30話
ザガンの灰が風に消える。
図書館の屋上には静かになった。
俺たちは緊張の糸が切れて、その場に座り込んだ。
「終わったわね。本当に街が吹き飛ぶかと思ったわ」
ライラが剣を鞘に収めながら、大きく息を吐いた。
「コウイチさん、ページを確認しましょう!」
フィンがプニから受け取った紙片を、大事そうに本に挟んだ。
俺たちは屋上から図書館の中へと戻ることにした。
図書館は、とても静かだな。
もう誰も敵は居ないとは思う。
俺たちは一階の大きなテーブルに集まり、魔法ランプを囲んだ。
「詳しく解説をお願いフィン」
「わかりました」
フィンが真剣な顔で、取り戻したページを読み進める。
「これです。カースの力の正体が書いてあります」
「何が書いてあるんだ? 」
まさに欲しい情報だ。
俺が身を乗り出して聞くと、フィンはメガネの奥の瞳を鋭くした。
「カースの司る属性は『腐敗』と『呪い』です。触れるものすべてを朽ち果てさせる力です」
「朽ち果てさせる。防具も剣もボロボロにされるってこと?」
ライラが顔をしかめた。
「はい。でも、この本には『不屈の光』という対抗手段が記されています」
フィンが解説を続けようとした、その時だった。
何か感じる?
誰か居るのか?
しかし敵のような魔力とは違うような。
「よくぞ、この知識を守ってくれました」
どこからか、透き通った声が聞こえた。
やはり誰か居るぞ。
「誰だ!?」
俺は咄嗟に立ち上がり、周囲を警戒した。
本棚の影から、ぼんやりと青白い光が溢れ出した。
その光は集まり、一人の女性の姿を形作っていく。
透き通るような長い髪。
古い司書のような服。
とても綺麗な女性だった。
でも、彼女の足元は床に触れておらず、透けて見えた。
「幽霊!? あわわ、出ましたぁ!」
フィンが叫んで俺の背中に隠れた。
「落ち着け、フィン。悪い気配はしない」
「幽霊じゃないなら、誰だ!」
「名のりなさい。さもないと切るぞ」
「私はこの図書館の精霊、リステリア。長い間、この場所を守り続けてきた者です」
精靈?
敵なのかわからないな。
精霊の女性は、優しく一礼した。
「精霊様。さっきの戦いを見ていたんですか?」
エルザが恐る恐る尋ねた。
「ええ。カースの刺客がこの場所を破滅させようとした時、私は消滅を覚悟しました。でも、あなたたちが救ってくれた」
リステリアは俺の目の前までふわりと浮いてきた。
「特にコウイチ。あなたの持つ『絆』の力、見事でした」
リステリアは俺の胸元にそっと手をかざした。
「知識とは、誰かと分かち合うことで初めて命を宿します。あなたの絆は、本の精神そのものです」
温かい光が俺の体に流れ込んでくる。
「リステリア、俺たちは当たり前のことをしただけだよ」
「いいえ。その当たり前が、最も難しいのです。感謝の印に、私の力をあなたに託しましょう」
頭の中に、新しいスキルの情報が流れ込んできた。
【スキル獲得:『真理の盾』】
(リステリアとの絆により、あらゆる呪いと腐敗を無効化する光の障壁を展開する)
『古代の叡智』:
(魔法の詠唱速度が上がり、消費魔力が半分になる)
精霊と絆の関係になった。
悪い敵ではなかったな。
どうやら俺たちが図書館を守ったから絆になったらしい。
「これなら、カースの力にも対抗できるかもしれない!」
俺が驚いていると、リステリアは満足そうに微笑んだ。
「私はここを離れることはできません。でも、私の知識と心は、常にあなたの絆と共にあります」
「ありがとうございます、リステリアさん。大切にします」
「さて、あなたたちは行くべき道へ戻りなさい」
リステリアの体が、少しずつ薄くなっていく。
「リステリアさん! また会いに来てもいいですか?」
フィンが背中から顔を出して手を振った。
「ええ。この図書館がある限り、私はいつでもここにいます。勉強熱心なあなたは大歓迎ですよ」
精霊は最後に優しく微笑む。
再び本棚の影へと消えていった。
また会えるといいな。
「フィンさん!! 何があったのですか。凄い大きな音がしましたが?」
「ああ、受付さん。魔族がいたのですが、私たちで討伐しました。図書館は安全です」
「あ、ありがとうございます」
受付にはお礼を言われる。
図書館の外に出る。
「すごい体験をしちゃったわね。精霊様と絆を結ぶなんて」
ライラが伸びをしながら言った。
「これで四天王カースに対抗する準備が整いましたね、コウイチさん!」
エルザが新しい希望に満ちた顔で俺を見た。
「ああ。いずれは、カースのところへ乗り込もう」
「あ、あのコウイチさん! 今のスキル、私も少しだけ使えるようになりませんか?」
フィンがノートを広げて追いかけてくる。
「欲張りだなあ、フィンは」
「だって、知識は力ですから! あいたっ!」
案の定、フィンは図書館の入り口の石段で躓いて転んだ。
「もう、台無しよ」
ライラの呆れ声と、俺たちの笑い声が街に響いた。
俺たちは次なる戦いを待つ。
宿へとゆっくり歩き出した。




