17話
ザルガスが黒い霧となって消えた後。
冷たい部屋から早く出よう。
俺は剣を杖代わりにして、なんとか立っていた。
体中の傷がズキズキする。
あいつは最期まで、俺たちを見下し、世界を憎んでいた。
「コウイチ、さん」
マッシュモンから得た『胞子散布』は大いに役にたった。
全力で「回復」に使った。
致命傷だった傷も少しは回復したかな。
「絆の共鳴」の反動で俺の意識も飛びそうだったが、必死に耐えた。
ここで全滅だけは避けられたから良かったな。
この絆こそが、俺がこの世界で得た最強の武器だ。
その時だった。
ザルガスが座っていた玉座の奥。
壁の一部が剥がれ落ちる。
なんだろうな?
まさかまだ魔王軍がいるのか?
さすがにもう戦えないぞ。
そこから光が漏れ出しているのに気づいた。
「あそこ、何かあるぞ」
「光が出ています。行ってみようよ」
俺たちは互いに肩を貸し合いながら、その光の元へと向かった。
そこには、大きな水晶のようなものがあった。
直径一メートルはあるだろうか。
透き通った青い輝き。
でも、その表面には黒い模様がまとわりついていた。
「これって、もしかして」
エルザが知っているみたいだな。
「ダンジョンコア。この迷宮の心臓部です」
「ダンジョンコア?」
「はい。このコアが魔力を生み出し、迷宮を維持しています。でも、見てください」
エルザが指差す先。
黒い茨から、ザルガスと同じ強い魔力が漏れているな。
「ザルガスに、無理やり支配されていたのね。コアが泣いているように見えるわ」
ライラの言う通りかな。
水晶は苦しげに光を明滅させていた。
俺は引き寄せられるように、その水晶に手を伸ばした。
俺にコアを助けられるかな。
何とか助けたいな。
「コウイチさん、危ないです! 呪いが移るかも!」
エルザが制止するが、俺は止めなかった。
『魔力感知』を通じて伝わってきたのは苦痛と、救いを求める悲鳴だった。
「大丈夫だ。こいつ、助けて欲しがってる」
俺は手のひらを、冷たい水晶に密着させた。
「もう大丈夫だ。あいつはもういない」
俺は心の中で語りかけてみた。
ザルガスに支配されていたこのコアを自由にしたいな。
「自由になれ。お前の力は、お前のものだ」
俺がそう念じた瞬間。
俺の体を通じて、温かい光がコアへと流れ込んだ。
『絆結び』が発動したんだ。
それは魔物や人間と結ぶ時よりも、もっと深い。
大地そのものと繋がるような感覚。
バキバキと音を立てた。
水晶にまとわりついていた黒い茨が砕け散る。
砕けたぞ!
濁っていた黒い光が、一気に白へと変わった。
部屋全体が、聖なる光に包まれるみたいだ。
――スキル『絆結び(コネクション)』が発動しました。
――対象:ダンジョンコアとの絆が成立しました。
――迷宮の源泉より、特殊なスキルを継承します。
――スキル『魔力自動回復』を獲得しました。
――スキル『空間把握』を獲得しました。
――スキル『魔力譲渡』を獲得しました。
頭の中に声が響いた。
それと同時に、俺の全身を爽快な気分になったな。
「ああ、疲れが、引いていく感覚」
新しく得た『魔力自動回復』の効果だろう。
枯渇していた俺の魔力が、みるみるうちに満たされていく。
「すごい。コアが、コウイチさんに感謝してるっぽい」
「嘘でしょ、ダンジョンコアと絆を!」
ライラが驚きに目を見開く。
白になったコアは、優しく、穏やかに光った。
俺は、この迷宮そのものが自分の体の一部になったような、不思議な全能感を感じた。
『空間把握』を意識する。
迷宮のすべての構造、仲間の位置、そして地上までの出口が鮮明なイメージとして脳内に浮かび上がる。
