19話
俺たちは王都への近道を選んだ。
古代遺跡「静寂の神殿」の中を通るルートだ。
普通なら危険すぎて避ける道らしい。
でも、俺にはダンジョンコアから受け継いだ力がある。
「空間把握」を使えば、迷路も怖くない。
俺は先頭に立って歩いた。
「コウイチ、本当に道がわかるのか?」
ライラが不安そうに聞いてくる。
「ああ、頭の中に地図が出てるんだ。大丈夫だよ」
俺は自信を持って答えた。
自分でも何を言っているのか分からないが。
ライラに伝わったかは不明だな。
しばらく進むと、広い部屋に出た。
そこには、青い光の檻に閉じ込められた女の子がいた。
長い金髪。少し尖った耳。
「敵か?」
「いいえ、敵ではなさそうよ。私らに訴えています」
「この子はエルフです」
「あ、人間だ! 助けてください!」
彼女は檻の中から必死に手を振っている。
お困りなのか。罠にハマった感じかな。
とりあえず会話をしてみたい。
「エルフの女の子? なんでこんなところに」
エルザが驚いて聞く。
「私は考古学者のフィンです! 調査中にうっかり罠にかかりました!」
「罠ですね」
「誰が見ても罠だぞ」
「俺もそう思う」
フィンと名乗った彼女は、檻の中で地べたに座り込んだ。
うっかり?
考古学者なのに?
それって大丈夫なのかな。
「もう三日もここにいます。お腹が空いて死にそうです」
「三日も!」
「はい」
「三日もか。災難だったな」
俺は檻に近づいた。気の毒ではある。
しかし自分から調査に来たのだろうけど、俺たちが来なければ死んでいるのでは。
「待って、コウイチ! 結界があるわ!」
ライラが止めた。
結界か。なるほど俺は「魔力感知」で構造を調べてみる。
「大丈夫。この結界は、特定の魔力波形を流せば消える仕組みだ」
俺は新スキルの「空間把握」と「魔力譲渡」を組み合わせた。
エルザの手を握る。力を借りたい。
「エルザ、少し魔力を貸してくれ。波形を調整する」
「はい、わかりました!」
俺は自分の魔力とエルザの魔力を混ぜ合わせた。
それを檻の鍵となる部分に流し込む。
カチリ、と音がした。
青い結界が霧のように消えていく。
成功したな。
「わあ! 出られた! ありがとうございます!」
フィンは檻から飛び出す。いきなり俺を絶賛しだす。
「あなたは天才ですか? この結界、超難解な古代語のパズルだったはずですよ!」
「いや、俺のスキルが特殊なだけだよ」
「スキルで解いたと?」
「コウイチのスキルは規格外なのよ。超難解とか関係ない」
「コウイチは天才です! ありがとう」
「助かって良かったな」
俺は照れくさくて頭をかいた。
フィンに非常食のパンを渡すと、彼女は勢いよく食べ始めた。
「生き返りました! お礼に、この遺跡の秘密を教えてあげましょう!」
フィンはパンを飲み込むと、壁にある文字を指差した。
「この遺跡、ただの古い建物じゃないんです。魔王軍がずっと探していた場所なんですよ」
その言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
「魔王軍が? 何のために?」
ライラは真剣な顔に。
「ここに『異界の門』の鍵があるという伝承があるんです」
フィンはメガネをクイッと上げた。
「異界。俺みたいな転生者のことかな?」
俺は心臓がドキリとした。
「コウイチは転生者でしたか」
「転生して来た。俺以外にも来たとなるよな」
「その可能性が高いです。文字を読むと、数百年前にもあなたのような人が現れたと書いてあります」
今の話は興味ある。俺しか居ないの。
それとも同じ日本人がいるのかは気になるな。
フィンからもっと話が聞きたい。
しかし話をしている時。
遺跡の奥から、不気味な鳴き声が響いた。
なんだ、この声は?
魔物の反応だぞ。ここにも魔物は居るのか。
「話は後だ。魔物が来るぞ!」
俺は「空間把握」で敵の数を確認した。
「前方から五体。ガーゴイルの進化系です!」
石像のような魔物が天井から舞い降りてきた。
ガーゴイルという魔物らしい。
「シロ、行くぞ!」
俺の掛け声に、シロが弾丸のように飛び出した。
「ガウッ!」
シロは鋭い爪でガーゴイルの翼を引き裂く。
「ライラ、右の二体を頼む!」
「任せなさい!」
ライラは「剛力」と「俊足」で敵を翻弄する。
俺はフィンの前に立った。
「エルザ、火魔法だ!」
「火球よ、飛べ!」
エルザの魔法が敵を焦がす。
俺は新しく編み出した技を試すことにした。
「剛炎一閃!」
俺の腕が「液体化」し、そこに「剛力」と「火魔法」が乗る。
ガーゴイルを真っ二つに叩き斬った。
「すごい。何ですか今の技!」
フィンが目を丸くしている。
「絆の力だよ」
「絆ですか。変わった力を使うようですねコウイチは」
「逆に俺は絆の力しかないかな」
俺は短く答えた。
魔物を片付けると、俺たちはさらに奥の部屋へ進んだ。
そこには、いくつもの輝く結界が重なっていた。
「これが最後、最深部の結界です。これを解けば、遺跡の謎が解けます」
フィンが興奮して震えている。
「コウイチ、できるか?」
ライラが心配そうに俺の顔を見る。
「やってみる。みんな、力を貸してくれ」
俺は全員と手を繋いだ。最深部の結界らしい。
みんなで協力したい。
「絆結び」の力が、仲間たちと俺を一つに繋ぐ。
俺の体を通じて、みんなの魔力が流れ込んでくる。
「魔力自動回復」があるから、魔力が枯渇する心配はない。
俺は「空間把握」で、重なり合う結界の隙間を見つけた。
「そこだ!」
俺は光り輝く魔力を、結界の中心に叩き込んだ。
これでどうだ!
