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「よし、みんな。一旦、王都の喧騒を離れて静かな場所へ行こう」
俺の提案に、仲間たちは一斉に賛成してくれた。
カースを倒してからの数日間、王都ではどこへ行ってもサインを求められ、お祝いの品を贈られた。
それはすごく光栄なことだった。
俺たちの体はまだ、あの激戦の疲れを覚えている。
そこで俺たちが向かったのは、以前、俺が死ぬ気で特訓を積んだあの場所――「清浄の谷」だ。
「清浄の谷に行こうか」
「そうね、バルカスに報告しないとね」
「温泉もある!」
さっそく出発する。
懐かしい草の香りと、澄んだ空気。
谷の入り口に立つと、あの時感じた厳しい寒さも、今はどこか優しく感じられた。
「わふん! わふん!」
シロが懐かしそうに尻尾を振って、水の流れる川へ駆けていく。
「やっぱり、ここは落ち着くわね。王都のパーティーも良かったけど、こっちの方が私たちらしいわ」
ライラが大きく伸びをして、深呼吸をした。
「そうですね。あの滝の音を聞くだけで、心が洗われるようです」
エルザも穏やかな表情で、流れる雲を見上げた。
俺たちは、谷の奥にある小さな小屋を目指した。
そこには、俺をAランク冒険者にまで鍛え上げてくれた恩師、バルカスさんが住んでいる。
「また来ましたよ」
「バルカスさーん! 遊びに来ましたよー!」
フィンの明るい声が谷間に響く。
しばらくすると、家の扉がゆっくりと開く。
腰の曲がった、でも眼光だけは鋭い老人が姿を現した。
「うるさい奴らが来たな。修行なら、今はお断りだぞ」
「修行じゃありませんよ、バルカスさん。報告に来たんです」
俺が歩み寄ると、バルカスさんは俺の顔をじっと見つめる。
それから腰のボロボロになった剣に目をやった。
「ふん。その剣の傷、ただの魔物相手ではあるまい。あの四天王の一角を、本当に堕としてきたようだな」
「はい。なんとか、みんなの力で討伐しました」
バルカスさんは少しだけ口角を上げると、「入れ」と短く言って俺たちを招き入れた。
俺たちは、カースとの激闘のすべてをバルカスさんに話した。
絆の共鳴のこと、仲間たちが繋いでくれた道のこと。
バルカスさんは黙って茶を飲みながら、俺たちの話を聞いてくれた。
「そうか。お主は、儂が教えた以上のものを見つけたようじゃな」
「いえ、バルカスさんの基礎があったからです。でも、本当に疲れました」
俺が正直に漏らすと、バルカスさんはガハハと笑った。
「なら、さっさと裏の温泉へ行け。今日一日は、戦いのことなど忘れろ」
俺たちは、小屋の裏手にある天然の露天風呂へと向かった。
岩の隙間からコンコンと湧き出るお湯。
絶妙な温度で俺たちを待っていた。
ここは最高だよな。
「はぁぁぁ。極楽だ」
俺は、お湯に肩まで浸かった。
ボロボロだった筋肉が、温かいお湯に溶けていくような感覚。
「最高!」
「コウイチさん、最高ですね。命の洗濯ですよ、これ」
隣から聞こえてくる声。
プカプカと浮かんでいるプニを見ながら、俺は目を閉じた。
向こう側の女湯からは、ライラやエルザ、フィンの楽しそうな話し声が聞こえてくる。
「ライラさん、背中流しましょうか?」
「いいわよ、エルザ! それよりフィン、湯船でバタバタしないの!」
「あわわわ! お湯が耳に入りましたー!」
そんな賑やかなやり取りを聞きながら、俺は平和が戻ったことを改めて実感していた。
シロも風呂の縁に座って、気持ちよさそうにうとうとしている。
お風呂上がり、俺たちはバルカスさんが用意してくれた山菜料理を囲んだ。
「美味しい。王都のステーキもいいけど、この素朴な味が身にしみます」
フィンが幸せそうに山菜の天ぷらを頬張る。
確かに美味いな。
日本人の俺には懐かしい味にも感じる。
だが、食事がひと段落した時、バルカスさんの表情が少しだけ真剣なものに変わった。
「コウイチよ。一つ、伝えておかねばならんことがある」
「何ですか、バルカスさん」
俺の問いに、老人は囲炉裏の火を見つめたまま答えた。
「お主が倒したカースは、あくまで四天王の一人に過ぎん。奴にはまだ、三人いる」
その言葉に、部屋の空気が一瞬で引き締まった。
わかってはいたが、一気に現実に戻された。
「残りの三人は、カースとは比べものにならんほど個性的で、厄介な奴らだ」
「まだ、三人も」
俺はボロボロの剣をもう一度見つめた。
「一人は、北の氷原を統べる、冷酷無比な女魔術師」
バルカスさんは言葉を切ると、俺の目を真っ直ぐに見た。
「女魔術師ですか」
「3人か」
俺は唾を飲み込んだ。
平和はまだ、完全なものではなかったんだ。
でも、俺の胸の中には、カースを倒した自信と仲間との絆がある。
「わかりました。まずはしっかり体を休めて、それから考えます」
俺が答えると、バルカスさんは満足そうに頷いた。
「それがいい。今日はゆっくり眠れ。明日になれば、また新しい風が吹く」
俺たちは、いろりの火を囲みながら、静かな夜を過ごした。
明日からは、その「残り三人」と立ち向かうための準備が始まる。
そのためには、やはりこのボロボロの剣をどうにかしなくてはならない。




