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「暑い。暑すぎるだろ、これ」
俺は、あまりの直射日光の強さに、思わず額の汗を拭った。
北の凍土での決戦を終え、王都のサウナでととのったのも束の間。
俺たち一行が降り立ったのは、南方に位置する常夏の楽園。
絶海の孤島「ソル・マリーナ」だった。
青い空、白い砂浜、そしてどこまでも透き通るエメラルドグリーンの海。
本来ならバカンスに最高のロケーションなのだが、今のこの島は、お世辞にも楽園とは呼べない異常事態に陥っていた。
「はぁはぁ。コウイチ、これ、北の吹雪より堪えるわよ」
ライラが、愛用の双剣を杖代わりにして砂浜に膝をついた。
「わふぅ」
シロも自慢のふかふかの毛皮が災いしてか、舌をだらりと伸ばして完全にバテている。
プニに至っては、暑さで水分が蒸発し始めているのか、心なしかサイズが二回りほど小さくなり、プルプルというよりは「デロリ」と地面に溶けかかっていた。
「皆さん、これを受け取ってください。特製の『氷結結界ミスト』です!」
フィンがリュックから魔法の霧吹きを取り出し、俺たちにシュッと冷気を浴びせてくれる。
「あわわ、気休め程度ですけど。でも、異常ですよ。この海域の温度、既に四十度を超えています!」
「道理で、潮風がサウナの熱風みたいだと思ったわ」
エルザが杖を掲げて冷却魔法を維持しているが、彼女の顔も真っ赤だ。
俺たちがこの島に呼ばれた理由は、ギルドからの緊急要請だった。
南の海を司る守護聖獣『リヴァイアサン・スカーレット』が、突如として暴走を始めたらしい。
本来は穏やかな海龍なのだが、海底火山の活発化に伴う海水の急上昇により、龍自身が「熱中症」のような状態に陥り、狂乱。
煮え立つ海から巨大な高熱の波を撒き散らし、周囲の海洋都市を壊滅させようとしているのだ。
「おーい、あんたたち! 準備ができたよ!」
浜辺のパラソルの下で、リズが威勢のいい声を上げた。
彼女は王都から持ち込んだ特注の魔導工作機をフル回転させ、何やら怪しげな布地を縫い合わせていた。
「リズ、その手に持ってるのは?」
「ふふん、驚きな! 北の氷鋼蟹の繊維と、王都サウナの断熱材を組み込んだ、最新鋭の『耐魔熱遮断水着』だよ!」
リズが自信満々に提示したのは、機能性を追求した(と本人は主張する)露出度の高い、しかし魔力防護に特化した水着装備だった。
「ちょっと! リズ、これ流石に面積が小さすぎない!?」
ライラが真っ赤になって抗議するが、リズは鼻で笑った。
「馬鹿言っちゃいけないよ。この灼熱の海に入るんだ。少しでも放熱効率を上げなきゃ、一瞬で茹で上がっちまうよ。いいから着な!」
結局、背に腹は代えられないということで、俺たちはその水着装備に着替えることになった。
正直、目のやり場に困るが、確かにこの装備に変えた途端、肌を刺すような熱気がスッと引いたのが分かった。
「よし。装備は整った。作戦を確認するぞ」
俺は『絆雷』を背負い、水着に剣というシュールな格好だが、水平線の向こうを見た。
そこには、煮え立つ海水から立ち上る凄まじい水蒸気の柱が見える。
あの中心に、暴走する海龍がいる。
「海龍は今、熱が体内に籠もりすぎて理性を失っている。倒すんじゃない。あいつを『ととのえて』やるんだ」
「ととのえる?」
エルザが不思議そうに首を傾げた。
「ああ。リズが作った特大の塩塊を周囲に配置し、俺の『絆の焔』で海水をさらに一時的に蒸発させる。そこにフィンとエルザの冷却魔法をぶち込むんだ。要は、海の上で巨大な『塩蒸しサウナ』を作り出し、海龍の体内の毒素と熱を一気に排出させる」
「正気なの? 相手は伝説の海龍よ? 蒸し料理にするつもり?」
ライラが呆れたように言ったが、リズは我が意を得たりとばかりに槌を鳴らした。
「いいじゃないか! 最高の職人と、最高の勇者が仕掛ける『海上サウナ』だ。あいつの鱗、ピカピカにしてやろうじゃないか!」
「わふん!」
シロも、リズ特製の「冷感犬用ベスト」を装着してやる気十分だ。
俺たちは、リズが現地で急造した魔導ジェットボートに乗り込み、熱波渦巻く沖合へと突き進んだ。
進むにつれ、海の色は青から不気味な赤へと変わり、水面からはボコボコと巨大な泡が吹き出している。
「来ます! 前方、熱源接近!!」
フィンの叫びと同時に、目の前の海面が爆発するように割れた。
「グルゥゥゥゥアアアアアッ!!」
現れたのは、全身が真っ赤に熱せられた溶岩のような鱗を持つ、全長百メートルを超える巨大な海龍だった。
その瞳は濁り、口からは火炎にも等しい高熱の息ブレスが漏れ出している。
龍が動くだけで、周囲の海水が瞬時に沸騰し、巨大な熱水の壁が俺たちに迫る。
「ライラ、右の熱波を切り裂け! エルザ、ボートの防護を最大に!」
「任せなさい! 暑いのは嫌いだけど、斬るのは得意よ!」
水着姿のライラが空中で身を翻し、双剣から放たれた真空の刃が、迫る熱水を左右へと押し流した。
「聖なる雫よ、我らに安らぎの涼しさを!!」
エルザの魔法がボートを包み、沸騰する海からの熱を遮断する。
俺はボートの先に立ち、海龍の喉元。
一番熱が溜まっている「熱核」を見定めた。
待ってろ、今楽にしてやるからな。
俺は『絆雷』を引き抜き、北の地で覚醒させたあの力を、今度は「癒やし」のために練り上げた。
だが、海龍は俺たちを外敵と見なし、その巨大な尾を振り上げた。
一撃で島を砕くほどの破壊力が、俺たちのボートを目掛けて振り下ろされる。
俺たちのバカンスは、早くも命懸けの海上サウナ設営作戦へと突入した。




