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豪華な大広間に、シャンデリアの光が降り注いでいた。
バイオリンの綺麗な音が響き、貴族たちが楽しそうに笑っている。
でも、俺の神経はピンと張り詰めていた。
めっちゃ緊張する。
でもあまり周囲を見ていると俺が怪しいからな。
そこが難しいところか。
普通に振る舞いつつ、警戒もする。
「コウイチ、左奥のバルコニーに怪しい二人組よ」
ライラがグラスを傾けるふりをして、耳打ちしてきた。
「わかってる。空間把握で動きは追ってるよ」
俺はセシリア様の背後に立ち、周囲の気配を読み取った。
セシリア様は、緊張で顔を少し強張らせている。
俺はセシリア様にお声をかけて、
「大丈夫ですよ。俺たちが絶対に守ります」
「はい。ありがとうございます、コウイチ様」
セシリア様は小さく微笑んだけど、その手は微かに震えていた。
無理もない。自分の命を狙う刺客が、この会場のどこかにいるんだから。
どんなに護衛がいても不安だろう。
必ず守るとあらためて決意する。
予想よりも多くの人がいるのは、やりにくい。
さすが伯爵の食事会だけあって、それだけ人脈も多いのだろう。
人が多ければ多いほど、護衛は困難になる。
「あわわわ! コウイチさん、あっちに美味しそうな肉料理が!」
通信用の魔導具から、フィンの興奮した声が聞こえてきた。
「フィン、今は任務中だぞ。つまみ食いするなよ」
「わ、わかってますよ! ちゃんと柱の影から監視してます!」
頼むぞフィン。
「シロはどうだ?」
俺が尋ねると、足元の影から「ワン」と短い返事が返ってきた。
シロは透明化のスキルを使い、俺のすぐ側で待機している。
オッケーだぞ、シロ。
その時、会場の入り口が大きく開いた。
誰か入って来たな。
「おお、これはエドワード伯爵。今夜も素晴らしい会ですな」
太った男が、傲慢な笑みを浮かべて入ってきた。
「バルモン伯爵、どうもお会いできて嬉しい」
エドワード伯爵が、苦々しい顔でその名を呼んだ。
犯人と目されている男、バルモン伯爵だ。
ターゲットの男は、まるで警戒を気にしていない様子だな。
護衛の存在を知っているのなら、演技力はあるな。
ターゲットのバルモンはゆっくりと、セシリア様の元へ歩み寄ってきた。
もちろん俺とライラで警戒をしている。
「セシリア嬢、今日も一段と美しい。どうですかな、私と一曲」
バルモンがセシリア様の手に手を伸ばした。
俺は自然な動きで、その間に割り込んだ。
踊らせるのは危険。
ここは中止させよう。
「失礼します。セシリア様は、先ほどダンスでお疲れのようです」
「貴様、何者だ? 礼儀知らずな使用人がいたものだな」
バルモンの目が、蛇のように冷たく光った。
「私はコウイチ。彼女の護衛を任されている者です」
俺がバルモンの目を見返すと、奴は鼻で笑った。
「護衛か。ふん、野蛮な冒険者を雇うとは、エドワード家も落ちたものだ」
「次回にでも、踊りましょうバルモン伯爵」
「ああ、その時はよろしくお願いしたい。コウイチは居ないほうがいいですが」
セシリア様は笑顔で言うと、バルモンは冷たい顔だった。
バルモンはそのまま、会場の奥へと去っていった。
「嫌な男ね。あいつの周りだけ空気が腐ってるわ」
ライラが不快そうに呟いた。
「コウイチさん、気をつけてください。バルモンが合図を送りました!」
天井近くの梁に隠れているフィンの警告が飛んだ。
動くかバルモン。
踊りに誘ったけど、あのまま踊っていたらどうなったのか。
止めて良かったと判断する。
ただ俺が護衛だとバルモンにはバレてしまった。
バルモンは行動に出ても、俺を殺してもいいと判断するだろうな。
「来るわよ! エルザ、準備!」
「はい! いつでもいけます!」
エルザが会場の隅で、袖の中に隠した杖に手をかけた。
直後、会場の明かりが一斉に消えた。
明かりを消してきたか。
完全にヤル気だな。
「ライラ、来るぞ」
「わかった。情報をくれ」
「きゃああああ!」
令嬢たちの悲鳴が響き渡る。
真っ暗闇の中。
俺の「空間把握」が鮮明に敵の姿を捉えた。
「右から三名、左から二名! ライラ、左を頼む!」
「了解! 俊足!」
ライラが暗闇の中を、黒い影となって駆け抜けた。
ライラの速さは敵よりも速いだろう。
しかも音もない足。
任せるライラ。
俺はセシリア様の肩を抱き寄せ、その場に屈ませた。
セシリア様には傷はつけさせない。
「動かないでください!」
ヒュッ、と風を切る音がして、暗殺者のナイフが俺の頬をかすめた。
ナイフか。
手慣れている。
動きに無駄がない。
かなりの暗殺者だろう。
「剛力!」
俺は魔導鋼の剣を抜き、目の前の刺客を峰打ちで叩き伏せた。
「ぐはっ!?」
「寝ていろ」
暗殺者が床に崩れ落ちる。
何が起きたか分かってないだろう。
「ぷるるんっ!」
セシリア様の足元で、プニが巨大化して壁になった。
あれは、矢?
