14話
俺たちはキノコたちと別れて、さらに森の奥へと進んだ。
マッシュモンの一族との絆。
言葉は通じなくても、心が通じ合った感覚がまだ残っているな。
新しく手に入れた「胞子散布」と「自然同化」のスキル。
これがあれば、もっと色々なことができるはずだ。
どんなスキルかは楽しみだな。
俺の力は、仲間が増えるたびに無限に広がっていく。
「コウイチ、もう少し頑張ろうね」
「うん」
「キノコたちも意外と可愛かった」
「確かに、最後のお辞儀は可愛かったですね!」
エルザも楽しそうに同意してくれた。
俺たちは笑いながら、木々の間を抜けていく。
シロが先頭を走り、時折立ち止まっては耳を立てている。
プニは俺のポケットの中で、機嫌よさそうにぷるぷるしていた。
そうしていたら突然、シロが足を止めた。
どうした?
「ウゥゥ」
低く唸り声を上げ、一点を見ている。
「どうした、シロ? 何かいるのか?」
シロの反応を見て、「魔力感知」を最大まで広げた。
すると、前方の岩山の影から、強烈な魔力の波動を感じる。
それは今まで戦ってきた魔物とは、明らかに質の違うものだった。
魔力が違うな。
冷たくて、重苦しい、悪意の塊のような魔力だ。
「あそこよ。あの岩の隙間に、隠し通路があるわ」
ライラが剣を抜き、慎重に近づいていく。
草に覆われた岩肌をかき分けると、そこには人工的な石造りの入り口があった。
地下へと続く階段が、暗闇の中へと伸びている。
「これって、ダンジョンですか?」
エルザが緊張してライラに。
「ええ。しかも、ただのダンジョンじゃない。漂ってくる空気が禍々しいわ」
ライラの言う通り、入り口からは嫌な風が吹き抜けてきた。
「どうする、コウイチ? 王都への道からは少し外れるけど」
ライラが俺の顔を覗き込む。
俺は暗い階段を見つめた。恐怖がないわけじゃない。
でも、それ以上に好奇心と、使命感のようなものが湧いてきた。
この奥には、俺たちの力を試す何かが待っている。
それに、この邪悪な魔力を放っておくのは危険な気がするよな。
「行こう。俺たちの今の力なら、何があっても切り抜けられるはずだ」
俺の言葉に、ライラとエルザが力強く頷いた。
俺たちは暗い階段を降り、地下1階層へと足を踏み入れた。
壁には魔法の松明が灯っているが、光は弱く、影が長く伸びている。
カツン、カツンと俺たちの足音が響く。
「魔力感知」に複数の反応があった。
「来るぞ! 前方から三体だ!」
俺が叫ぶと同時に、暗闇から武装した人影が現れた。
それは人間ではなかった。
黒い鎧を身に纏い、目は不気味な赤い光を放っている。
「あれは魔王軍の歩兵!?」
エルザが驚きの声を。魔王軍とは?
「ギシャァァァ!」
魔王軍の兵士たちが、錆びた剣を振りかざして突進してくる。
「ここは私に任せてください!」
エルザが前に出た。
彼女は杖を高く掲げ、魔力を集中させる。
「燃え上がれ、火の矢!」
エルザの放った魔法が、暗闇を赤く染めた。
三本の火の矢が正確に兵士たちを貫く。
「ギャアァッ!」
魔王軍の兵士たちは、叫びと共に黒い煙となって消えた。
「やった! 倒しました!」
エルザが嬉しそうに拳を握る。
「すごいな、エルザ。今の魔法、威力が上がってないか?」
「はい! 最近、魔力のコントロールがコツを掴めてきた気がします!」
エルザの成長は凄まじい。
最初の頃の、震えていた彼女の面影はもうなかった。
俺との絆を通じて、彼女も自分の可能性を信じ始めているんだ。
「でも、今の兵士たちはただの歩兵兵士よ。魔王軍がこんな場所にいるなんて」
ライラが険しい表情で周囲を見渡す。
「エルザ、さっき言ってた『魔王軍』って、具体的にどういう連中なんだ?」
俺は気になっていたことを尋ねた。
「はい。魔王軍は、この世界を恐怖で支配しようとしている魔族の軍隊です」
エルザが説明を始める。
「数百年前に一度封印されたはずなのですが、最近また活動が活発になっているという噂がありました」
彼女の話によれば、魔王軍は四天王と呼ばれる強力な幹部たちに率いられているらしい。
「彼らは魔物を強化したり、死者を操ったりする邪悪な術を使います」
「さっきの兵士たちも、元はただの骨だったり泥だったりするものを無理やり動かしているんです」
「だから、倒すと煙になって消えるんですよ」
俺の中で、魔王軍に対する恐怖心が生まれる。
「そんな連中に、この世界を好き勝手させるわけにはいかないな」
俺の言葉に、シロが賛同するように「ワン!」と吠えた。
1階層はエルザの活躍もあり、突破できた。
ダンジョンと言えば異世界では定番の舞台だな。
ついに俺もダンジョンに入った。
しかし危険もかなりありそうだな。
地下2階層に降りると、そこは入り組んだ迷路のようになっていた。
壁からは毒々しい液体が滴り、地面には大きな足跡が残っている。
「魔力感知」が、上空からの反応を捉えた。
「上だ! 気をつけろ!」
俺が叫ぶと同時に、天井の影から巨大な蝙蝠の魔物が降ってきた。
「ブラッドバットです!」
魔王軍が操る「ブラッドバット」らしい。
その数は、二十体近くいた。
「シロ、お願い!」
俺の掛け声に、シロが弾丸のように飛び出した。
「ガウッ!」
シロは空中で身を翻し、一気に三体の蝙蝠を噛み砕く。
その動きは目にも止まらない速さだ。
シロは壁を蹴り、天井を走り、縦横無尽に空間を駆け抜ける。
まるで銀色の閃光が、暗闇を切り裂いているようだった。
「シロちゃん、後ろからも来ます!」
エルザがサポートに回る。
「光よ、敵を撃て!」
彼女が放った光の弾が、シロを狙っていた蝙蝠を撃ち落とした。
シロはそれに応えるように、さらにスピードを上げる。
銀色の毛をなびかせながら、次々と魔物を仕留めていく。
シロの戦い方は、野生の荒々しさがある。
俺への信頼からくる確かな連動があった。
シロの戦いぶりを「嗅覚強化」と「夜目」で観察していた。
シロが何を考えているか、どこを狙っているかが、手に取るようにわかる。
これも絆の力だ。
シロが誇らしげに喉を鳴らした。
「よし、最後の数体は俺がやる!」
俺は「俊足」を起動し、シロとすれ違うように前に出た。
空中で旋回していた蝙蝠の懐に、一瞬で飛び込む。
「剛力」を込めた拳で、蝙蝠を壁に叩きつけた。
ドゴォォォン!