不思議なスキルだぞ。
「出口はこっちだ。安全なルートがわかる」
「本当に、何でもありね、あんたのスキル」
ライラが呆れたように、でも嬉しそうに笑った。
何でもありか。確かにありかもな。
俺は今の自分の状態を再確認することにした。
「ステータス、オープン」
【ステータス】
名前:コウイチ
年齢:20歳
レベル:28
HP:1200 / 1200
MP:1500 / 1500
スキル:
・『絆結び(コネクション)』Lv.MAX
・『剛力』(ライラより獲得):物理攻撃力の強化
・『俊足』(ライラより獲得):移動速度の強化
・『火魔法(初級)』(エルザより獲得):初歩的な火炎操作
・『魔力感知』(エルザより獲得):周囲の魔力の流れを把握
・『液体化』(プニより獲得):身体を液体に変容
・『毒耐性』(プニより獲得):毒ダメージ無効化・軽減
・『嗅覚強化』(シロより獲得):特化した嗅覚での索敵
・『夜目』(シロより獲得):暗所での視認性確保
・『胞子散布』(マッシュモンより獲得):状態異常・回復の胞子を撒く
・『自然同化』(マッシュモンより獲得):気配を遮断し風景に溶け込む
・『魔力自動回復(NEW)』(ダンジョンコアより獲得):常に魔力が回復し続ける
・『空間把握(NEW)』(ダンジョンコアより獲得):周囲の構造や敵の位置を正確に把握
・『魔力譲渡(NEW)』(ダンジョンコアより獲得):自分の魔力を仲間に分け与える
複合・特殊スキル:
・『剛炎一閃』:剛力+火魔法+液体化の融合攻撃。液状の腕から爆炎を放つ。
・『絆の共鳴』:死の極限状態で発動。仲間の全魔力を一時的に統合する。
・『光輝・絆連斬』:火魔法+鋭い剣気+俊足+胞子散布の融合。すべてを切る光の刃。
「強くなったな。俺」
ウィンドウを見つめながら。
レベルも上がり、スキルの数も増えた。
特にダンジョンコアから得た『魔力譲渡』は、これからの戦いで重要になるはずだ。
さっきの「絆の共鳴」は仲間の力を借りるものだった。
これは俺がみんなを支えるための力だ。
「コウイチ、また強くなったのね」
ライラが俺の顔を覗き込んできた。
「強くなれたな。でもまだ足りないかな」
俺はコアから手を離し、仲間たちの方を向いた。
「ザルガスは、四天王の中でも最弱の候補だって言ってた。魔王軍は、今の俺たちの想像を絶するほど強いだろう」
「でも、怖がる必要はないわよ。私たちが強くなるスピードは、あいつらの想像を超えられる」
ライラは力強く宣言した。
「絆が増えるたびに、俺たちはもっと高くへ行ける。次は王都だ。そこでさらに仲間を見つけて、絶対に魔王を倒す」
「そうね。あんたについていけば、退屈しなさそうだわ」
ライラが楽しそうに剣を肩に担いだ。
「私も、精一杯頑張ります! コウイチさんの隣にいられるように!」
エルザが元気よく答える。
シロが「ワン!」と吠え、プニがぷるんと揺れた。
ダンジョンコアは、最後に一度だけ大きく輝く。
深い眠りにつくように。
この場所はもう、魔王軍の支配下ではない。
俺たちが解放した。
「よし、帰ろう。地上の太陽の所に」
俺たちは出口へと歩き出した。
足取りは軽い。
傷はまだ完全には癒えていないはずなのに、心は希望に満ちていたからかな。
ブラック企業での日々は、ただ消費されるだけの毎日だった。
でも今は違う。
一歩進むごとに自分と、仲間の未来をかえているかな。
王都、そしてその先に待つ魔王軍。
どんな困難が待ち受けていようとも、俺は止まらないぞ。
絆のチートスキルがあるからな。
そう心に誓いながら、俺たちは迷宮の階段を昇っていった。
出口の光だ。




