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みんなから俺は期待されているのか。
自分で思っている以上に、やってくれると思われているのが、王都からここまで来たのだ。
そうとしか考えられない。
「これが、俺たちの全部だッ!!」
視界の全てが熱の輝きに包まれた。
全身の血管を流れる魔力が、仲間たちの想いと王都の人々の想いを受けて、臨界点を突破したのが分かった。
それは単なる炎ではない。
誰かを愛おしく思う気持ちや、明日を信じる希望が形を成した、魂の熱量だった。
新スキル『絆の焔』。
俺の持つ『絆雷』の刀身から噴き出したその焔は、エレノアが放つ時空さえも凍らせる絶対零度の冷気を、触れて跡形もなく蒸発させていく。
「馬鹿な、あり得ぬ! 我が数百年を費やした冷気が、たかが数人の、取るに足らぬ感情に焼かれるというのか!?」
エレノアが悲鳴のような声を上げ、最後の力を振り絞って氷の剣を俺へと叩きつける。
だが、俺の歩みは止まらない。
一歩踏み出すごとに、足元の氷が溶けて春の土が顔を出している。
俺の背後には仲間たちの魔力がある。
「エレノア! あんたが守ろうとした冷気は、ただの孤独だ! そんなもの、救済なんかじゃない!!」
俺は魔力炉の核へ向かって、全力で剣を振り下ろした。
「一人で凍え続ける必要はないんだ! 俺たちが、あんたの冬を終わらせてやる!!」
「やめろ! 私の魔力炉に触るな」
俺の放った『絆の焔』が、魔力炉の深部へと注ぎ込まれた。
その瞬間、反転術式を完成させていたフィンとエルザが、最後の詠唱を叫んだ。
「大儀式『春告の儀』、発動ぉぉぉぉ!!」
「聖なる光よ、大地に慈悲と芽吹きを!!」
ズドォォォォォォォォォン!!
城全体が、耐えきれないほどの歓喜の振動に包まれた。
魔力炉から放たれたのは、破壊ではない。
それは、優しく、どこまでも温かい、黄金色の波動だった。
波動は氷冠の城を突き抜け、北の地の空へと突き抜けた。
城は半壊してしまう。
俺達にも城の外側が見える形に崩れた。
「外が見えます。王都の空も」
見上げれば、王都を壊滅させようと降り注いでいた無数の氷の隕石が、その黄金の波に触れた瞬間、一滴の残らず蒸発し、キラキラと輝く光となって空に消えていくのが、俺の目に映った。
「消えた。隕石が、消えていく」
ライラが空を見上げ、その目に涙を浮かべた。
「波動は広がり、北の山脈を、樹氷の林を、雪に閉ざされていた村を飲み込んでいくと思う」
「全ての氷を解かしていく。これで冬は終わりよ」
「わふん! わふん!」
シロが嬉しそうに駆け回る。
プニもまた、透き通った身体を陽光に透かしながら、ポカポカとした春の陽気に身を委ねていた。
魔力を使い果たし、崩れ落ちるように膝をついたエレノアの元へ、俺はゆっくりと歩み寄った。
彼女の冷たい鎧は既に消え去り、そこには一人の、寂しげな瞳をした女性が座り込んでいた。
「なぜだ。なぜ、これほどの温かさを、私は忘れていたのだろうな」
エレノアが、震える指先で、窓から差し込む本物の陽光に触れた。
その頬を一筋の涙が。
「エレノア。あんたの魔法は、もう必要ない。この世界には、あんたが思っている以上に、温かいものがたくさんあるんだ」
俺が手を差し伸べると、彼女は戸惑いながらも、その温もりを確かめるように俺の手を握り返した。
彼女の冷たかった手は、今、確かに人間としての熱を帯びていた。
城を包んでいた重圧は消え去り、代わりに北の地を吹き抜けるのは、花の香りを運ぶ穏やかな春風だけだった。
数百年の間、生命を拒絶してきた永久凍土が、まるでお湯をかけた砂糖のようにみるみる溶け出している。
その下から見たこともないほど鮮やかな緑の草原と、色とりどりの花々が芽吹き始めた。
それから数日後。
俺たちは、緑に覆われた北の街道を、王都へと向かって歩いていた。
「見てよコウイチ! あんなに不気味だった樹氷林が、今じゃ絶好のピクニック会場ね!」
ライラが草原を指差してはしゃいでいる。
「ふん、雪が溶けたおかげで、珍しい鉱石がザクザク見つかるよ。王都に帰ったら、最高の記念品を打ってやるからさ」
リズも背負った槌の重さを楽しむように、軽快な足取りで歩く。
「あわわ、今回のデータの収集、大変な量です! これ、ギルドに報告したら、僕たち歴史に名前が残っちゃいますよ!」
フィンが興奮気味に眼鏡を位置を直した。
「コウイチさん、本当にお疲れ様でした。あなたが私たちの光になってくれたから、世界は救われたんです」
エルザの優しい微笑みに、俺は少しだけ照れながら頷いた。
王都の北門が見えてくると、そこには信じられないほどの群衆が集まっていた。
「帰ってきたぞ! 勇者たちが帰ってきた!!」
誰かの叫び声を合図に、街中に鐘の音が鳴り響く。
マリアンヌさんが先頭に立ち、エドワード伯爵やセシリア、クラリス、そして街中の人々が、俺たちを英雄として迎え入れてくれた。
「がははは! よくやった、コウイチ! あんたならやると思ってたよ!」
マリアンヌさんに背中を思い切り叩かれ、俺は思わずむせたが、その痛みがたまらなく嬉しかった。
王都の空はどこまでも青く、降り注ぐ太陽は、かつてないほど輝いて見えた。
その日の夜、王都では盛大な「春告祭」が開催された。
酒場からは笑い声が、広場では人々が踊り、シロとプニは子供たちに囲まれて大人気だった。
俺は仲間たちと一緒に、ギルドのテラスからその賑わいを眺めていた。
「コウイチ。あんた、これからどうするの?」
ライラが横に並び、ジョッキを傾けながら聞いてきた。
「どうするって。まあ、しばらくはゆっくり休みたいかな。でも、まだこの世界には、俺たちの助けを必要としている場所があるかもしれないしな」
俺は夜空を見上げた。
かつて死の宣告が刻まれていたあの空には、今は美しい星々が瞬いている。
この世界に来て、かけがえのない仲間たちと出会い、絆を繋いできた。
自分の弱さを知り、誰かに頼る勇気を手に入れた。
俺はもう、あの頃の孤独な男じゃない。
「次は、どこへ行こうか」
俺の言葉に、ライラ、リズ、エルザ、フィンが顔を見合わせ、笑い合った。
「どこへだってついていくわよ! あんたが勇者で、私たちが仲間なんだから!」
「わふん!」
シロが俺の足元で力強く吠えた。
俺たちの旅はまだ終わらないな。
まだ四天王は二人残っているし、魔王もいる。
この絆がある限り、俺たちの冒険に終わりはない。
新しい春が来たこの大陸を、俺たちはこれからも自分たちの足で、温かな絆を作りながら歩んでいくんだ。
俺は手の中にある『絆雷』の重みを確かめ、柔らかな夜風を吸い込んだ。
最高に熱くて、最高に温かい、俺たちの物語は、これからも続いていく。




