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ライラやヴォルグたちが死霊騎士団を食い止めてくれている間に、俺たちはさらに奥へと急いだ。
祭壇へと続く一本道の通路に入った瞬間、急に辺りの空気が変わった。
視界がドロリと濁り、松明の明かりが届かないほど深い闇が俺を包み込む。
「コウイチさん? ライラさん? みんな、どこだ!」
さっきまで隣にいたはずの仲間の気配が、嘘みたいに消えてしまった?
ここは?
なにか変な感じ。
空間把握を使おうとしても、霧がかかったように何も読み取ることができない。
「無駄だ。そこは絶望の澱お前の心の影だ」
頭の中に、ねっとりとした不気味な声が響いた。
「お前は、何者でもない。ただの使い捨ての歯車だ」
気づくと、俺は冷たいオフィスビルの中に立っていた。
鳴り止まない電話の音、山積みの書類、そして上司の罵声。
「またミスか! お前みたいな無能、代わりはいくらでもいるんだよ!」
「すみません、すみません」
ブラック企業時代の俺が、力なく謝り続けている。
ああ、そうだ。俺は、誰からも必要とされていなかった。
毎日終電で帰り、コンビニの弁当を食べ、誰とも会話せずに眠るだけの人生。
「異世界で英雄の真似事か? 滑稽だな。お前の本質は、この薄暗い部屋がお似合いの社畜なのだよ」
カースの声が、俺の心の傷口をえぐる。
俺の体が、どんどん重くなっていく。
足元から黒い影が這い上がり、俺を引きずり込もうとしていた。
「俺は、独りだ。この力も、きっといつか消えて」
俺が膝をつき、闇に飲み込まれそうになったその時だった。
「わふん!!」
鼓膜を震わせるような、力強い咆哮が闇を切り裂いた。
「シロ?」
顔を上げると、そこには真っ白な毛並みを輝かせたシロが立っていた。
シロは俺の影を蹴散らし、必死に俺の顔を舐めてくる。
ザラリとした舌の感触。
それは、紛れもない現実の温度だった。
「コウイチさん! 惑わされないでください! 私たちはここにいます!」
上空から、清らかな光の柱が降り注いだ。
エルザの祈りの魔法だ。
闇の霧が晴れていき、そこには涙を浮かべながらも必死に杖を振るエルザの姿があった。
「コウイチさん、あなたは私たちの光なんです! 私を救ってくれた、大切な人なんです!」
「あわわわ! コウイチさん、起きてください! お祝いのケーキを食べるって約束したじゃないですか!」
フィンの泣きそうな声も聞こえてくる。
冷たいオフィスが崩れ去り、祭壇の冷たい石畳が戻ってきた。
俺は自分の胸に手を当てた。
そこには、マリアンヌさんにもらった勲章があり、仲間たちの温かい絆が脈打っている。
幻覚を見ていたのか。
危ないところだった。
自分の弱さが出たけど、みんなに救われたんだ。
一人だったら幻覚のまま俺は死んでいたと実感する。
「そうだな。俺はもう、独りじゃない」
俺は立ち上がり、剣を強く握りしめた。
「カース。お前の言う通り、俺は元々は何者でもなかったかもしれない」
「でも今は違う。俺には帰る場所がある。信じてくれる家族がいるんだ!」
俺の体から黄金の魔力が溢れ出し、通路を満たしていた呪いを一気に焼き払った。
『スキル:不屈の絆』が発動し、精神攻撃を完全に遮断する。
「シロ、エルザ、フィン。助かったよ。もう大丈夫だ」
俺が微笑むと、みんなが安堵の表情を見せた。
「全く心配かけないでよね。ほら、最後の大扉が見えたわよ!」
いつのまにか死霊騎士を片付けて追いついてきたライラが、俺の背中をバチンと叩いた。
みんな集まった。
暗闇の奥、巨大な祭壇の扉が不気味に口を開けている。
カース。お前の卑怯な攻撃は、もう俺たちには通じない。
俺たちは一歩も引かずに、真の決戦の場へと踏み出した。