パリン! パリン! パリン!
いくつもの結界が、ドミノ倒しのように砕けていく。
最後の一枚が消えた時、部屋の中央に大きな石碑が現れた。
なにか書いてあるな。
石碑には、日本語に似た文字が刻まれていた。
「これ、読めるぞ」
俺は驚いた。
『絆を紡ぐ者よ。お前の力は世界を救う鍵であり、魔王を滅ぼす唯一の希望である』
「なんて書いてあるんですか?」
フィンが身を乗り出してくる。
「俺の力が、魔王を倒す鍵だって」
俺は内容をみんなに伝えた。
「特別な鍵?」
「つまりは救世主のようなことですこね」
「やっぱり、コウイチさんは特別な人だったんですね」
エルザが尊敬の眼差しを向けてくる。
なぜか俺が救世主みたいな感じに。
プレッシャー感じるな。
「でも、ここには警告も書いてある」
俺は続きを読んだ。
「『魔王は、孤独から生まれる。絆を断ち切る影に気をつけろ』と書いてある」
「絆を断ち切る影?」
ライラが眉をひそめた。
「魔王軍がこの遺跡を狙っていたのは、この予言を消すためだったのかもしれないわね」
フィンの推測は当たっている気がした。
ザルガスのような強い敵がいたの
も、ここを守るため、あるいは壊すためだったとも思えるな。
「コウイチ、あんたは一人じゃない。私たちがついてるわ」
ライラが俺の背中を叩いた。
「そうです。どんな影が来ても、私たちの絆は負けません!」
エルザも力強く頷く。
シロが「ワン!」と吠え、プニが俺の足元で跳ねた。
「ありがとう。みんながいれば、怖くないよ」
俺は心からそう思った。
ブラック企業の時は、同僚を蹴落とすことばかり考えていた。
でも今は、仲間を守るために戦える。
なんて素晴らしい仲間なんだろう。
「ところでコウイチさん、私のことも仲間に入れてくれますか?」
フィンが聞いてきた。
「私は罠には弱いですが、古代の知識なら誰にも負けません! 王都への案内もできます!」
俺はフィンの目を見た。
彼女の瞳には、純粋な好奇心と情熱があるな。
「フィンは重要よ。仲間にすべきです」
「私も賛成する」
「俺も、もちろんだよ。よろしくな、フィン」
俺が手を差し出すと、フィンは嬉しそうに握り返した。
その瞬間、視界にウィンドウが現れた。
――スキル『絆結び(コネクション)』が発動しました。
――仲間:フィン(エルフ・考古学者)との絆が成立しました。
――フィンの特性に応じたスキルを派生獲得します。
――スキル『古代文字解読』を獲得しました。
――スキル『罠感知』を獲得しました。
――スキル『魔力節約』を獲得しました。
「またスキルが増えたな」
「コウイチがフィンと絆を結んだからだ」
「新しいスキルだ。これでさらに冒険が楽になるな」
俺は仲間にスキルのことを話した。
「すごい! 私の能力までコピーしちゃうんですか?」
フィンは驚きながらも、どこか楽しそうだ。
「コピーじゃない。絆の印だよ」
俺は笑って答えた。
新たな仲間が増えたのは大きい。
ライラとエルザとは違うタイプの仲間だな。
俺たちは遺跡を出て、再び王都への道を歩き始めたい。
遺跡の謎は完全には解けていない。
魔王と俺の関係。異界の門。
でも、今は先を急ごう。
王都へ行けば、もっと多くのことがわかるはずだ。
新しい仲間、フィンを加えて、俺たちのパーティーはさらに強くなった。
「さあ、王都を目指そう!」
「目指そう!」
「楽しみです!」
「もっと研究したい!」
みんなが元気に答えた。
俺たちの足取りはどこまでも軽かった。
どんな試練が待っていても、俺たちは絶対に止まらない。
王都までは、あと少しだ。
俺は未来への期待を胸に、一歩を踏み出した。
「あ、コウイチさん! さっそく目の前に落とし穴がありますよ!」
「うおっ!? フィン、さっそく役に立ったな!」
俺たちの笑い声が、響き渡った。
これなら、王都までの旅も退屈しなさそうだ。
俺は心の中で、自分をこの世界へ送ってくれた何かに感謝した。
最高の仲間たちとの、最高の冒険。
俺はワクワクしながら、仲間の後に続いた。




