11話
俺たちは王都へと続く街道を歩き続けた。
盗賊団を追い払った後、周囲はすっかり静かになったかな。 良かった。
街道の脇には草原が広がっている。
ブラック企業のオフィスでは、こんな新鮮な空気は吸えなかった。
「コウイチ、もうすぐ次の街が見えてくるわよ」
ライラが前方を指差して言った。
「本当ですね! 建物が見えます!」
エルザが嬉しそうに声を上げた。
シロは俺の足元で、期待に満ちた声を上げて駆け出した。
プニもポケットの中で、楽しみそうに跳ねている。
俺たちは歩調を早めた。
見えてきたのは「ルナール」という名前の街だった。
王都への中継地点として栄えているらしい。
石造りの門をくぐると、多くの活気にあふれた声が聞こえてくる。
人は多いかな。でも、どこか街の人たちの顔が暗いような気がするが。
俺の気のせいかな。
「まずは冒険者ギルドに行こう」
俺の提案に、みんなが頷いた。
盗賊団のことを報告しなきゃいけない。
それに、街の雰囲気が気になる。
何か困りごとがあるのかもしれない。
ルナール街のギルドは、意外と大きかった。
中に入ると、すぐに受付へと向かった。
「すみません、街道で盗賊に襲われたので報告に来ました」
俺が言うと、受付の男性が顔を上げた。
「盗賊ですか。最近、あの辺りには質の悪い連中が出ていまして」
男性は少し疲れた顔で答えた。
「『黒い毒蛇団』と名乗っていました。リーダーは顔に傷がある大男です」
俺がそう告げると、男性の顔色が一変した。 知っている団みたいだな。
「な、なんですって!? あの毒蛇団を倒したというのですか!?」
男性の大きな声に、ギルド内が静まり返った。
「はい、逃げていきました。武器もいくつか置いていったので、ここにあります」
俺は盗賊が放り出した剣をカウンターに置いた。
受付の男性は震える手でそれを確認してくれる。
「間違いありません。これは彼らのシンボルです」
周囲の冒険者たちが、ざわつき始めた。
「おい、あの毒蛇団を追い払ったのか?」
「Cランクの中でも最強クラスの連中だぞ」
「あの若い連中、一体何者だ」
驚きの声と視線が、俺たちに集まる。
思ったよりも悪いくて強い盗賊だったらしいな。
ギルドでは良い仕事をすれば、ちゃんと驚いて、評価してくれる。
すごく照れくさくて、でも嬉しかな。
「素晴らしい功績です! 彼らには高額な賞金がかかっていました」
男性は素早く金貨の袋を用意してくれた。
もしかして報酬が出るとか?
「こちらが報奨金です。そして、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「コウイチです。こっちはライラとエルザ。Bランクです」
俺がプレートを見せると、男性はさらに驚いた。
「Bランク! お若いのになんという実力でしょう」
男性は何度も頭を下げた。報奨金を受け取って、俺たちは顔を見合わせた。
予定外のお金をもらえたのは良かったな。
まあ、盗賊はもうこの街の近くには来ないだろうと思う。
「結構な金額になったわね。コウイチ、何か美味しいものでも食べる?」
ライラが食欲を抑えきれない感じで言ってくる。
確かにお腹空いたかも。
「いいですね! 甘いものも食べたいです!」
エルザも目を輝かせている。
でも、俺は気になっていることが。
街の人の様子が気になることを聞いてみたかった。
「ところで、街の皆さんの元気が無いように見えますが、何かあったんですか?」
俺の質問に、受付の男性は表情を暗くした。
「よく気づかれましたね。実は、街の貴重な水源が汚染されてしまったのです」