飛び道具まで使うか。
しかもこの暗闇で使うのかよ。
「プニ! 守ってくれ」
瞬時にプニにお願いした。
プニなら対応してくれる。
背後から放たれたクロスボウの矢を、プニの体がポヨンと弾き返す。
ナイスだ!
「助かったぞ、プニ!」
「聖なる光よ、暗闇を照らせ!」
次はエルザが呪文を唱えると、会場の中心で光の玉が弾けた。
急に明るくなったことで、刺客たちが目を押さえて怯む。
「コウイチ、明かりです」
「ありがとうエルザ」
「ワンっ!」
シロが影から飛び出し、最後の一人の腕に噛み付いた。
「があああ! 犬だと!?」
これで一気に状況はつかめた。
俺はバルモン伯爵の元へ一気に踏み込んだ。
バルモンは慌てて懐から魔法のスクロールを取り出そうとした。
「やらせるか!」
俺の剣の柄が、バルモンの腹部に深くめり込んだ。
使わないよ。
相手が悪かったな。
「うぐっ、バ、バカな」
バルモンはその場に膝をつき、動けなくなった。
周囲の騎士たちが駆けつけ、刺客たちとバルモンを次々と捕らえていく。
みんなの行動が成功した。
確実にバルモンを阻止できた。
「終わったか」
俺は剣を収め、震えているセシリア様の手を取った。
「怪我はありませんか、セシリア様」
「はい。ありがとうございます、皆様。本当に、本当に」
「バルモンは拘束しました。安心していい」
「ありがとうございます。強いのですね」
「俺たちのパーティーなら、この程度はできます」
セシリア様は涙を流しながら、俺たちに深々と頭を下げた。
「いいのよ、これが私たちの仕事だもん」
ライラがドレスの汚れを払いながら、優しく笑った。
「コウイチさん! 私も、私も活躍しましたよね!?」
フィンが飛び降りて、案の定着地に失敗して転がってきた。
「あだだだ。でも、お肉料理は死守しました!」
「何を持ってきたんだ」
「これだからなフィンは。あははは」
フィンが懐からこっそり持ち出した唐揚げを見せて、みんなで大笑いした。
依頼主のエドワード伯爵が歩み寄ってきて、俺の右手を固く握った。
「恩に着る、コウイチ殿。君たちは真の英雄だ」
「いえ、仲間たちがいてくれたおかげです」
「バルモンは捕まえた。もう終わりだろう。この活躍はギルドにも伝えておく」
「ありがとうございます。また依頼があれば、ギルドに伝えてください」
「そうする。それと報酬も出すから受け取ってください」
「はい」
俺は仲間の顔を順番に見た。
この世界に来て、本当の仲間に出会えて、俺は幸せだ。
パーティーは一時中断されたけど、セシリア様の安全は守られた。
「コウイチ、また依頼を成功させたな」
「うん、ライラの動きは良かったよ」
俺たちは報酬を受け取り、宿へと戻った。
「貴族からも信頼される。本当に凄い成長です」
「王都でも最強のパーティーと呼ばれる日も近いですよ。そしたら私も有名人ですね」
「フィンの名前が国中に広がるな」
「どうしよう!」
「さて、明日はゆっくり休もうか」
「賛成! お昼寝をいっぱいするわ!」
「私は新しい魔導書の整理をします!」
賑やかな声を上げながら、俺たちは王都の夜道を歩いた。




