15話
地下3階層は肌を刺すような冷気だな。
これまでの階層とは明らかに空気が違う。
「わかってるわ。この先は雑魚じゃ済まされない」
「ギガガガッ!」
不気味な笑い声を上げるのは、漆黒の重鎧を纏った骸骨騎士たちだ。
その数、およそ二十体。
さらに後方には、不浄な魔力を練り上げる魔導師のような骸骨も数体控えている。
「これが地下3階層の守りか」
「エルザはシロと一緒に後方の魔導師を狙ってくれ!」
「ライラ、俺と一緒に前衛を押し上げるぞ!」
俺の号令に、二人が即座に反応した。
「了解よ! コウイチ、遅れないでね!」
ライラが弾かれたように飛び出した。
俺も「俊足」を起動させ、彼女の隣に並ぶ。
世界がスローモーションになり、風の音だけが耳を通り過ぎる。
目の前の骸骨騎士が剣を振り下ろしてきた。
俺はそれを半身でかわし、「剛力」を込めた一撃を叩き込む。
ガキィィィン!
重厚な鎧ごと、骸骨騎士の胴体が粉砕された。
黒い煙が立ち上り、魔物が消滅する。どれも強いぞ。
「一丁上がりだ!」
俺はそのまま次の標的へと踏み込んだ。
ライラの剣技は、さらに冴え渡っていた。
彼女は三体の騎士に囲まれながらも、舞うような身のこなしで攻撃を避けていく。
キンッ、キンッ、キンッ!
鋭い金属音が連続して響く。
ライラの剣が騎士たちの隙を突き、確実に核を破壊していく。
「はあああ!」
最後の一体を一刀両断にすると、彼女は俺にウインクを送ってきた。
「燃え盛る火球よ、敵を焼き尽くせ!」
後方からエルザの叫びが聞こえた。
彼女の放った魔法が、後方の魔導師たちを直撃した。
爆発が起き、魔王軍の遠距離攻撃が止まる。
シロがその隙を逃さず、生き残った魔導師の喉元に飛びかかった。
「ワフッ!」
完璧な連携だ。
地下3階層の軍団は、俺たちの勢いに押されて次々と崩壊していった。
「ふぅ、なんとか片付いたな」
「ええ。でも、コウイチ。あいつらの装備、どんどん良くなってきてるわよ」
ライラが床に落ちた剣を拾い上げる。
「魔王軍の紋章が刻まれています。これは正規軍の証です」
エルザが青い顔で付け加えた。
「正規軍か。いよいよ本格的になってきたてことか」
俺たちは少し休憩することにした。
壁際に座り、水を飲む。
「エルザ、さっき言ってた魔王について、もっと詳しく教えてくれないか?」
俺の問いに、エルザは真剣な表情で頷いた。
「魔王は、この世の全てを憎み、滅ぼそうとする存在だと言い伝えられています」
「数百年前、勇者と聖女によって封印されたはずなのですが」
「その魔力が今、再びこの世界を侵食し始めているんです」
「魔王が復活したら、どうなるんだ?」
「空は暗雲に覆われ、大地は枯れ、生きとし生けるものは全て魔王の奴隷になるでしょう」
エルザの声が少し震えていた。
ブラック企業よりももっとタチが悪い。
「そんなこと、絶対にさせない」
俺の言葉に、ライラが返事する。
「そうね。魔王だろうが何だろうが、私たちの旅を邪魔するなら斬り捨てるだけよ」
「ライラさん」
エルザが少し安心したように微笑んだ。
「それに、コウイチのスキルがあるわ。絆が増えるたびに、私たちは強くなれる」
「魔王軍だって、私たちの絆を壊すことはできないはずよ」
ライラが俺の肩をポンと叩いた。
その手の温もりが、俺に勇気をくれる。
「よし、地下4階層へ行こう。魔王の影を追い払ってやる」
俺たちは立ち上がり、さらに深い場所へと向かった。
階段を降りるたびに、周囲の魔力は重苦しさを増していく。
地下4階層。
そこは、これまでの石造りの通路ではなく、生き物の体内のような気味の悪い空間だった。
壁が脈打つように動いている。
「何なのよ、ここ。気持ち悪いわね」
「魔力が物質化して、迷宮そのものを変質させているんです」
エルザが杖を構え、警戒を最大にする。
俺は新しく手に入れたスキルを試すことにした。
「『自然同化』。そして『嗅覚強化』」
俺の姿が周囲の不気味な壁の色と重なり、消えていく。
同時に、空気中の微かな匂いが情報の波となって押し寄せてきた。
「前方に強い個体が二体。それと取り巻きが十数体」
ライラたちが驚いたように周囲を見た。
「すごいわね、本当に見えないわ」
「コウイチさんのスキル、どんどん便利になりますね!」
俺は先行して、敵の正体を確認しに行った。
そこにいたのは、巨大な斧を持ったミノタウロスのゾンビと、その周囲を固める精鋭の骸骨兵だった。
「ただのゾンビじゃない。魔王の血で強化されているのかな」
俺は「胞子散布」のスキルをイメージした。
マッシュモンから得た、麻痺と眠りの胞子。
つまりは相手を麻痺させたりできるってことだな。
俺の周囲から、目に見えないほど微細な粉末が広がっていく。
魔王軍の精鋭たちが、急に動きを鈍らせた。
麻痺が効いているぞ!
「今だ! やれ!」
俺の叫びと共に、ライラが飛び出した。
「シャァァッ!」
ライラの剣が、麻痺したミノタウロスの脚を切り裂く。
「グオォォン!」
巨体がバランスを崩し、膝をついた。
そこへエルザの魔法が降り注ぐ。
「聖なる光よ、邪悪を浄化せよ!」
彼女が新しく編み出した、光属性を混ぜた攻撃魔法だ。
白い閃光がミノタウロスを包み込む。
その巨体を内側から焼き尽くした。
凄い魔法だぞ!
俺も姿を現し、残りの兵士たちをなぎ倒していく。
「剛力」と「俊足」のコンビネーション。
今の俺にとって、麻痺した魔王軍はもう敵ではなかった。
一振りで数体を吹き飛ばし、瞬く間に壊滅する。
シロも勢いで駆け回り、敵に噛みつく。
「地下4階層、突破だな」
俺は荒い息を整えながら言った。
しかし、目の前の扉から漏れ出してくる魔力は、今までのものとは次元が違った。
何かあるな?
扉の奥には、広い円形の部屋があるのが「魔力感知」でわかる。
その中心に、圧倒的な、暴力的なまでの魔力の塊があるな。
「この先に、危険なのがいる」
ライラが真剣な顔で扉を見つめた。
「魔王軍の幹部クラスかもしれません。四天王に近い強さを持っているはずです」
エルザの手が小刻みに震えている。
「怖くないか?」
俺が聞くと、エルザは小さく頷き、それから力強く首を振った。
「怖いです。でも、コウイチさんたちがいます。私はもう、逃げたくありません」
彼女の目には、強い意志の光が宿っていた。
俺も怖いが、死を覚悟してでも共に歩んでくれる仲間がいる。
「よし、行くぞ」
「このダンジョンの最下層かもです」
俺は大きな扉に手をかけた。
扉は重く、嫌な音を立てて開いていく。
中から溢れ出してきたのは、血のような赤い光。
むせ返るような死の匂いだった。
部屋の奥、骨でできた玉座に座る影が見えた。
今までの魔物とは違い、人型の魔族だった。
「ようやく来たか、人間ども」
影が立ち上がった。




