18話
迷宮を出た俺たちは、太陽の光を浴びながら、王都への道を再開した。
ザルガスとの死闘は、俺たちの心に深いものを残した。
四天王候補であの強さだからな。
本物の四天王、そして魔王がどれほどの存在なのか。
想像するだけで足が震えそうになるな。
でも、俺の隣にはライラがいて、エルザがいて、足元にはシロとプニがいる。
この絆がある限り、俺はもうブラック企業で絶望していた頃の、独りぼっちの俺じゃない。
「ねえ、コウイチ。王都まで普通の街道を行くと、あと一週間はかかるわよ」
ライラが地図を広げながら言った。
「一週間か。少しでも早く着きたいな。魔王軍の動きも気になるし」
「それなら、一つだけ近道があります」
エルザが地図の一点を指差した。近道があるの?
近い方がいいよな。
「この『静寂の遺跡』を抜けるルートです。ここを通れば、三日で王都の領地に入れます。ただ」
「ただ?」
「古代の罠や、複雑な迷路になっているという噂があって、普通の旅人は避ける場所なんです」
罠ですか。罠は嫌いだが。俺は迷わず答える。
「そこへ行こう。今の俺には『空間把握』がある。罠も迷路も、怖くない」
ダンジョンコアから授かった力があれば、どんな難所も最短距離で抜けられるはずだ。
スキルがないなら避けるけど、今なら行けそうな気がする。
「コウイチのスキルに頼ろう。任せるぞ」
「大丈夫かしら」
エルザはやや不安な顔に。
翌日、俺たちは『静寂の遺跡』の入り口に立っていた。
巨大な石柱が立ち並ぶ。
空気はひんやりとしているかな。
「ここね。何だか、ダンジョンとはまた違う不気味さがあるわ」
ライラが剣に手をかけた。
俺はさっそく、新スキルを発動させる。
「『空間把握』、起動してくれ」
ダンジョンでも使用しているので、使い方は困らない。
脳内に、遺跡の立体図が浮かび上がる。
浮かび上がるのは、不思議な感覚だな。
壁の向こう側には地下の空洞。
仕掛けられた矢のトラップがあるな。
落とし穴の位置まで、手に取るようにわかる。
「どうですか?」
「うん、地図が見えるよ」
「すごい。本当に全部見えてるんだな。コウイチが先導してくれ」
「行こうか」
トラップに気をつけて進む。
「何の遺跡なんだろうな」
「詳しくは私も知らない」
「古代の物だ。遺跡は」
「ライラ、俺にもそれくらいはわかるよ」
「深く考えるな。進めばいい」
俺は自分の意識を地図に集中させる。
すると、反応があった。
遺跡の中央付近で、激しく明滅する魔力の反応を。
何これ?
魔力なので敵の可能性があるな。
遺跡には魔物がいても不思議はないもんな。
「……待て。誰かいる」
「本当だ、敵ならば注意します!」
「待てライラ、罠にハマってるみたいだ。人だな」
「えっ? こんな場所に人が?」
エルザが驚く。
「行こう。かなり衰弱してる」
俺のナビゲートに従って、迷路のような通路を全力で駆け抜けた。
「三つ目の角を右だ! その先の床に罠の板がある、踏むなよ!」
俺の指示で、みんなが華麗に罠を避けていく。
シロも察知して行く。
かつての俺なら、真っ先に落とし穴に落ちていただろう。
知識とスキルがあって助かる。
辿り着いたのは、天井の高い円形の広間だった。
その中央。
透明な青い結界の檻の中。
一人の人物が閉じ込められているな。
敵じゃないみたいだな。
長い金髪を振り乱し、耳が少し尖っている。
女の子だなこれ。
「エルフ?」
ライラが呟いた。
その人物は、メガネをずらしながら、必死に壁の文字を解読しようとしていた。
「なにしての?」
「ああ、あと少し。この古代文字の文法さえ解ければ、この魔力障壁は。あ、でも空腹で目が。糖分が、糖分が足りません」
「あのー、大丈夫ですか?」
俺が声をかけると、フィンは飛び上がって驚いた。
「ひゃあぁぁ!? あ、人間!? 幽霊じゃなくて実在する人間ですか!?」
「幽霊に見えますか? 助けに来たんです」
フィンは檻に顔を押し付けて、俺たちをまじまじと見た。
