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「ふぅ。今日もお疲れ様。みんな、怪我はないか?」
夕闇が王都を包み込む。
広場の噴水が静かに水音を立てている。
俺たちはその縁に腰を下ろした。
身体中が埃と泥で汚れているけれど、不思議と清々しい気分だった。
どこか満ち足りた気持ちになり、今日の仕事が無事に終わったことを実感していた。
「はいっ! グラビティを使いすぎて、お腹がペコペコです!」
フィンが元気よく言って、腹の中で鳴る音に皆が思わず吹き出した。
彼の笑顔は、どんなに疲れていても、周囲を明るくする力がある。
実際、フィンのその調子の良さが、最近の長い冒険を乗り切るための原動力になっていた。
「でも、街がどんどん綺麗になっていくのは気持ちがいいわね」
ライラが、額に浮かぶ汗をタオルで拭きながら言った。
彼女は、夕焼けに染まった王都の大通りを見つめていた。
少し疲れた表情だけど、その視線の先に広がる光景。
何か満ち足りたものを感じているようだった。
「ええ。皆さんの表情も、少しずつ明るくなってきた気がします」
エルザが穏やかな微笑みを浮かべる。
俺の隣に座り、静かに言った。
彼女は誰かが心を開くのを待つことが得意だ。
そうして、人々の心に寄り添い、癒しを与える力を持っている。
「ありがとう、エルザ」
俺は心の中で呟いた。
エルザの手が、ふっと俺の手にかかる。
柔らかな魔法が流れ込んでくる。
魔法の「洗浄」が俺の手にかかり、泥や埃がみるみる落ちていくのが感じられた。
エルザは何も言わず、ただ優しく微笑んでくれた。
それだけで、あたたかさが広がるような気がした。
その時、ふと腰に下げたままの魔導鋼の剣が目に入った。
かつては光り輝く刃を持っていた剣。
今や無惨に欠け、痛々しいヒビだらけになっていた。
最近の戦闘で、俺は何度もこの剣を振るい続けてきた。
だが、もう限界だと思う。
俺が精一杯手入れをしても、どうにも元には戻らない。
「やっぱり、この剣、もう限界なんだな」
小さな声で呟くと、少し離れたところにいた大工の親方がこちらに歩み寄ってきた。
「おい、あんた。その剣、もしかしてカースを貫いたっていうアレか?」
親方の鋭い目が俺の剣を見据えて、にやりと笑った。
彼が言う通り、その剣は、王都を襲った大災厄カースとの激闘、あの時の武器だ。
「ええ、そうです。でも、ご覧の通りボロボロで」
俺が苦笑を浮かべながら答える。
親方は剣をまじまじと見つめ、ややうなり声を上げた。
「こりゃあ、並の鍛冶屋じゃ刃を立てることもできんぞ。だが」
親方が何かを思い出したように、北の山脈の方を指差した。
その指の先に広がる霧に覆われた山々が、やけに幻想的に見えた。
「噂じゃあ、伝説の『神槌』を持つリズっていう鍛冶屋なら、どんなボロボロの品も新品同様、いや、それ以上に直せるらしい」
「リズ?」
バルカスのじいさんも言っていた鍛冶師だな。
その名を耳にした瞬間、エルザが「あっ」と声を上げた。
普段はどこか冷静なエルザが、その一瞬に何かを思い出したかのような表情を浮かべていた。
「リズ、確か、私も少し聞いたことがあります。彼女は、ただ物を直すだけじゃないんです。壊れた物に、持ち主の『想い』を鋼に込めることができるという、伝説の職人だって言われています」
「想いを鋼に」
俺は思わず、剣の柄を握りしめた。
この剣には、俺たちのこれまでの冒険が、絆が刻まれている。
それを一つ一つの傷、欠けに見て取れる。
そして、この剣が再び蘇るとき、きっと新たな力を持つだろうと信じたくなる。
「それなら、リズさんにお願いする価値はあるかもしれませんね」
ライラが思わず手を叩きながら言った。
彼女の目にはすでに冒険の興奮が漂っている。
「よし、決まりね。明日は装備の整理をして、そのリズって子に会いに行きましょう!」
ライラが立ち上がり、空を指さして剣を振るフリをした。
空気が少しだけひんやりと感じる夕暮れ。
その姿はどこか遠くを見つめるようで、まるで新しい旅の始まりを告げるようだった。
「わふん!」
シロも、新しい冒険を予感するかのように尻尾を激しく振っている。
いつもは穏やかなシロだが、今は明らかに興奮している様子だ。
俺は静かに、沈みゆく太陽の向こう側を見つめた。
ボロボロになった剣。
それはこれまでの戦いの証でもあり、俺たちの数々の努力と苦悩を物語っている。
でも、それがまた新しい力を得るとき、俺たちの前には新たな道が開けるんだと信じている。
「ありがとう、親方。リズを探してみるよ」
親方が満足げに頷き、俺たちに笑いかけてきた。その背中が頼もしく見える。
王都の復興が進んでいることを実感する一方で、俺たちの冒険はまだまだ続くのだ。
復興が進む王都。
俺たちは、新しい希望を胸に、賑わいを取り戻しつつある宿屋へと足を踏み出した。




