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「来るぞ! 全員、衝撃に備えろッ!」
俺の叫びと同時に、海龍の巨大な尾が叩きつけられた。
ドォォォォォン!!
海面が爆辞し、凄まじい熱水が俺たちを襲う。
リズ特製の『耐魔熱遮断水着』がジリジリと音を立て、魔法の繊維が限界まで熱を弾いているのが分かった。
もし普通の服だったら、今の一撃で発生した蒸気だけで茹で上がっていただろう。
「北の山の冷気は凄かった。そしたら今度はこの熱さですか」
「エルザは熱さには弱いようです」
「コウイチ! これ以上近づくのは無理よ! ボートが溶けちゃうわ!」
ライラが必死に舵を切りながら、迫り来る高熱を回避していく。
「リズ、フィン! 例のブツの準備はどうだ!?」
俺が背後へ声をかけると、二人はボートの荷台に積まれた巨大な結晶体、『特製魔導塩塊』に取り付いていた。
「準備万端だよ! この塩には、北の心臓の欠片と私の魔力をたっぷり込めてある! 龍の熱を吸い取って、極上の蒸気に変えてやるのさ!」
「コウイチさん、座標指定完了です! 海龍を取り囲むように、四地点に投下します!」
フィンの合図と共に、四つの巨大な塩の結晶が海へと投げ込まれた。
それらは海龍を囲むように配置され、着水した瞬間に青い光の柱を立てた。
「グルゥゥゥゥアアアアアッ!!」
自分の周囲を囲まれたことに危機感を抱いたのか、海龍がさらに激しく暴れ、口から紅蓮のブレスを吐き出した。
「エルザ、防壁を!」
「はいっ! 聖水の慈悲よ、灼熱を拒絶せよ!!」
エルザが杖を突き出し、ボートの前面に巨大な水の盾を展開する。
ブレスが激突し、周囲が真っ白な水蒸気で視界不良となるが、今がチャンスだ。
俺はボートの先から、海龍の頭上へと大きく跳躍した。
「シロ、プニ! 最後の一押し、手伝ってくれ!」
「わふぅぅぅん!!」
「プニィィィッ!!」
シロが俺の背後で空中を蹴り、絆の魔力で俺を加速させる。
プニは俺の腕に巻き付き、自身の体温を急速に下げることで、俺の右腕が焼き切れるのを防ぐ冷却材の役割を果たしてくれた。
「ありがとうプニ」
俺は空中で『絆雷』を逆手に持ち替え、北の地で覚醒させた『絆の焔』を練り上げた。
だが、今度の焔は破壊のための赤ではない。
命を慈しみ、凝り固まった熱を解きほぐす、柔らかな「黄金の情熱」だ。
「新スキル――『絆の焔・命の芽吹き(ライフ・レゾナンス)』!!」
俺は海龍の脳天にある、最も熱が溜まって真っ赤に変色した鱗に、剣先を優しく突き立てた。
ドォォォォォォォォォン!!
俺の剣から放たれた熱量が、海龍の体内に潜んでいたドロドロとした「火毒」を、強引に外へと押し出していく。
それと同時に、海中に沈めた四つの塩塊が共鳴を始めた。
ジュワァァァァァァァァッ!!
海面上に、これまでに見たこともないほどの白く、きめ細かな蒸気が立ち昇る。
それはまさに、絆が作った海上サウナだった。
「あ、ああ」
海龍の瞳から、狂気の赤い光が消えていく。
荒れ狂っていた尾が静まり、巨大な巨体が、気持ちよさそうに海面に浮かび上がった。
龍の全身の鱗の隙間から、溜まっていた黒い不純物が、蒸気と共に空へと抜けていく。
「やった? 海龍が、ととのってるわ!」
ライラが叫ぶ。
「色が変わった。エメラルドブルーに変わった!」
海龍リヴァイアサンは、数百年ぶりの完璧なデトックスを経験し、その鱗は煮えたぎる赤から、本来の美しいエメラルドブルーへと戻っていった。
やがて蒸気が晴れると、そこには穏やかな海が戻っていた。
海龍は、俺たちのボートにその巨体をそっと近づけると、感謝を示すように鼻先を俺に擦り寄せてきた。
その瞳は、今は晴れ渡った南の空のように澄んでいる。
「よかった。いいサウナだったろ?」
俺がその鼻先を撫でると、龍は満足そうに一度だけ低く鳴き、深い海の底へと帰っていった。
海底火山の活動も、龍が放出した魔力の波動によって鎮まったようだ。
「ふぅ。お疲れ様、みんな」
俺はボートの床に大の字に寝転んだ。
「本当によ。北では凍え死にそうになり、南では茹で上がりそうになるなんて。私たちのパーティ、極端すぎない?」
ライラが水着の肩紐を直しながら、ようやく笑みを浮かべた。
「でも、見てください。海がとっても綺麗です」
エルザが指差す先、太陽の光を受けてキラキラと輝く海面は、平和そのものだった。
「がははは! 私の耐魔水着も大活躍だったね! これ、王都で流行らせようかな!」
「あわわ、リズさん、それは流石に露出が高すぎてギルドから怒られますよー!」
フィンのツッコミに、一同の笑い声が南の風に乗って響き渡った。




