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地下祭壇の階段を上り切り、俺たちが地上へと一歩踏み出した瞬間だった。
「えっ、なにこれ?」
「凄い人です!」
視界を真っ白に染めるような朝日と共に、割れんばかりの大歓声が俺たちを包み込んだ。
「帰ってきたぞ! 絆の勇者たちがカースを倒したんだ!」
「ありがとう! 王都を救ってくれてありがとう!」
門の前に詰めかけた大勢の市民たちが、涙を流しながら手を振ってくれている。
俺の体はボロボロで、服も汚れきっていた。
この光景を見た瞬間に疲れがどこかへ吹き飛んだ気がした。
「あわわわ。こんなにたくさんの人が。私、お化粧崩れてないでしょうか」
フィンが照れくさそうに顔を赤くして、俺の影に隠れた。
気にする所じゃないけどな。
「あんた、こんな時まで何を言ってるのよ。ほら、胸を張りなさい!」
ライラがフィンの背中を叩き、自分も嬉しそうに歯を見せて笑った。
俺たちは人々の拍手に送られながら、真っ直ぐに冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの扉を開けると、そこには仁王立ちで待っているマリアンヌさんの姿があった。
「マリアンヌさん!」
「帰ったぞ!」
「帰りました!」
「遅かったじゃない。肉が冷めるかと思ったわよ」
マリアンヌさんはぶっきらぼうに言った。
その瞳は少しだけ潤んでいた。
彼女が指差した先には、見たこともないほど分厚いステーキが山のように積まれていた。
「まぁ、肉!」
「肉肉!」
「約束通り、最高級の肉を用意したわ。さあ、宴の始まりよ!」
マリアンヌさんが預かっていた秘蔵の酒の栓を抜く。
芳醇な香りが一気に広がった。
「おめでとう!」
「コウイチ達は、最高だあ!」
「よくやったぞ!」
「かんぱーい!!」
多くの冒険者が集まっていた。
みんなが俺らの周囲に集まり、歓迎する。
ギルド全体が、歓喜の渦に包まれた。
「コウイチ殿。本当にお見事だったよ」
声をかけてきたのは、『白銀の翼』のリーダー、フォルダムだった。
彼はエリートとしてのプライドを持ちながらも、今は一人の戦友として俺の隣に座った。
「フォルダムさん。地下での足止め、助かりました。あなたたちがいてくれなければ、俺はカースの元まで行けなかった」
「いや、道を切り開いたのは君たちの絆だ。僕たちも、君たちから大切なことを教わった気がするよ」
フォルダムはそう言って、俺のグラスに酒を注いでくれた。
かつては反発し合ったこともあった。
今は不思議と、彼らとも深い絆で結ばれたような気がしていた。
「むふふ。このお肉、口の中でとろけますー!」
フィンが頬っぺたをパンパンに膨らませてステーキに食らいついている。
「ちょっと、フィン! 私の分まで食べないでよ!」
ライラがフォークを片手に参戦し、シロも横で大きな骨付き肉を幸せそうにかじっている。
「ふふ、平和って美味しいですね」
エルザが上品にサラダを口に運びながら、幸せそうに目を細めた。
「よお! コウイチ。俺も地下に行って陰ながら戦ったのだぜ」
「ヴォルグか。助かったよ」
「最後はコウイチに任せたのは正解だった。良くやったぜ」
ヴォルグは以前に決闘した冒険者。
今回は白銀の翼とともに協力してくれた。
他にも冒険者は参戦しており、みんなの力で戦ったのは間違いない。
俺はそんな仲間たちの姿を眺めながら、ゆっくりと自分のステーキを切り分けた。
ブラック企業の社畜だった頃の俺に、教えてやりたい。
「お前、数年後には仲間と笑いながら最高のご飯を食べてるぞ」って。
宴が盛り上がる中、俺はふと、足元に置いていた自分の愛剣に目をやった。
魔導鋼で作られた、カースにトドメを刺した剣。
「あっ」
俺は息をのんだ。
黄金の輝きを放っていたはずの刀身。
今や無数の刃こぼれができ、所々に深いヒビが入っている。
限界を超えた魔力を流し込みすぎたせいだろう。
これでは、もう次の戦いには耐えられそうになかった。
どうしようか。
困ったな。
「どうしたの、コウイチ? そんなに神妙な顔をして」
ライラが心配そうに覗き込んできた。
「いや、剣がさ。ボロボロになっちゃって」
「ああ。あの激戦だったものね。その剣、あんたの身代わりになってくれたんじゃない?」
ライラが優しく俺の肩を叩いた。
「これじゃあ、明日から魔物退治も行けないな。困ったぞ」
俺が困り果てていると、それを見ていたフォルダムが口を開いた。
「コウイチ殿。もしその剣を直したいのなら、心当たりがある」
「えっ? 本当ですか?」
「ああ。王都から少し離れた山奥に、どんなボロボロの武器でも神の如き業で蘇らせる鍛冶屋がいるという噂だ」
フォルダムの話に、エルザも身を乗り出した。
「それって、もしかして伝説の、リズさんのことでしょうか?」
「リズ? 誰なんだ、それは」
エルザは聞いたことある名前らしい。
俺が聞き返すと、ギルドにいた冒険者たちが一斉にざわめき始めた。
どうやら、その鍛冶屋に出会うのは、カースを倒すよりも難しいと言われているらしい。
どんだけ珍しい人なんだろうか。
会えるのも難しいて。
王都にはいないみたいなので、直ぐには会えそうにないか。
この剣は今後も使いたいし、修復してくれる鍛冶師は貴重だな。
俺はボロボロになった剣を見つめ、決意を固めた。
仲間たちとこれからも歩み続けるために、俺には新しい相棒が必要だ。
「よし。そのうちに、鍛冶屋を探しに行こう」
「わふん!」
シロが賛成するように元気に吠えた。
新しい冒険の予感に、俺の心は再びワクワクし始めていた。




