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俺たちは果樹園のベンチに座り、残った黄金リンゴを分けて食べた。
「本当に甘いわね。疲れが一気に吹き飛ぶわ」
ライラがうっとりとした表情で、最後の一切れを口に運んだ。
「魔力が体の底から湧き上がってくるようです。不思議な力ですね」
エルザも自分の手を見つめて、感心したように呟いた。
「むふふ。私の食いしん坊も、たまには役に立つでしょう?」
フィンが鼻を高くして、自慢げに笑っている。
自分で言うかよ。
「ああ、助かったよ。妖精の加護まで手に入ったしな」
俺はステータス画面を閉じて、立ち上がった。
またスキルが増えた。
冒険を続けていくとスキルが増えていくのは面白いな。
すると、先ほどの妖精の女の子が、またひらひらと飛んできた。
「ねえ、勇者様。お礼に、とっておきの場所に案内してあげる」
「とっておきの場所? まだ何かあるのか?」
俺たちは妖精に誘われて、果樹園のさらに奥へと歩いていった。
とっておきて、興味ある。
みんなも断ることなく行くとなった。
そこには、小さな水晶のように透き通った泉があった。
「ここは『記憶の泉』。心の中にある大切な絆を、形にして見せてくれるの」
妖精が杖を振ると、泉の水面がキラキラと光りだした。
「うわぁ。綺麗ですね」
エルザがそっと水面に顔を近づけた。
何か映っているっぽい。
覗いてみると。
そこには、俺たちがこれまで一緒に戦ってきた名場面が映し出されていた。
初めて出会った時のこと、キングオークを倒した時のこと。
「懐かしいわね。最初はコウイチのこと、ただの変な奴だと思ってたわ」
ライラがくすくすと笑いながら、俺の肩を小突いた。
こんなこともあったな。
「私は、コウイチさんの『絆』の力に救われました。今も感謝しています」
エルザが真っ直ぐな目で俺を見つめてくる。
記憶にあるし、忘れていないさ。
「私はあわわ! 自分が転んでいるシーンばっかり映っています!」
フィンが水面を指差して赤くなっている。
確かに、フィンがドジを踏んでいる場面は、見ていて飽きなかった。
面白いな。
「わふん!」
「シロとの出会いも忘れていないよ」
シロが水面に向かって吠えると、俺たちの姿が一つに重なった。
「ここまでの過去ですね」
「みんな。俺の方こそ、ありがとうな」
俺は照れくさくなって、頭をかいた。
日本にいた頃は、こんな風に振り返る思い出なんて一つもなかった。
毎日が灰色で、ただ生きるために働いていただけだった。
でも今は、この仲間たちとの思い出が、俺の宝物だ。
「絆が強くなれば、泉の結晶が手に入るわ。それを持って行って」
妖精が泉の中から、小さな虹色の石を取り出して俺にくれた。
「これは『絆の欠片』。いつか、本当に困った時に力を貸してくれるはずよ」
俺は石を大切にポケットにしまった。
大切に持っていよう。
使う時が来るまで。
「ありがとう。大切にするよ」
「頑張ってね、勇者様。悪い魔王軍なんかに負けないで」
妖精は俺の周りを一周すると、森の奥へと消えていった。
俺たちは果樹園を後にして、王都への帰り道を歩き出した。
夕日が長く伸びている。
「さて、今度こそ休みましょうか」
ライラが前を見据えて言った。
「うん、予定外の事があったからな」
「帰り道に、美味しいパンを買っていきましょう! お祝いに!」
フィンがまた元気よく走り出した。
「コラ、フィン! また転ぶぞ!」
「大丈夫ですよ、今の私は黄金リンゴパワーで、あがっ!」
案の定、フィンは何もない平坦な道で豪快に転んだ。
「やっぱり、いつも通りね」
エルザが苦笑いして、ヒールをかけた。
俺たちの笑い声が、夕暮れの街道に。
この何気ない時間が、俺にとって一番守りたいものなんだ。
王都の門が見えてきた。
門番の衛兵たちが、俺たちの姿を見て敬礼をする。
「おかえりなさい、Aランクの英雄の皆さん!」
「ああ、ただいま」
俺は胸を張って答えた。
宿屋に帰ったら、ご飯にするかな。