「水源が? どうしてですか?」
「街の北にある山に、原因不明の泥が詰まってしまいまして」
男性の話によれば、その泥のせいで水が流れなくなったらしい。
それだけでなく、泥には毒が含まれていて、農作物が枯れ始めているという。
「冒険者も派遣したのですが、泥が狭い岩の隙間に詰まっていて、手が出せないのです」
俺はエルザとライラを見た。
二人とも、放っておけないという顔をしている。
俺も同じ気持ちだよな。街の人が困っているてことか。
「俺たちがその原因を調べてきます。協力できるかもしれません」
「本当ですか!? でも、非常に危険かもしれませんよ」
「大丈夫です。俺たちには、頼りになる力がありますから」
俺はポケットの中のプニをそっと撫でた。
プニのスキルが、きっと役に立つはずだ。
俺の提案にライラとエルザも反対しないでくれる。
これで俺達が山に行くと決まった。
俺の勝手な言い分だが、ライラは別にいいよという感じかな。
ギルドを出て、俺たちはすぐに北の山へと向かった。
街の人たちの不安そうな顔を、早く笑顔に変えたかった。
北の山の奥へ進む。道は険しい。
途中で魔物にも遭遇して、討伐する。
倒せるレベルの魔物だから問題なかった。大きな洞窟があった。
そこが街の水源になっている場所だろう。
洞窟の入り口から、どろりとした黒い液体が流れ出している。
「洞窟だ。これが目的の水源だろう」
「嫌な匂いね。これ、ただの泥じゃないわ」
ライラが鼻を抑えながら言った。
「毒の魔力が混じっています。私の魔法でも、吹き飛ばすのは難しそうです」
エルザが杖を構えて、不安そうに言った。
俺は「魔力感知」を集中させた。
洞窟の奥の、とても狭い隙間に、巨大な魔力がある。
なんだろう?
普通じゃないな。
「あそこに、原因となる魔物が詰まっているみたいだ」
「でも、あんなに狭い隙間じゃ、誰も入れないわよ」
ライラの言う通り、岩の隙間は人が一人通るのも難しい。
でも、俺にはあのスキルがある。
プニとの絆で得た「液体化」だ。
「俺が行ってくる。二人とシロはここで待っていてくれ」
「一人で行くなんて危険よ! 私も行くわ」
ライラが引き止めるが、俺は首を振った。
「『液体化』を使えば、俺一人なら通れるんだ。信じてくれ」
俺は覚悟を決めて、スキルの発動をイメージした。
たぶん大丈夫だと思う。プニを信じる。
体が、じわりと熱くなるのを感じる。
骨が無くなり、体が柔らかくなっていく。
プニと一緒にいるときのような、不思議な感覚だ。
「行ってくる。すぐ戻るよ」
「なにそれ!! コウイチがスライムみたいに!」
「人じゃないみたいよ!」
「プニのスキルだ。スライムっぽく変身できるようだ。これでやってみるよ」
「まさかそんなスキルまであるとはね。頑張ってね!」
ライラとエルザは俺の液体化のスキルにかなり困惑していた。
常識を超えているスキルではある。
俺は液体のような姿になり、岩の隙間へと滑り込んだ。
暗くて狭い空間。
でも、俺の『夜目』は全てを映し出していた。
奥へ進むと、そこには巨大なスライムの変異種がいた。
巨大なスライムの変異種の魔物だ。
そいつが水源の出口を塞ぎ、毒を垂れ流していたのが確定したな。
「お前が原因だったんだな」
俺は人間の姿に戻り、剣を抜いた。
狭い場所だが、俺の『剛力』なら一撃で倒せる。
巨大なスライムの変異種が俺に気づき、毒の弾を放ってきた。
俺は「俊足」で毒の弾をかわす。
壁を蹴り敵の背後を取った。
「これで終わりだ!」
「剛力」を込めた剣を、魔物の核に突き立てた。
ドォォォォン!
