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下水道の激闘から一夜が明けた。
俺たちは宿屋「白銀の竪琴亭」のテラスで、ゆったりとした朝を過ごしていた。
みんな活躍したし、よく頑張ったな。
休暇も必要だと思う。
「今日はゆっくり過ごそうか。たまにはいいよ」
「そうですね、私は研究でもして過ごします」
「ふぁああ。やっぱり、お日様の下で飲む紅茶は最高ね」
ライラが背伸びをしながら、優雅にカップを傾けている。
「昨日の地下が嘘みたいに平和ですね、コウイチさん」
エルザがシロの毛並みをブラッシングしながら微笑んだ。
シロは気持ちよさそうだ。
「わふぅ」
シロも気持ちよさそうに目を細めている。
「平和。いい言葉ですね。私も二度寝したい平和さです」
フィンはパンを口に咥えたまま、机に突っ伏して寝ぼけていた。
みんなと出会ってから王都まで来るのも大変だった。
王都に来てからも、さらに激しくなった。
ほとんど休暇はなく来たし、俺も休みは欲しいからな。
紅茶は美味しい。
温まるな。
そんな穏やかな時間を破るように、宿の入り口が騒がしくなった。
なんだ?
何かあったのかな。
「失礼する! 冒険者コウイチ殿は、こちらにおられるか!」
カシャンカシャンと鎧の音を立てて、数人の騎士たちが中に入ってきた。
騎士?
なぜ来たのかな。
俺は思わず剣の柄に手をかけたが、騎士たちは敵意がないことを示すように膝をついた。
「なんだ? 俺が何かしたか?」
「いえ。王都の有力貴族、エドワード伯爵家より緊急の依頼に参りました」
騎士の一人が、豪華な刺しゅうが入った封書を差し出した。
「封書です、どうぞ」
「伯爵からですって、凄いじょんか」
「コウイチはついに貴族の仲間入りですかね」
「よくわからないけど、確認します」
俺は中身を確認した。
伯爵とか俺は誰も知り合いはいないけどな。
そこには、今夜開かれる貴族の晩餐会での護衛依頼が書かれていた。
「コウイチ、教えてくれよ内容を」
「晩餐会の護衛? 衛兵隊の仕事じゃないのか?」
「護衛の話か」
「それが。狙われているのは伯爵の愛娘、セシリア様なのです」
「誰が狙うと言うのよ?」
「エドワード伯爵からはバルモン伯爵とのことです。同じ貴族の方です」
「貴族と貴族の争いですかね」
騎士の話によると、犯人は同じ貴族のバルモン伯爵という男らしい。
バルモンは強硬派の貴族で、魔王軍との内通の噂もあるという。
元々バルモン伯爵は要注意な人物てことか。
「セシリア様を人質にして、エドワード家を屈服させるつもりだとか」
「なるほど。裏の動きがあるなら、俺たちパーティーの出番ってわけか」
「貴族の食事会パーティー! 美味しい料理がいっぱい出るってことですね!」
フィンがパッと目を覚まして、鼻息を荒くした。
「フィン、食べるのが目的じゃないわよ。護衛なんだから」
「はい。そういうライラも楽しそうですが」
ライラが釘を刺したが、彼女自身も少し楽しそうだ。
「ドレス、着られるかしら。戦いやすいやつじゃないと困るけど」
「私たちが側にいれば、セシリア様も安心してくれるはずです」
「やりましょうコウイチ」
「せっかくの休暇でしたが、やるべき依頼です」
「ドレス着れるし、やってもいいぞ」
エルザが優しく微笑むし、ライラもドレスに興味ありか。
やりたくない依頼なら無理はしない。
でも、みんながそう言うなら、俺は受けよう。
俺は騎士に向かって頷いた。
「わかった。その依頼、引き受けよう」
「わかりました。直ぐにエドワード伯爵に伝えます」
騎士は俺たちが受けると伯爵に伝えてくれた。
俺たちは早速、エドワード伯爵邸へと向かうことになった。
着いた先は、お城と見間違えるほどの巨大な屋敷だった。
「豪邸だぞ!」
「貴族っぽいな」
「うわぁ。下水道とのギャップが激しすぎます」
フィンが口を開けて見上げている。
俺たちが来るには、ちょっと場違いな雰囲気だな。
どうやってふるまったらいいのか、わからない。
