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ブラック企業の社畜だった俺は、転生したらスキル無限獲得になった ~底辺人生からチートになって、最強に成り上がる~  作者: 奥野ミズオミ


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第5話


 薬草採取の依頼は、あっけないほどスムーズに完了する。スキルの恩恵がある。



 俺の『剛力』と『俊足』のおかげで、移動と採取の効率が異常に高かったのだ。



 どのようにしたかと言うと、ライラが「ここだ」と目星をつけた場所に着くと、俺が片手で岩を動かし、奥に生えた月影草を根こそぎ引っこ抜く。



 その力業には、ライラも少し呆れ顔だった。意外と楽しいな。



 これなら毎日でもできそうだな。



「コウイチ、もう少し丁寧に扱えないの? 薬草が傷むわよ」



「いや、力を加減しているつもりなんだけど、どうもこの『剛力』って奴は、俺の想像以上らしい。ブラック企業時代の俺からは考えられないパワーで、あの頃が嘘みたいだ」



 採取した月影草を麻袋に詰める作業をしながら、俺は苦笑いを浮かべた。



 その間も、俺の胸ポケットにいるプニは時どき、「ぴゅい、ぴゅい」と可愛らしい音を立てていた。



 お腹空いたとか?



「でも、コウイチがそんなに頼もしくなって、私は本当に嬉しいわ。これで、もうあの時みたいに、無力なまま死ぬことはない」



 ライラの言葉は、いつも俺の核心を突いてくる。あの過労死の瞬間、抗う力も、逃げる力もなかった絶望。


 それを、彼女は知っている。



「ああ、二度とあんな思いはしたくない。この力は、俺自身と、そして新しくできた仲間を守るために使う」



 プニは、俺の胸元でぷるんと震え、俺の言葉に同意したようだった。本当に可愛いな。



 言葉は通じなくても、プニが俺を信頼してくれているのがわかる。



 たった一匹のスライムとの絆が、こんなにも俺の心を安定させていることが不思議だった。



 依頼品である月影草の麻袋を、俺は難なく背負った。



 ライラが持とうとしてくれたが、俺の『剛力』で持ち上げれば、まるで羽のように軽い。



 全然重くないな。



「さあ、街に戻ろう。日没が近くなると、森の魔物も活発になるだろうから」



 ライラは慣れた様子で地図をしまい、帰るとする。暗くなる前に帰ろう。



 太陽はまだ西の空に残っているが、この深い森の中では、すでに光が弱まり始めていた。



 気を引き締めないと。俺はまだ、冒険者として経験が浅いんだからな。



 意識的に全身の感覚を研ぎ澄ませた。



 ライラの背中を追いつつ、俺の新しい人生は、こんなにも静かで、しかし常に危険と隣り合わせなんだと改めて実感する。



 しばらく、二人は沈黙して歩いていた。ライラが獣人特有のしなやかな足運びで進む横で、俺も『俊足』のおかげで疲れを感じずに付いていく。



 その時だった。俺の鼻に異質な匂いが飛び込んできた。



 森の湿った土の匂いや、樹液の甘い匂い、そしてライラの革鎧の匂いといった、日常的な情報とは全く異なるものだった。



 何かなこの匂いは?



「ライラ、ちょっと待ってくれ」



 俺は立ち止まり、意識的に鼻で深呼吸をした。



「どうしたの、コウイチ? もう疲れた?」



 ライラが心配そうな顔で振り返る。



「いや、違うんだ。疲労なんて全くない。それより、何か変な匂いがしないか?」



 ライラは、自分の大きな獣耳をピクピクと動かし、鼻をヒクつかせた。



「匂い? ええと、普通の森の匂いしかしないわ。鹿のフンがちょっと遠くでしたかな。コウイチは、どんな匂いがするの?」



 ライラの反応に、俺は戸惑いを覚えた。彼女は獣人だ。



 嗅覚は俺なんかより圧倒的に鋭いはずなのに。俺が感じたのは、確かな、しかし微かな匂いだった。



「なんか、鉄錆のような、血の匂い? それに、獣の毛が焦げたような匂いが混じってる。すごく切羽詰まった、パニックになっている動物の匂いもだ。まるで、誰かが苦しんでいるような」