激しい衝撃と共に、巨大なスライムの変異種は消えたかな。
危ない魔物だったな。討伐したから変化はあるといいな。
魔力が消え、詰まっていた泥が一気に流れ出した。
俺は再び「液体化」を使い、水の流れに乗って外へ飛び出した。
「コウイチ! 無事なの!?」
ライラが叫びながら駆け寄ってきた。
俺は元の姿に戻る。『液体化』て便利なスキルだな。
「解決したよ。もうすぐ綺麗な水が街へ届くはずだ」
洞窟からは澄んだ水が勢いよく流れ始めていた。
エルザが魔法で水を調べ、パッと笑顔になった。
「毒の反応が消えました! 大成功です!」
「さすがコウイチ!」
「俺の力じゃないさ。プニのおかげさ」
「プニに感謝だね」
「プニのおかげだってよ」
ライラに撫でられるとプニは喜んでいた。
目的は達成したから下山しよう。
街へ戻ると、広場の噴水から勢いよく水が噴き出していた。
街中の人たちが集まって、歓声を上げている。
「水が出たぞ! 綺麗な水だ!」
「作物も、これで助かるぞ!」
俺たちが広場に行くと、誰かが叫んだ。
「あの方たちだ! 水源を直しに行ってくれた冒険者様だ!」
人々が俺たちの周りに集まってくる。
「ありがとうございます! 街を救ってくれました!」
「あなたたちはルナールの恩人です!」
おじいさんや子供たちが、俺の手を握って感謝を伝えてくれる。
ギルドのマスターも現れた。
「まさか、あの短時間で解決するとは。お見事です、コウイチ殿」
マスターは深く頭を下げた。
「これは街からの感謝の印です。受け取ってください」
差し出されたのは、金貨の袋だけじゃなかった。
「街の最高級の宿を、無償で用意させました。今夜はゆっくり休んでください」
「えっ、いいんですか?」
「もちろんです。英雄を道で寝かせるわけにはいきませんから」
マスターは豪快に笑った。
その夜、俺たちは豪華に楽しんだ。
肉料理、スープ、新鮮な野菜。
そしてデザートには、エルザが待ち望んでいたケーキが出てきた。
「美味しい! こんなに美味しいもの、初めて食べました!」
エルザが幸せそうに頬を抑えている。
ライラも高級なワインを飲みながら、満足した様子だ。
シロも大きな肉を貰って、無我夢中で食べている。
プニも新鮮な果物の汁を吸って、プルプルと震えていた。
みんな食べているな。
「コウイチ、本当にすごいわね」
ライラから。
「何がだ?」
「あなたのスキルよ。誰かを助けたいって気持ちが、奇跡を起こす。それって、本当の英雄の才能だと思うわ」
ライラの言葉に、俺は胸が熱くなった。
ブラック企業のときは、誰かを助けたいなんて余裕は無かったからな。
自分のことで精一杯だったから。
でも今は、自分の力で誰かを幸せにできる。
それが、こんなにも素晴らしいことだとは知らなかったな。
「俺はただ、皆と一緒に楽しく過ごしたいだけだよ」
俺は本音を口にした。
「そのために、これからも力を尽くす。皆が笑っていられるようにさ」
「なら、私も全力で支えるわ。相棒としてね」
ライラがグラスを差し出してきた。
「私も! 魔法で精一杯サポートします!」
エルザもジュースのグラスを持った。
「ああ、よろしくな」
俺たちはグラスを鳴らした。
ルナールの夜は更けていく。
街中から、楽しそうな歌声や笑い声が聞こえてくる。
俺たちが救ったなら嬉しい。
窓の外を眺めながら、決意を新たにした。
王都へ行けば、もっと大変なことが待っているかもしれない。
でも、この仲間たちといれば、何だって乗り越えられる気がする。
絆のチートスキルは、まだまだ俺を驚かせてくれそうだ。
翌朝、俺たちは街の人たちの熱烈な見送りを受けながら、門を出た。
「コウイチさん、また来てくださいね!」
「気をつけて! 王都でも頑張って!」
たくさんの声援。俺たちは街道を歩き出す。
シロが元気に先頭を走り、ライラとエルザが並んで歩く。
俺はその背中を見ながら歩く。
俺の新しい人生は、まだ始まったばかりだ。
「もうすぐ王都だな。どんな出会いがあるかな」
プニが「ぴゅい!」と応えた。
「コウイチ、ぼうっとしてると置いていくわよ!」
ライラが振り返って笑う。
「わかってるって!」
俺は走り出した。待ってくれよ。