「助け? おお! 神は見捨てていなかった! 私は考古学者のフィンです! この遺跡の謎を解明しようとして、うっかり三日間もこの『知恵の試練』に閉じ込められていたのです!」
「三日間も。よく生きてましたね」
普通死んでもおかしくないが。
フィンという女の子だった。
しかも考古学者らしい。
俺はちょっと呆れながらも、結界の状態を『魔力感知』で調べた。
複雑な数式のような魔力が組み合わさっている。
結界てどうやって壊せるのかな。
ライラが前に出てきて、
「これ、力ずくで壊せますか?」
ライラが剣を構える。
「ダメです! 物理的な衝撃を与えると、中の酸素を枯渇させる仕掛けになっています! 解読するしかないんです!」
フィンが悲鳴を上げる。解読て面倒だな。
なぜ入ったのかと聞きたい。
「剣が使えないなら、コウイチのスキルは使える。エルザと協力して結界を解読してみな」
「なるほど。エルザ、俺に魔力を。一緒に解くぞ」
俺は『魔力譲渡』を使ってみたい。
エルザとパスを繋ぎ、さらに『空間把握』で結界の構造を最小単位まで分解した。
分解できそうだな。使い方しだいで使えるな。
「ここだ。この魔力の結び目を、反転させる」
俺は指先を差し込み、一点に魔力を集中させた。
パリンッ!
ガラスが割れるような音と共に、青い結界が壊れた。
やったぞ成功だな。
「自由だ! 自由ですよ!!」
フィンは檻から飛び出すと、その場にへなへなと座り込んだ。
「ありがとうございます。恩に着ます。お礼に、この遺跡で見つけた最高級の泥団子を差し上げましょうか?」
「いらないです」
俺は即答した。
どうやら、かなりの変人に出会ってしまったらしい。
「食えるのか。食べたくねえぞ」
「凄い能力です! 驚きです」
「コウイチは特殊なスキルが使える。感謝しな」
フィンに携帯食料と水を与える。
見違えるように元気になった。
「いやはや、助かりました。私はエルフの里を飛び出し、世界の真実を解き明かすために旅をしているのです。この遺跡には、魔王に関する重要な記述があると踏んでいたのですが」
フィンの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
魔王という言葉にみんな反応する。
何か魔王について知っているのなら教えてもらいたい。
「魔王について知ってるのか?」
「ええ、専門ですから。でも、私一人では罠にかかって死ぬところでした。皆さんは王都へ行くのでしょう? ぜひ、私をボディーガードとして、いえ、同行させてください!」
フィンはメガネを光らせて、俺の手を握った。
一緒に冒険したいのなら俺は構わないけど。
「私はこれでも、古代の魔法知識と文字解読には自信があるんです。きっとお役に立ちますよ!」
「私達も魔王と関わっている。もっと知りたいのです」
「私は適任です。詳しいです」
「本当かな。怪しいな」
「信じてくださいよ」
俺はライラとエルザを見た。
二人とも、少し困り顔をしながらも、拒絶はしていなかった。
「いいよ。一緒に行こう。俺たちも、魔王についてはもっと知る必要がある」
俺がそう言うと、フィンは子供のように喜んだ。
まだ深い『絆』という感じではないが、フィンの中に邪悪な気配はないと思う。
むしろ、知識に対する純粋さを感じた。
新しい仲間が増え、俺たちの旅はさらに賑やかになりそうだな。
「さあ、行きましょう! 私の知識があれば、王都の美味しいパン屋さんの場所も解読できるかもしれませんよ!」
「それは地図を見ればわかるだろ」
「コウイチは頭が良い」
「そう言う問題じゃないな」
俺はツッコミを入れながらも、心は軽かった。
王都まではあと数日。
フィンという新しい仲間が、俺たちの物語をどう変えていくのか。
俺は少しだけ楽しみになっている。
「待ってくれよ、フィン。そんなに走るとまた罠にハマるぞ!」
「大丈夫です、またコウイチが助けてくれます」
フィンと仲間になり、古代遺跡を抜ければ近道になる。
王都に着くまで、色々とあった。
まだ何かありそうだな。