 俺がそう説明すると、ライラの表情が真剣に変わった。何かあるかもな。



「鉄錆と血の匂いそれは、罠の可能性が高いわ。獣人である私よりも、コウイチの方が正確に感じ取っているなんてまさか、あなた、また何か」



 ライラはそう言いかけて、ハッとして口をつぐんだ。



 彼女は、俺が『絆結び』によって特殊な知覚を獲得しつつあることを薄々感じ取っているのだろう。



 俺はまだスキルを獲得していないはずだが、潜在的な能力が覚醒し始めているのかもしれない。



 そして、その俺の推測を裏付けるように、遠くから「クゥン」という、途切れ途切れの、小さな泣き声が聞こえてきた。



 声がするよな。



「今の確かに、子どもか、小型の獣の鳴き声ね。あれは尋常じゃない」



 ライラが剣に手をかける。



「匂いのする方へ行こう、ライラ。多分、助けを必要としている」



 俺の体はもう、立ち止まって考えることを拒否している。



 理不尽な暴力や、弱者の苦しみに遭遇した時、俺の心は反射的に反応する。



 俺は『俊足』を使い、ライラを先導して、匂いの元へと一気に駆け寄った。



 怖いなんて言ってられないな。例え危険があるとしても行ってみる。



 ライラも驚異的なスピードで俺に追いつく。



 そして、木立の隙間を抜けた先に広がっていた光景に、俺は再び息を飲んだ。



「あっ罠!」



 やはり、それは罠だった。



 木の根元に設置されたワイヤーの締め付け罠に、幼いウルフが片足を取られていた。



 体毛は光を反射して銀色に輝き、その顔立ちは気高く、すでに王者としての威厳を漂わせている。



 だが、今はまだ幼体。体は小さく、ワイヤーが食い込んだ右前足からは、鮮血が滲み、土を濡らしていた。



 痛々しいな。助け出したいな。



「クゥン、ガウゥ!」



 痛みと恐怖で錯乱しているのだろう。



 ワイヤーがさらに食い込むのも構わず、必死に噛みついたり、引っ張ったりして逃れようともがいていた。



「ひどい、こんな小さな子に、こんな残酷な罠を仕掛けるなんて!」



 ライラが怒りに声を震わせた。



「ライラ、警戒を! 落ち着け! 俺は敵じゃない!」



 俺はゆっくりと、威嚇するウルフに近づいた。



 幼いながらも、その鋭い牙と、獲物を追い詰める銀狼の血脈は、見るものを圧倒する。



 ライラが言った通り、ウルフの魔物は非常に気性が荒いかもしれない。



 不用意に手を出せば、噛みつかれて重傷を負う可能性もある。



 しかし、俺の心は決まっていた。この子も、理不尽に苦しんでいる。



 俺が、この子を助けるんだ! 目の前にいる恐ろしいはずの魔物ではなく、ただの怯えた小さな命としてウルフを見た。



 ウルフは俺の接近に気づき、最大限の威嚇の唸り声をあげた。



「ガアアア!」



 俺はウルフを無視し、罠の構造に集中した。ワイヤーの根本にある、金属製の留め具。



 これを破壊しない限り、ワイヤーは外れない。



「ライラ、頼む。俺が罠を外す間、周りを頼む! 敵がいないか確認してくれ!」



「わかったわ! 無茶しないでね、コウイチ!」



 ライラが周囲を警戒する中、俺はワイヤーを掴んだ。ウルフは恐怖から、俺の腕目掛けて噛みつこうと飛びかかってきた。



「くっ!」



 俺は『俊足』で紙一重でかわし、その動きを制するように、ワイヤーの留め具に『剛力』を集中させた。



 ギュルルルルルルルル!!



 俺の両腕に、ライラとの絆で得た途方もない力が満ちる。もうちょい我慢してくれな。



 見た目は細身の青年の腕だが、その内部には、人間離れした、規格外の筋力がある。



 金属の音、耳障りな甲高い音。



 キンッ!



 硬いはずの鋼鉄製の留め具が、俺の力で曲がり、弾け飛んだ。



 ワイヤーがゆるみ、ウルフの右足が自由になった。



 ウルフは急いで足を引っ込めたが、痛みに耐えかねたのか、その場にうずくまってしまった。



 外れたけど、痛そうだな。



 罠から解放されたものの、シロはまだ俺を警戒し、震えていた。



 俺は、その小さな命をこれ以上苦しめたくない一心で、ゆっくりと、完全に無防備な手のひらを差し出した。



「もう、大丈夫。怖がらなくていい。痛いだろう。すぐに治してやるから、我慢してくれ」



 手のひらの上で、ウルフの体温を感じるのを待った。



 頼む噛みつかないでくれ。でも、もし噛みつかれても、この子を責めたりはしない。



 だって、この子が受けた理不尽な苦痛に比べたら、俺の痛みなんて取るに足らない。



 俺の心の中は、ひたすらウルフに対する同情と、純粋な気持ちで満たされていた。



 その熱意が伝わったのだろうか。ウルフは、警戒しながらも、痛む足を庇いながら、俺の差し出した手に、クンクンと鼻先を押し付けた。



 その瞬間、俺の魂が求めていたものが、全身を駆け巡った。俺は震える手を、そっとウルフの頭部に乗せた。



モフモフ!



