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「ああ、なんというか。心が洗われるような気分だ」
俺は、深い海の底へと帰っていく海龍リヴァイアサンの後ろ姿を、ボートの縁から見送っていた。
黄金の蒸気が晴れた後の海は、まるでサウナ上がりの肌のように瑞々しく、生命の輝きに満ちている。
海龍が去り際に見せた、あの穏やかな瞳。
それは言葉を介さずとも、俺たちの『絆』が確かに通じ合った証拠だった。
その時、俺の胸の奥で、かつてないほど強烈な温もりが膨れ上がった。
『絆結び(コネクション)』が、これまでにない異質な輝きを放ち始める。
これは、リヴァイアサンの魔力か?
ただ倒すのではなく、慈しみ、救ったことで、伝説の聖獣との間に目に見えない絆が繋がったのだ。
脳内に、新しいスキルの情報が流れ込んでくる。
俺は自分のステータス画面を念じ、その変化を確認した。
「嘘だろ。こんなスキルまで」
そこには、新しく二つの項目が追加されていた。
一つは『スキル:水龍の息吹』。
高熱を即座に奪い、あらゆる熱毒を浄化する癒やしの波動を放つ力。
そしてもう一つは、これまで培ってきた俺の『焔』と、海龍の『水』が融合した究極の複合スキルだった。
『複合スキル:絆の双極・極楽浄土』。
名前のセンスは相変わらずだけど、これ、とんでもないな。
このスキルは、対象の心身にあるあらゆる疲労を強制的に排出し、文字通り魂のレベルで『ととのわせる』究極の広域救済術式だ。
北の冷気も、南の熱波も、これ一つで理想的な環境へと上書きできる。
まさに、旅するサウナ勇者としての完成形に近い力だった。
「コウイチさん? どうかしたんですか、そんなにステータスを凝視して」
エルザが、濡れた法衣を魔法で乾かしながら不思議そうに覗き込んできた。
「いや新しい力が手に入ったみたいだ。リヴァイアサンが、お礼に置いていってくれたらしい」
俺がそう言って、試しに指先から青白く透き通った『水龍の息吹』を放つと、周囲の空気が一瞬で清涼な高原のような爽やかさに包まれた。
「わぁ! あんなに不快だった熱気が、一瞬で消えちゃったわ!」
ライラが目を輝かせて、俺の周りをくるくると回る。
「すごいねコウイチ! それがあれば、私の鍛冶場も夏場は涼しく過ごせるじゃないか!」
リズも大喜びで、俺の背中をバシバシと叩いた。
「わふん!」
シロも、俺の新しい魔力の匂いを嗅いで、満足そうに鼻を鳴らした。
俺はふと、自分の歩んできた道のりを振り返った。
『絆結び』から始まったこの冒険。
ライラの剛力、エルザの火、フィンの知恵、リズの技術、そしてシロやプニ、みんなの力が積み重なって、今の俺がある。
最初は、ただ生きるために必死だった。
でも今は、この強力なスキルリストの数だけ、俺を支えてくれる仲間や、守るべき場所があるんだ。
「よし。帰ろう、王都へ」
俺はボートの舵を握り、仲間に向かって微笑んだ。
「新しいスキルのお披露目も兼ねて、サウナの新メニューでも開発するか」
「賛成! 今度は『海龍の蒸気風』って名前で売り出しましょう!」
フィンの提案に、みんなで笑いながら、俺たちは輝く南の海を後にした。
ステータス画面には、ずらりと並んだ絆の記録。
それは俺がこの世界で手に入れた、何よりも重く、そして誇らしい宝物だった。
俺たちの「海上サウナ」作戦は大成功に終わった。
ソル・マリーナの島長からは、最高の感謝の品として、特大のヤシの実ジュースと、島で一番のプライベートビーチの使用権をプレゼントされた。
「わふん!」
シロも冷たい砂浜を走り回り、プニも元のぷるぷるとした弾力を取り戻して、海風を楽しんでいる。
俺は、冷えたヤシの実ジュースを一口飲み、青い空を見上げた。
北の冬、南の夏。
世界にはまだまだ、俺たちの『絆』を必要としている場所がある。
次はどんな困難が待ち受けているか分からないが、この仲間たちと一緒なら、どんな熱波も吹雪も、最後には最高の「ととのい」に変えてみせる。
俺は、心地よい南国の風に吹かれながら、少しだけ早めのバカンスを楽しむことにした。




