23話
受付の女性に案内されて、俺たちはギルドの最上階へ向かった。
ギルド長に会うとなった。エルザからは、
「ギルド長には簡単には会えません。それだけコウイチと私たちは特別な扱いを受けている証拠です」
「ちょっと緊張してしまうよな」
長い廊下を歩く間、周りは静まり返っていた。
一階の喧騒が嘘みたいだ。
大きな、彫刻の施された重厚な扉の前に着いた。
案内役の女性が、コンコンと扉を叩く。
「マリアンヌギルド長、ザルガス討伐の報告に来た冒険者をお連れしました」
「入れ」
中から低い女性の声が聞こえた。
マリアンヌというらしい。
女性なのかな? てっきり男性かと思ったが。
俺たちは緊張しながら、部屋の中に入った。
そこは、壁一面が本棚で埋め尽くされた広い書斎だった。
部屋の真ん中にある大きな机に、一人の女性が座っていた。
見た目は四十代くらいだろうか。
鋭い眼光。磨き上げられた銀髪。
背筋がピンと伸びていて、座っているだけで圧倒的な存在感がある。
この人が王都冒険者ギルドのトップ、ギルド長の「マリアンヌ」だ。
「座りなさい。立ち話も何だろう」
彼女は俺たちをソファに座らせた。
「失礼します」
俺たちは並んで座った。
高級感のあるソファだな。
シロはおとなしく俺の足元に伏せ、プニは俺の膝の上で丸くなっている。
マリアンヌさんは、俺たちの顔を一人ずつじっくりと眺めた。
「ヴォルグを倒したというのは本当のようね。その若さで大したものだわ」
彼女はふっと言った。
「あいつは乱暴だけど、腕は確かよ。それを無傷で倒すとはね」
「運が良かっただけです。仲間の助けもありました」
俺が自慢したくない風に説明すると、ライラが横から口を出した。
「過小評価しすぎよ、コウイチ。あんたの実力でしょ」
「そうです。コウイチさんは私たちのリーダーですから!」
エルザも胸を張って言った。
マリアンヌさんは満足そうに頷くと、表情を真面目なものに変えた。
「さて、本題に入りましょう。ザルガスの件よ。証拠の品を見せてくれるかしら?」
俺はアイテムボックスから、あの禍々しい大鎌の破片を取り出した。
机の上に置くと、部屋の空気が一瞬で冷え込んだ。
マリアンヌさんは手袋をはめ、破片を慎重に手に取った。
「間違いない。これは魔王軍の幹部クラスに与えられる魔鋼で作られているわ」
彼女はため息をつき、破片を置いた。
さすがギルド長だけあって、理解してくれた。
「ザルガスは、四天王に最も近いと言われていた男よ。それを本当に倒すとは」
「四天王は、もっと強いんですよね?」
俺が聞くと、マリアンヌさんは重々しく頷いた。
「ええ。比じゃないわ。ザルガスはあくまで『候補』。本物の四天王は、一つの国を一人で滅ぼせる力を持っていると言われているわ」
「国を一人で」
エルザが青い顔をして絶句。
これは、世界の存亡がかかった本物の戦争なんだと実感した。
「でも、どうやって倒したの? 悪いけれど、今のあなたたちのレベルでは奇跡が起きても難しいはずよ」
マリアンヌさんの鋭い視線が俺へと。
この人ならわかってくれそうだ。俺は正直に話すことにした。
俺の持つ『絆結び』のスキルのこと。
仲間と力を合わせることで、限界を超えた力が出せること。
全部を話す。
「絆。失われた古代魔法の一種かしら」
フィンが横から身を乗り出した。
古代の歴史ならフィンの専門分野になるからだ。
「ギルド長! 私は考古学者のフィンと言います。コウイチさんのスキルは、ただの魔法じゃありません!」
彼女はメガネを光らせて熱弁を振るい始めた。
「これは心の繋がりを力に変える、究極の相互作用なんです! 私の知識も、コウイチさんの力になっています!」
「へぇ、面白いわね。あなたのそのスキルが、これからの戦いの鍵になるかもしれないわ」
マリアンヌさんはアゴに手を当てて考え込んだ。
「今、世界中で魔王軍の動きが活発になっているの。王都にも影が忍び寄っているわ」
彼女は俺を真っ直ぐに見た。
活発な動きか。俺はヤバい時代に転生したわけか。
「コウイチ。あなたたちを、特別な『遊撃パーティー』として任命したいわ」
「遊撃パーティー?」
「ええ。通常の依頼に縛られず、魔王軍の動向を探り、必要があれば討伐する。ギルドが全面的にバックアップするわ」
俺は仲間たちの顔を見た。
ライラはやる気に満ちた顔で笑っている。
エルザは緊張しているけれど、瞳には決意がある。
フィンは新しい冒険にワクワクしているみたいだ。
「受けます。俺たちにできることなら」
「もちろん」
「やりましよう」
「面白い研究したいです」
俺たちが答えると、マリアンヌさんは嬉しそうに微笑んだ。
「いい返事ね。報酬は弾むわよ。それと、王都の最高級の宿をギルド持ちで用意させましょう」
「やったー!」
フィンが飛び跳ねて、案の定、机の角に腰をぶつけていた。
「あいたたた。でも嬉しいです!」
「ふふ、賑やかなパーティーね」
マリアンヌさんは立ち上がり、俺に手を差し出した。
「期待しているわ、コウイチ。この世界に、本当の『絆』の力を見せてあげなさい」
俺はその手を力強く握り返した。
誰からも期待されず、ただの歯車として使い捨てられる毎日だった。
でも今は違う。
俺を信じてくれる仲間がいて、必要としてくれる人がいる。
「はい。全力で頑張ります」
ギルド長の部屋を出た時、俺たちのステータスがさらに更新されていた。
『絆結び』が、誇らしげに胸の奥で輝いているのを感じる。
俺たちはギルドの階段を降りながら、これからのことを話し合った。
「まずは装備を整えないとね! ギルドのお金で買えるなんて最高だわ!」
ライラがウキウキしている。
「私は魔法薬の材料を買いに行きたいです。もっと強い魔法を使えるようにならないと」
エルザも前向きだ。いい傾向だよな。
「私は王都の図書館の永久貸出カードが欲しいです!」
フィンが明後日の方向を向いて叫んだ。
いかにもフィンらしい頼みだな。
俺は笑いながら、仲間の背中を追いかけた。
魔王軍の脅威はすぐそこまで来ている。
でも、今の俺たちなら、どんな壁も越えられそうだ。
心からそう思いながら、王都の賑やかな街並みへと踏み出した。




