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「コウイチさん! 大変です! 街の中に、巨大な黄色い山が動いています!!」
朝一番、まだ眠気の残る宿屋の廊下に、フィンの甲高い叫び声が響き渡った。
俺はベッドから跳ね起き、半分寝ぼけたまま窓辺へ駆け寄る。
カーテンを乱暴に開いた瞬間、目に飛び込んできた光景に、思わず言葉を失った。
「なんだ、あれ。家よりもデカいぞ」
王都の大通り。その石畳の上を、黄色くて、ふわふわした巨大な塊が、のっし、のっしと歩いていた。
建物の影に隠れて、なおはみ出すその体は、下手な二階建ての家屋よりも大きい。
「ピヨォォォォ!!」
次の瞬間、地鳴りのような鳴き声が空気を震わせた。
その声を聞いた途端、俺の頭の中で嫌な予感が確信に変わる。
「あれ、まさか」
「ライラは知っているのかい?」
よく目を凝らすと、丸みを帯びた体、短い翼、ちょこんとしたクチバシ。
「どう見ても、巨大化した『ピヨ鳥』のヒナだ」
「ピヨ鳥」
隣で息を切らしていたフィンが、涙目で頷いた。
「は、はい! どうやら魔法薬の輸送馬車が転倒してしまって、その子が中身を思いっきり浴びちゃったみたいなんです!」
「エルザ、教えてくれ」
「なるほど、成長促進系か、サイズ変化系ですね」
可愛いことで有名なピヨ鳥のヒナも、これだけ巨大化すれば話は別だ。
実際、ヒナは悪気もなさそうに歩き回りながら、露店の屋根を羽でパシパシとなぎ倒していた。
「可愛いのは否定しないけど、あのサイズじゃ、歩くだけで街が壊れちゃうわ!」
ライラが剣を背負い直し、迷いなく宿屋を飛び出していく。
「行くぞ、みんな!」
俺たちも慌てて後に続いた。
大通りに出ると、すでに周囲は大混乱だった。
露店商は商品を抱えて逃げ回り、兵士たちは距離を取りつつも手を出せずにいる。
「ピヨ?」
巨大ひよこは、逃げ惑う人々を不思議そうに見下ろし、首を傾げた。
その仕草自体は愛らしいが、首を傾げるだけで建物の壁がミシミシと悲鳴を上げる。
「傷つけずに捕まえなきゃいけないな。ライラ、あっちから回り込んで足止めを!」
「わかってるわよ!」
ライラが素早く回り込み、ヒナの足元を狙って斬りかかる。
だが――
「って、なにこれ!? ぷにぷに過ぎて、剣が跳ね返される!」
剣先はヒナの体にめり込むことなく、弾力に押し戻されてしまった。
「ピヨ!」
巨大ひよこは驚いたように声を上げると、逆に楽しそうに加速し始める。
「あわわわ! そっちは噴水広場です! このままじゃ激突しちゃいますー!」
フィンの悲鳴が重なる。
「仕方ないな」
俺は肩の上に乗っていた相棒に声をかけた。
「プニ、出番だ! どっちがぷるぷるか、見せてやれ!」
「ぷるるんっ!」
可愛らしい返事と同時に、プニが宙へ跳び出す。
次の瞬間、ぷよん、と音を立てて巨大化した。
巨大プニ対巨大ひよこ。
迫力あるな。
「ぷよんっ!」
「ピヨッ!」
噴水広場の中央で、二つの巨大な塊が正面衝突する。
「きやぁあああああ」
「なにこれ!!!」
街の人が絶叫する。
当然怖いよな。
それはまるで、巨大なゼリー同士がぶつかり合ったかのような、奇妙で弾む音だった。
衝撃は吸収され、瓦礫も飛ばない。
プニはそのままヒナを包み込むように広がり、突進を完全に食い止める。
「ナイスだ、プニ! 今のうちに落ち着かせるんだ!」
「エルザ、今だ! 鎮静の魔法を!」
「はい! 聖なる眠りの抱擁!」
エルザが杖を振ると、柔らかな光の粒子が舞い、ヒナの体を包み込んだ。
「ピヨォ」
巨大ひよこは次第に目をとろんとさせ、その場にぺたりと座り込む。
周囲で見守っていた街の人々から、安堵のため息が漏れた。
――その時。
空が一瞬、暗くなった。
「ピヨォォォォ!!」
先ほどよりも、さらに力強くい鳴き声。
なんだこの声は?
見上げると、金色の羽根を持つ巨大な怪鳥が、ゆっくりと降下してきていた。
「なんだよこれ?」
「まさか」
「伝説の怪鳥、『キング・ピヨ鳥』!」
エルザが息を呑む。
「お母さん、なんですね。ヒナを探して、ここまで来たんだ」
ヤバいよな。
大丈夫なのか。
親鳥は俺たちの前に降り立つと、巨大ひよこにそっとクチバシを触れた。
次の瞬間、強力な光が広がる。
ヒナの体は、みるみるうちに縮んでいき――
やがて、元の手のひらサイズの可愛い姿に戻った。
「ピヨピヨ!」
元に戻ったヒナは、よちよちと俺の足元に近づき、靴をツンツンと突いてくる。
「はは、もう勝手に薬を浴びるなよ」
俺がしゃがんで頭を撫でると、親鳥が静かに俺を見つめ、深く頭を下げた。
そして、自らの翼から一枚の羽根を抜き取る。
どうするの?
それは、眩いほどに輝く黄金の羽だった。
――『スキル:黄金の羽』を獲得しました。
「絆が生まれたみたいだ」
「スキルを獲得したのか。きっと親鳥が私たちに感謝したのだろう。それでコウイチと絆の関係になったと」
「だから獲得したのね」
「体が軽い。風に押されてるみたいだ」
「速度上昇のスキルでしょう」
試しに一歩踏み出すと、思わずステップを踏んでしまうほど軽快だ。
「よかったですね、コウイチさん! これでカースの攻撃も避け放題です!」
フィンが嬉しそうに拍手をする。
「ピヨピヨ!」
ヒナは最後に一度だけ俺たちの周りをくるりと回り、親鳥の背中に飛び乗った。
二羽は大きく羽ばたき、青空の彼方へと飛び去っていく。
「一緒に行けないのは寂しいけど」
ライラが空を見上げ、微笑む。
「やっぱり、お母さんのところが一番よね」
「ええ。私たちも、私たちのやるべきことを頑張りましょう」
エルザの言葉に、俺は静かに頷いた。
偶然から始まったドタバタ劇だったけど、
俺たちはまた一つ、大切な絆と、新たな力を手に入れた。
王都の平和を守りながら――
俺たちは、確実に決戦の日へと近づいていく。




