28話
俺は手紙をテーブルに置いて、深く椅子に座り込んだ。
「四天王のカース。いきなり本物が接触してくるなんてな」
心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
ガルザスの戦いを思い出す。
まだ震える。
「コウイチ、すぐに行くつもり?」
ライラが真剣な目で俺を見てくる。
「いや、今はやめておこう。相手の土俵に乗るのは危険すぎる」
俺は首を振って答えた。
今の俺たちには、四天王に関する情報が圧倒的に足りない。
がむしゃらに突っ込むのは、危険と判断したい。
「賢明な判断です。まずは相手を知ることから始めましょう」
エルザがホッとしたように胸をなでおろした。
「情報なら私に任せてください! 王都の大図書館には、あらゆる記録が眠っています!」
フィンがメガネをキラリと光らせて立ち上がった。
こういう時のフィンは元気になる。
「魔王軍の弱点や、四天王の正体について書かれた古代文書があるはずなんです!」
「大図書館か。よし、そこへ行ってみよう」
「フィン、本当にあるのか。信じていいのか?」
「ライラ、私を信用してください」
「お前だから信用できないのだぞ」
「大丈夫です」
ライラはやや不安な顔。
でもここはフィンを信じて行動と決まった。
俺たちは翌日に行動を開始。
宿を出て、王都の北側にある大図書館へ向かった。
白亜の殿堂のような巨大な建物が見えてきた。
これは大きな図書館だな。
建物からして相当な本がありそうだ。
「うわあ。本が山のようにあります!」
「頭痛い」
「ライラは図書館か苦手っぽい」
「私から来ることはないからな」
中に入ると、見上げるほどの高さの本棚が並んでいた。
ライラは苦手みたいだな。
逆にフィンは水を得た魚のように、受付へと走っていった。
「すみません! 『闇を封ずべき光の記録』という本を探しているのですが!」
受付の司書さんは、困ったような顔でフィンを見た。
「その本でしたら、つい一時間ほど前に貸出中になりましたよ」
「ええっ!? そんな、タイミングが悪すぎます!」
フィンがガクッと膝をついた。
「誰が借りていったんですか?」
俺が尋ねると、司書さんは台帳を確認して首を傾げた。
「それが、貸出カードの記録が真っ白なんです。おかしいわね」
「残念ねフィン。あきらめましょう」
「あの本が必要なんです! 困ったな」
「無いものはないのよ」
「エルザさん、探しましょう」
「どうやって探すと」
フィンは困っている。
そこで 俺の「空間把握」を使う。
微かな違和感を察知した。
床に、うっすらと黒い霧のような跡が残っている。
「ライラ、エルザ、見てくれ。この足跡、普通の人間じゃない」
「魔力の残りね。さっきの手紙の紋章と同じ匂いがするわ」
ライラの鼻が反応したらしい。
剣の柄に手をかけた。
「魔王軍が先回りしたっていうの? 私たちの動きがバレてる!」
エルザが周囲を警戒する。
足跡は図書館の奥、禁書庫の方へと続いていた。
「追いかけるぞ! 本を取り返さないと、四天王に対抗できない!」
「追いかけましょう」
「逃がさいぞ」
俺たちは静かに、しかし素早く本棚の間を駆け抜けた。
「コウイチさん、待ってください! あわわっ!」
フィンが積み上げられた本で派手な音を立てた。
「静かに、って言ったそばからこれだ」
「すみません! でも、敵の気配が右側の通路からします!」
ドジだけど、フィンの「魔力感知」は鋭い。
角を曲がると、そこには黒いローブの集団がいた。
彼らは一冊の古びた本を奪い合い、窓から逃げようとしていた。
さては、あいつらが俺の探す奴らか?
マズイな、このままでは逃げるぞ。
「待て! その本を返してもらおうか!」
俺が叫ぶと、ローブの男たちが一斉にこちらを向いた。
フードの奥で、赤い目が不気味に光っている。
まさしく怪しいな。
「絆を紡ぐ者。邪魔をするなら消すまでだ」
男たちが呪文を唱え始め、図書館の中に不穏な風が。
図書館で戦闘する気か。
狭いし、本来は戦闘で使う場所じゃないだろう。
「やらせないわよ! 俊足!」
ライラが弾丸のような速さで突っ込んでいく。
「エルザ、火魔法で! 本を燃やさないように気をつけろ!」
「わかっています! 火炎の鎖、敵を縛れ!」
エルザの放った火の鎖が、敵の退路を断つ。
ナイス、エルザ!
俺は魔導鋼の剣を抜き、真ん中にいるリーダー格の男へ躍り出た。
「剛力!」
剣と敵の魔法がぶつかり、火花が散る。
相手はかなりの使い手だ。
だが、今の俺には仲間とのパスが繋がっている。
「フィン、何か補助魔法はないか!」
「あります! 古代語の加護、筋力上昇!」
フィンのブレスレットが光り、俺の体に力がみなぎった。
「おおおっ!」
俺の一撃が、敵の防御障壁を粉砕した。
ローブの男たちは、たまらず本を落とし、煙のように消え去った。
逃げたな。
「逃げたか。でも、本は無事に回収した」
俺は床に落ちた『闇を封ずべき光の記録』を拾い上げた。
特に損傷は無さそう。逃がしてしまっが。
フィンが駆け寄ってきて、震える手で本を受け取った。
「よかったです。これがなければ、私たちは闇に飲まれるところでした」
「そんなに重要なのかい」
「はい。とても重要な本なのです」
フィンが本を開くと、そこには驚くべき内容が記されていた。
「コウイチさん、これを見てください。魔王の力は、単なる魔力じゃないんです」
フィンか今までにない深刻な顔に。
本のページには、不気味な影の正体についての図解があった。
俺たちは図書館の隅で、その内容を読み耽った。
四天王を倒すための本当のヒントが、そこには隠されていた。




