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「前方に視認! 第二の『冷気の心臓』だ!!」
俺の叫び声が、猛烈な風圧に押し戻されそうになる。
視界の先、永久凍土の断崖に囲まれた巨大な盆地の中央に立っていた。
一つ目の心臓よりも遥かに巨大で、まるで天を突く氷の塔のような姿をしている。
その周囲には、絶対零度の冷気が物質化したような防衛結界が何層にも重なり、不気味な光を放っていた。
普通なら、近づくことさえ許されない死の聖域だ。
だが、今の俺たちの下には、リズの職人魂が作り上げた最強の魔導スノーモービルがある。
「コウイチ、速度を落とさないで! 結界の継ぎ目は私が風でこじ開けるわ!」
後部座席でライラが叫び、双剣から凄まじい風圧を放出した。
マシンの周囲に発生した風の防壁が、正面から吹き付けてくる極低温の向かい風を左右へと受け流していく。
「ライラさん、右の魔力密度が上昇しています! 術式干渉、開始!」
フィンが魔導書を広げ、指先を高速で動かして結界の強度を部分的に削り取っていく。
「あわわわ、来ます! 結界の反動、雷撃に変わります!」
「私が清めます! 聖なる光よ、障壁となって我らを包みなさい!」
エルザが放った神聖魔法が、マシン全体を柔らかな光で包み込んだ。
氷の破片がマシンの装甲に当たり、火花を散らす。
時速は既に限界を超えていたが、リズが後方でエンジン(魔力炉)を直接神槌で叩き、さらに出力を引き上げた。
「がははは! いい調子だね! このまま星まで飛んでいきそうな出力だよ!」
「リズ、これ以上は機体が持たないぞ!」
俺はガタガタと激しく震動するハンドルを、文字通り『剛力』でねじ伏せていた。
マシンの計器類はすべて振り切れており、エンジンからは火花が吹き出している。
だが、この超高速の「質量」こそが、あの心臓を打ち破る手段だ。
「わふぅぅぅぅぅん!!」
シロが俺の膝の上で立ち上がり、天に向かって吠える。
シロの『絆の加護』がマシンと俺たち全員に浸透し、バラバラだったスキルの波動が一つに収束していく。
「視える。結界の奥、心臓の『真の核』の座標を確認した!」
俺の『熱感知』が、巨大な氷の塔の最深部、一箇所だけ魔力が激しく巻いている中心点を見た。
そこにこのマシンごと突っ込めば、一つ目とは比較にならない大爆発を引き起こせる。
「みんな、しっかり捕まってろ! 全魔力を一点に集中させるぞ!!」
俺は腰の『絆雷』を、マシンの制御回路へと限界まで深く押し込んだ。
『黄金の羽』の加速魔力がマシンと完全に同期し、俺たちの周囲の景色が引き伸ばされた光の線へと変わる。
「スキル複合、絆の閃光!!」
ライラの風、エルザの光、フィンの解析、リズの衝撃、そして俺とシロとプニの絆。
すべての力が魔導スノーモービルを巨大な「光の槍」へと変えた。
「コウイチ!!!!」
「そのまま突っ込むぞ!!!!」
ドォォォォォォォォォン!!
第一結界がガラス細工のように粉砕された。
続けて第二、第三の結界も、俺たちの突進を止めることはできない。
「行っけぇぇぇぇぇぇ!!」
「きゃあああああああ」
「わああああああああ」
俺たちは叫びと共に、氷の塔の基部へと音速で突っ込んだ。
凄まじい衝撃。
視界が白一色に染まり、全身の骨が軋むようなGが襲いかかる。
マシンの装甲が、氷の塔の外壁を削り取りながら、迷うことなく最深部へと突き進んでいく。
そして。
「核をロックオン! 貫けぇ!!」
俺たちは、冷気の心臓の真ん中にあった巨大な魔力結晶に、マシンごと激突した。
世界が静止したかのような、一瞬の静かさになった。
次の瞬間、極大の魔力衝突が引き起こしたエネルギーの流れが、巨大な氷の塔を内側から爆発させた。
「ギィィィィィィィン!!」
心臓が音を上げ、周囲数キロに渡って蓄積されていた冷気が、一気に熱量へと反転する。
その爆風に飛ばされ、俺たちはマシンの座席から放り出された。
「う、うわぁぁぁぁっ!」
「きゃああああああ」
雪原に何度も叩きつけられ、転がり、ようやく止まった。
全身が痛い。
だが、すぐに起き上がり、仲間たちの姿を探す。
「みんな! 無事か!?」
「ゲホッ、ゲホッ。死ぬかと思ったわよ、本当にもう」
雪の中からライラが顔を出してきた。
エルザとフィンも、お互いを支え合いながら立ち上がる。
「わふん!」
シロが俺の元へ駆け寄ってきた。プニも少し形が歪んでいるが、無事なようだ。
俺たちは、自分たちが突っ込んだ場所を振り返った。
そこには、先ほどまであった巨大な氷の塔は影も形もなかった。
代わりに、広大な雪原の中に、ポっかりと巨大なクレーターが開いている。
地脈から解放された熱が、クレーターの底から立ち上り、周囲の雪を穏やかに溶かしていた。
「二つ目の心臓、破壊、成功だ」
「やったあーー」
「怖かったあああ」
少し離れた場所でリズが座り込んでいるのが見えた。
彼女の視線の先には、変わり果てた魔導スノーモービルの姿があった。
「あちゃー。流石にこれは、私の腕でも直せないね」
リズが寂しそうに笑った。
そこには、フレームがひしゃげ、エンジン部分が完全に解けてしまったマシンの残がいが転がっていた。
あの超高速の突進と核の爆発に耐えられる構造ではなかったのだ。
俺たちはその残がいの周りに集まった。
ボロボロのソリを、リズが心を注いで作り替えてくれた、俺たちの最高の足。
「ごめん、リズ。無理をさせすぎたな」
「いいって。この子は、自分の役割を完璧に果たしたんだよ。職人の作った道具にとって、これ以上の死に様はないさ」
リズはそう言って、マシンのひしゃげた装甲を優しく一度だけ撫でた。
「コウイチさん、見てください。空の色が」
フィンが指差した。
一つ目の時よりも明らかに、北の空のどんよりとした厚い雲が薄くなっている。
世界を凍らせようとする女王エレノアの力が、確実に弱まり始めている証拠だ。
だが、俺たちの足はもうない。
ここからは、再び自らの足で、さらに険しくなるであろう最北の地を目指さなければならない。
「さて、歩こうぜ。最後の『冷気の心臓』は、もう目の前だ」
俺は腰の『絆雷』を握り直した。
マシンは壊れたが、それを作ったリズの技術、それを動かしたみんなの力、そしてこの過酷な道のりを共に爆走したという記憶は、俺たちの絆をより強固なものにしていた。
「そうね。ここまで来たら、最後まで走り抜けるだけだわ!」
ライラが不敵な笑みを浮かべ、俺の隣に並ぶ。
「はい。三つ目の心臓を破壊し、女王エレノアの野望を打ち砕きましょう」
エルザの言葉に、全員が力強く頷いた。
俺たちは、溶け始めた雪原を後にし、最後の目的地へと歩き始めた。
マシンの爆走が残した跡は、吹雪に消されることなく、俺たちの勝利の道として刻まれていた。
女王エレノアよ、待っていろ。
俺たちはもう、止まれないからな。




