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シロが吠えた先には、古びた鉄の扉があった。
「扉がありますよ」
「うん、向こうが気になる」
見えにくい扉だな。
下水道の壁と同化するように作られた、隠し扉だ。
「コウイチ、扉の向こうを把握できるのか?」
俺は「空間把握」で中の様子を探った。
なにかありそうだな。
「複数の生体反応がある。子供たちだと思う!」
「なんですって!? 早く助けなきゃ!」
ライラが扉を蹴り開けようとしたが、扉はびくともしなかった。
「魔法の鍵がかかっています! 無理に開けると罠が発動しますよ!」
フィンが慌ててライラを止めた。
「フィン、解除できるか?」
「もちろんです! こういうのは得意分野ですから!」
フィンがブレスレットを扉にかざして、呪文を唱え始めた。
頼むぞフィン。
カチッ、という小さな音がした。
重い扉がゆっくりと開いた。
「開きました!」
「フィン、素晴らしいです」
「良くやったぞ」
中に入ると、そこは下水道とは思えないほど清潔な石造りの部屋だった。
部屋のようだが、普通の部屋じゃないな。
壁には魔法のランプが灯り、棚には不気味な薬瓶が並んでいる。
そして部屋の隅にある大きな檻の中に、行方不明になっていた子供たちがいた。
「みんな、無事か!」
俺が駆け寄ると、子供たちは怯えた表情であった。
「助けに来たわ! もう大丈夫よ!」
ライラが優しく声をかける。
誰なんだ、こんな酷いことをするのは。
一番年上っぽい男の子が震えながら口を開いた。
「お兄ちゃんたち、冒険者? 怖いおじさんが、僕たちを改造するって」
改造。その不吉な言葉に、俺は奥歯をかんだ。
やっぱり、あのキメラはこいつらを使って作ろうとしていたのか。
だとすると、とんでもない事態だぞ。
「改造なんて私がさせやしない。もう安心していいぞ」
「誰がそんなひどいことをするの?」
エルザが檻の鍵を壊しながら尋ねた。
そこで、誰かいる気配が。
誰かいるか?
「私だ。せっかくの最高級の素材を台無しにしてくれたな」
背後の闇から、冷ややかな声が響いた。
俺たちは一斉に振り返った。
男?
そこには、白衣のようなローブ。
痩せ細った男が立っていた。
男の瞳は濁った金色で、狂気の色が混じっている。
「お前がこの実験の責任者か?」
俺は剣を構えて一歩前に出た。
「私はドクター・メビウス。四天王カース様より、不死の軍勢を作るよう命じられた者だ」
メビウスと名乗った男は、ニヤリと笑って薬瓶を取り出した。
ドクターというからには、博士のようだ。
しかし俺たちには良くない博士なのは確実だな。
「カースの手下か」
「やることが酷い。魔王軍らしいやり方」
酷いと言うとメビウスは反論してきて、
「子供の純粋な魔力と魔獣を合成すれば、最高のキメラができる。それを邪魔するとは、万死に値するな」
「ふざけるな! 子供の命をなんだと思ってるんだ!」
ライラが怒りを爆発させて突っ込んだ。
「俊足!」
ライラの剣がメビウスの首を狙う。
しかし、メビウスの姿は幻のようにかき消えた。
「消えた! 私の剣が!」
どうなっている?
消えたが?
ライラも困惑している。
「あはは! 私は戦士ではない。罠の専門家なのだよ!」
部屋の床に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
魔法陣だ。
ものすごく危険な予感がする。
とっさに俺は真理の盾を使うと決める。
「みんな、俺の周りに集まれ! 真理の盾!」
「はい!」
俺は即座に黄金の障壁を展開した。
「あれは矢です!」
「火柱も来たぞ!」
直後、部屋の壁から無数の矢が放たれ、床からは火柱が上がった。
ドォォォン!
激しい衝撃が盾を襲うが、俺たちの絆の力は揺るがない。
みんなを絶対に守る。
「盾の外は危険です! 私が解呪の祈りを捧げます!」
エルザはこの状況を変えられるとなる。
杖を高く掲げ、浄化の光を放った。
「聖なる霧よ、邪悪を払え!」
エルザの光がメビウスの仕掛けた罠を次々と無効化していく。
さすがだ!
エルザの魔法が罠よりも上なんだ。
「な、なんだと!? 私の精緻な罠がこうも簡単に!」
メビウスが狼狽した。
今がチャンスだ。
その隙を見逃さなかった。
「シロ、行け!」
「わんっ!」
シロが弾丸のように飛び出した。
逃げようとしたメビウスの足に噛み付いた。
「ぎゃあああっ! この獣め!」
メビウスが転倒したところに、フィンが追い打ちをかけた。
「知識の重圧、最大出力です!」
巨大な魔力の圧力がメビウスを地面と密着させる。
これでメビウスは動けない。
一気に俺たちの有利になった。
メビウスを拘束して、地上に送ろう。
「さあメビウスよ、終わりだ。お前を拘束する」
「ぐ、うぅ。カース様、申し訳、ありま、せん」
「あっ、何かするぞ、コウイチ!」
「しまった!」
薬品を飲み込んだ。
一瞬のことだったから、止められなかった。
メビウスは毒薬を飲み干しほしたらしく、そのまま絶命した。
間に合わないか。
「死んだ。情報を聞き出したかったけど、仕方ないわね」
ライラが舌打ちをした。
「まさか毒を飲むとは思わなくったな」
「先に子供たちを助けましょう」
優先的にメビウスよりも子供を地上に送ろうとなる。
俺たちはすぐに子供たちを檻から出し、下水道の外へと誘導した。
「もう安心だ。お家へ帰ろう」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「無事で良かった」
子供たちは泣きながら頷いた。
地上に戻る。
衛兵隊に子供たちを預け、俺たちは深い安心感があった。
「これで神隠し事件は解決ね」
エルザが空を見上げて微笑んだ。
「でも、カースは街の内部まで手を伸ばしていることが分かったわ」
ライラの言う通りだ。
四天王の影は、俺たちのすぐ足元まで迫っている。
「コウイチさん、見てください。メビウスが持っていた資料です」
フィンが部屋から回収してきた書類を差し出した。
そこには、王都の地下深くにある『封印の祭壇』の詳細な地図が載っていた。
「『封印の祭壇』ですか」
「カースの狙いはやっぱりここだ」
俺は地図を指でなぞった。
「特訓も終わったし、子供たちも助けた」
「ええ。準備はできているわ。コウイチ」
ライラが俺の手を握った。
エルザも、フィンも、力強く頷いた。
俺たちは一度宿に戻り、休息を取ることにした。
いよいよ、王都の運命を決める戦いは近いな。