岩壁が砕け、蝙蝠が消滅する。
残りの二体も、俺の剣が瞬く間に切り裂いた。
辺りに静寂が戻る。
シロが俺の足元に駆け寄り、尻尾をブンブンと振った。
「よくやったな、シロ。助かったよ」
俺が頭を撫でると、シロは嬉しそうに鼻を鳴らした。
「二人とも、息がぴったりね」
ライラが感心したように言った。
「ええ。まるで前から一緒に戦っていたみたいでした!」
エルザも拍手してくれる。
「絆があれば、言葉はいらないからな」
俺は少し得意げに答えた。
でも、内心では驚いていた。
俺のスキルは、ただ能力を貰うだけじゃない。
戦いの中での意識の共有した感覚だな。。
それが、これほどまでに心強いとは思わなかった。
しかし、喜んでいる場合じゃなかった。
地下3階層へと続く階段の向こうから、さらに巨大な魔力が伝わってきたから。
これまでの雑魚とは比較にならない、重厚な魔力だ。
ここまでは下級の魔王軍ってことか。
「来るわよ。ここからは本番みたいね」
「魔王軍の本隊が、この下にいるのかもしれません」
エルザが杖をぎゅっと握りしめる。
俺は仲間たちの顔を一人ずつ見た。
不安そうなエルザ。闘志を燃やすライラ。頼もしいシロ。
そして、俺の肩でプルプル震えながらも、やる気満々のプニ。
「みんな、準備はいいか?」
俺の問いに、全員が力強く頷いた。
大切な仲間を守るための戦いだ。
「行こう。俺たちの絆を見せてやるんだ」
俺は先頭に立って、地下3階層への階段を降り始めた。
暗闇の奥から、冷たい笑い声が聞こえてきたような気がした。
それでも、俺の足が止まることはなかった。
俺たちの本当の戦いは、ここから始まるのだ。
地下2階層までの戦闘で、俺たちは自分たちの成長を確信したな。
ダンジョンの奥はさらに深い闇に包まれている。
「魔力感知」が、地下3階層の広範囲に散らばる不穏な気配を伝える。
「一階や二階とは、魔物の密度が違う」
俺は慎重に足を進めた。
「コウイチ、無理はしないで。私がいつでも前に出るわ」
ライラが俺の横に並び、頼もしい言葉をくれた。
「ああ。頼りにしてるよ、ライラ」
俺たちは暗い回廊を抜け、広い空間へと出た。
そこには、整列した魔王軍の軍団が待ち構えていた。
「骸骨騎士、それに後方には魔導師も登場です」
「骸骨とか強そうだな」
鎧を着た骸骨騎士、魔道士とか異世界ではよく聞く。
どれも強そう。
「これが、魔王軍の本気」
エルザが息を呑む。
「怯むな! 俺たちが今まできた絆を信じよう!」
俺の叫びに、仲間たちの戦意を出す。
運命の戦いが、今、幕を開けようとしていた。
新しく得たスキルを試す絶好の機会だと思った。
「『自然同化』発動!」
俺の姿が、周囲の壁や影に溶け込むように消えた。
「えっ!? コウイチさんが消えた!?」
エルザが驚くが、俺はすぐに彼女の耳元で囁いた。
「大丈夫だ、ここにいる。奇襲を仕掛けるから、合図したら魔法を撃て」
「わ、わ、わかりました!」
俺は気配を完全に消した。凄いスキルだぞこれは。
魔王軍の軍団の背後へと回り込んだ。
彼らは俺が消えたことに混乱し、周囲をキョロキョロと見渡している。
隙だらけだ。
「今だ! エルザ、撃て!」
俺の声と共に、エルザが特大の火球を放った。
ドォォォォン!
中央で爆発が起き、魔王軍の陣形が大きく崩れる。
「よし! ライラ、シロ、行くぞ!」
俺は姿を現し、混乱する敵の中へと突っ込んでいった。
俺たちのダンジョン攻略は、ここからさらに激しさを増していきそうだな。
絶対に、この仲間たちと生きて王都へ行くんだ。
俺は心に誓った。