 言葉にできない。硬質なワイヤーに傷つけられていたというのに、その毛皮は信じられないほど柔らかく、温かく、そして優しかった。



 なんて、なんて癒やされるんだ。この感触こそが、俺が前世で、疲弊しきった心と体で求めていた、究極の安らぎだ!



 俺の心は、激しい怒りから一転、この上ない至福と安心感で満たされた。命を助けたという満足感。



 そして、その毛並みに触れることでの気持ちよさに。



 俺がこの子に対して抱いた、心からの『共感』と、『癒やし』への願望。その瞬間、三度目の光が、俺と幼いウルフを包み込んだ。



> 対象:名無しのシルバーウルフ、幼体との間に深い『絆』を検出。



> 『絆結び』発動。



> 対象の特性より、スキル『嗅覚強化』を獲得しました。



> 対象の特性より、スキル『夜目』を獲得しました。



> 貴方のスキルリストに『嗅覚強化』『夜目』を追加しました。



 三度目だ! 俺は、内側から湧き上がる新たな力に驚いた。


 まず、『嗅覚強化』。森のすべての情報が、文字通り押し寄せてきた。



 腐葉土が分解されていく過程の匂い、遠くでライラが剣の柄を握りしめる手の微かな汗の匂い、シルバーウルフの傷口から流れる血液の匂い。



 これまでの世界の匂いとは全く次元が違う、詳細で生々しい情報量が、一気に俺の鼻を襲った。



 あまりの情報量に、一瞬、頭がクラクラしたほどだ。凄いなこのスキルは。



 次に、『夜目』。



 先ほどまで薄暗くなっていた森の光景が、まるで高性能のナイトビジョンゴーグルを装着したかのように、細部まで鮮明に見えるようになった。



 遠くの木の葉の脈、地面を這う昆虫の動きまでが、はっきりと視認できる。


 視力がハンパないぞ。



「コウイチ! あなた、また、光に包まれているわよ」



 ライラが驚きと期待の混じった顔で俺を見た。俺は、抱き上げたウルフのモフモフの毛並みを撫でながら、ライラに告げる。



「スキルを獲得した。また強くなった。この子の力だ。俺は今、森の匂い、音、光、すべてを、前の何十倍も鮮明に感じ取っている」



 ライラは目を見開いた後、心底嬉しそうに微笑んだ。



「すごいわ、コウイチ。その優しさが、あなたを際限なく強くしていく。それは、誰にも真似できない、あなただけの力よ」



 俺の腕の中で、ウルフの子は安心したように、小さな鼻を俺の服に埋めてきた。



 プニと同じで可愛いな。



 その仕草に、俺の心は完全に降伏した。



「この子を、置いていくなんてできない」



 俺の胸ポケットのプニが「ぴゅい?」と鳴く。



「プニ、新しい仲間だよ。君と同じ、俺たちの大切な家族だ」



 俺は、ウルフを抱きしめ、改めて名前を考える。先程のやり取りで魔物の種類はシルバーウルフと知った。



 毛並みは銀色でフサフサしていることから名前を考えよう。



「君は、その銀色の毛並みから、シロだ。今日から、俺の仲間として、一緒に生きていくんだ」



「シロか。可愛い名前だ」



「シロから得たスキルは嗅覚強化と夜目だった」



「鼻と視力の強化スキルだろうな。また強くなったなコウイチ」



「シロに嗅覚強化のスキルがあって、俺に少しだけスキルの能力を与えていたのかもな」



「だからコウイチは嗅覚がさっき敏感になったなら、シロはコウイチを遠くから感じていたのだな。お互いに通じていたとしか説明できないな」



 シロは、小さく「クゥン」と鳴き、俺の腕にしがみついた。



 俺のパーティーは、勇敢な獣人のライラ、言葉を持たないスライムのプニ、そして傷ついた幼きシルバーウルフのシロ。



 どんどん特殊なメンバーが増えていく。そして、俺のスキルも、『剛力』『俊足』『毒耐性』『液体化』に加え、『嗅覚強化』と『夜目』という、探索に必須の能力まで手に入れた。



 転生後の第二の人生は、もう孤独ではない。



 この愛すべき仲間たちとの絆を深め、この異世界で、理不尽に負けない強さを手に入れている。



 寂しさもないし、むしろ癒やされているかな。



「さあ、ライラ。早く街に戻って、シロの傷を治そう。夜道は『夜目』がある俺が、安全に案内してやる」



 俺は、『夜目』で隅々まで鮮明に見える森の道を踏みしめ、力強く歩き出した。



 俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ。

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