立っていた。家の近所でもない、知らない場所だった。白っぽい光のある、境目のぼやけたところ。床なのか地面なのかも分からないのに、なぜか不安はなかった。
「お姉ちゃん」
私が呼ぶと、お姉ちゃんは振り向いた。
見慣れた顔だった。
少し笑う時の目元も、そのままだった。
「ユナ」
「……ほんとに?」
何が、とは聞けなかった。
会いたかった、の方が先だったからだ。
「会いたかった」
「うん」
「ずっと」
「知ってるよ」
お姉ちゃんは昔みたいな声でそう言った。
私はそれだけで泣きそうになったけど、泣いたら消えてしまう気がして、必死にこらえた。
何を話したか、細かくは覚えていない。
たぶん、本当にどうでもいいことばかりだった。学校のこと。最近見たテレビのこと。帰り道で猫を見たこと。そんなの、誰に話したっていいようなことばかり。
でも、それが嬉しかった。
もう一度、お姉ちゃんとどうでもいい話ができるなんて思っていなかったから。
目が覚めた時、朝だった。
天井を見上げたまま、しばらく動けなかった。
夢だったのかな、と思う。けど、あまりにもはっきりしていた。お姉ちゃんの声も、髪の流れも、名前を呼ばれた時の感じも、全部鮮明だった。
夢にしては、できすぎていた。
それでも、夢だったとしてもよかった。
会えたことが嬉しかったから。
その日一日、私は少しだけ楽だった。