執事に案内される。
部屋には、依頼主のエドワード伯爵と、一人の少女がいた。
「俺がコウイチです。それと仲間のライラ、エルザ、フィンです」
「よく来てくれた、英雄たちよ」
「手紙は読みました。なぜ俺たちに依頼を?」
「コウイチ達の活躍の話は噂で聞いている。手紙で書いた通りに、娘を守ってやってほしい」
「セシリアです。お騒がせして、申し訳ありません」
セシリア様は、エルザと同じくらいの年齢の、おしとやかな女の子だった。
でも、彼女の瞳には強い不安の色が浮かんでいた。
怖いのだろうな。
彼女を守りたいと思った。
単なる貴族の争いで、彼女が危険な面に合うのは防ぎたいと。
「バルモン伯爵は、手段を選ばない男です。今夜の食事パーティーでも。とても怖いのです。どうかお力を」
「大丈夫ですよ、セシリア様。俺たちがついています」
俺は『絆結び』の力を少しだけ意識した。
すると、セシリア様が驚いたように俺の顔を見た。
「なんだか、とても温かい風が吹いた気がします。不思議な方ですね」
「あはは。少し特技がありまして」
俺が照れくさそうに笑うと、部屋の空気が少しだけ和らいだ。
「このライラが守ると約束する」
「ありがとうございますライラ」
作戦会議が始まった。
「俺とライラは、セシリア様のすぐ側に控える」
給仕や客に化けた刺客を警戒する。
「エルザとフィン、そしてシロは会場の隅や天井裏から魔法と視覚で監視する」
「多角的に包囲するのは確実です」
「どこから来るかわからないからな。まあ、発見したら私が切ってやるが」
「シロ、頼むぞ」
「ワン!」
「プニはどうする?」
「ぷるん!」
プニはセシリア様のドレスの裾に、飾り石のふりをして張り付いた。
「これなら、不意の攻撃もプニが弾いてくれるな」
「プニ、よろしくな」
「完璧な布陣ね」
食事パーティーでの布陣は決まった。
初めての経験なので、俺が上手くできるか不安はある。
ただセシリア令嬢は絶対に守ると決めた。
「さて、問題は着替えか」
「私らも貴族の令嬢のようにします」
「うん、その方が怪しまれないな」
「コウイチもね」
「うん、着替えるよ」
と言ったものの、似合うのかな俺は。
数時間後。
鏡の前には、見違えるような姿の仲間たちがいた。
ライラはスリットの入った黒いドレス。
際どいな。
足元には隠しナイフを仕込んでいる。
エルザは清楚な白いドレス。
まるで令嬢だな。
「ライラ、エルザはよく似合っているよ」
「どうも」
「ありがとう」
フィンは、なぜかフリフリすぎるピンクのドレスで、歩くたびに転びそうになっていた。
これフィンにはダメな奴だろうに。
「コウイチさん! この服、動きにくいです! 助けてください!」
「フィン、我慢しろって。俺だってこの礼服、肩が凝るんだから」
俺は窮屈な襟元を緩めながら苦笑いした。
いわゆる紳士な服装になったが、俺は貴族に見えるかな。
ちょっと不安だな。
せめて落ち着かない行動はしないようにする。
食事パーティーが開催された。
すでに多くの貴族が会場に集まっている。
当然にエドワード伯爵、セシリア令嬢も入っているから、護衛の開始だ。
会場の広間からは、華やかな音楽が聞こえ始めていた。
「なんか、俺は場違いな感じする」
「大丈夫よ、コウイチは普通にしていればいい」
「その普通ってのが難しいのだが」
「さあ、開演よ。みんな、気を引き締めて」
ライラが鋭い目つきで言った。
「はい。命に代えても、セシリア様をお守りします」
エルザが杖を隠した袖を握りしめた。
俺たちはセシリア様を囲むようにして、光が溢れる大広間へと足を踏み入れた。
そこには、偽りの笑顔を浮かべた貴族たちと、獲物を狙う刺客の気配が混じっていたるのだろう。
それを見破れるかが鍵になる。
空間把握を使用する。
「空間把握、起動」
俺の視界に、広間全体の構造と人の動きがデータとして流れ込む。
「見つけた。怪しい動きをしている奴らが三人」
パーティーという名の戦場が、静かに幕を開けたようだ。




