真実と地獄の始まり
「……やっと来たか。何が何だかわからないよな、今の状況」
俺は崖の縁に座ったまま、ひらひらと手を振った。
東京から飛ばされ、ボロボロになって息を切らしている二人を、俺は少し申し訳なさそうに、でも温かく見つめる。
「いきなり化け物に襲われて、気づいたら別府の山の上。……パニックになって当然だわ。でも、まずは無事で良かった」
俺はゆっくりと立ち上がり、二人の間に歩み寄った。
「……あ、いや。そんな顔すんなって。俺だよ、らいきだ。偽物じゃないから安心しろ」
「らいき……君、だよね……? この豚ちゃんは?……」
「豚じゃないぽるだ!!」
空気が凍った
呆然とするみこに、俺は少し困ったように眉を下げて笑った。
「……あ、こいつか?」
俺の足元で、不満げに鼻を鳴らしているぽるを指差して、俺は苦笑いする。
「こいつは俺の能力で生み出した、いわば俺の分身みたいなもん。道案内が必要だと思ってさ。……驚かせたけど、悪い奴じゃないんだ」
「……能力で、生き物を……?」
絶句するみこに、俺は少しだけ真面目な顔をして頷いた。
「そう。俺、実は地球人じゃないんだよね。天球から来た『天界族』ってやつ。……この宇宙にはさ、命が住める特別な星が3つあるんだ。それを『異球』って呼んでて、俺の故郷の**【天球】、化け物どもの巣窟の【魔球】、そしてこの【地球】**」
俺は二人の瞳をまっすぐ見つめて、少しだけ声を落とした。
「……で、ここからが本題。……お前ら、今、自分の体の中に『何か』が混ざってる感じ、しないか?」
ゆうまが、自分の体の変化を感じながら、震える声で答える。
「……ああ。あの化け物に……三手に触れられてからか、ずっと熱いんだ。体の中で、何かが暴れてるみたいな……」
「……だろうな。魔球の生き物に直接触れたことで、お前らの中にある**『異能』**が、無理やり引きずり出されたんだよ。本来なら一生眠ったままのはずだった力がさ。毒が回ったみたいで怖いかもしれないけど……それはもう、お前ら自身の力だ」
「……異能、か。そんなこと言われても、全然実感がわかねーよ。ただ右手が熱くて、気味が悪いだけだ」
ゆうまが吐き捨てるように言う。その横で、みこも自分の体に起きた不可解な変化を抱え、ただ立ち尽くしていた。
「……だろうな。いきなり『力が目覚めた』なんて言われて、はいそうですかって納得できるわけがない。でも、のんびりしてる暇はないんだ。……みこ、ゆうま。今、この地球には魔球からの侵略者が次々と現れ始めてる。東京だけじゃない。世界中でな」
「え……っ!?」
「俺は今から、この近く……九州一帯に現れたあいつらを、まとめて片付けてくる。一週間だ。一週間あれば、このあたりの連中は一掃できる。……その間、お前らはここで自分の『異能』を制御できるようにトレーニングしてもらう」
「トレーニングって……誰が教えるんだよ?」
ゆうまが怪訝そうに聞き返すと、俺はニヤリと笑って、足元の小さな影を指差した。
「こいつだよ。ぽる、頼んだぞ」
「……は!? ちょっと待て、らいき!」
それまで黙っていたぽるが、ひっくり返ったような声を上げた。
「僕に、この未熟な地球人どもの守り(もり)をしろと言うのか!? 冗談じゃない! 僕は君の能力で生み出された存在であって、ベビーシッターじゃないんだぞ!」
「いいだろ、ぽる。お前なら、こいつらの力の引き出し方くらいわかるはずだ。……な? 頼むよ」
俺に頭を撫でられ、ぽるは「うぐっ……」と言葉を詰まらせた後、信じられないくらい不機嫌そうにみことゆうまを睨みつけた。
「……チッ。らいきがそう言うなら仕方ない。だが、僕の指導は厳しいぞ。泣き言を言っても絶対に許さないからな!」
俺はそんなぽるを見て満足げに頷くと、崖の縁へ一歩踏み出した。
「じゃあな。一週間後、少しは戦えるようになってるのを期待してるぜ。……無理はしすぎるなよ、みこ。ゆうまもな」
そう言い残すと、俺の体は光に包まれ、弾丸のような速さで空の彼方へと消えていった。
残されたのは、絶叫に近い不満を漏らす一匹の豚と、呆然と立ち尽くす二人の少年少女。
「……あーあ、行っちゃった。一週間かぁ……長いなぁ。あんな未熟な地球人の面倒を見るなんて、僕のプライドがズタズタだよ」
ぽるはぶつぶつと文句を言いながら、よたよたと歩いて、まずはゆうまとみこの体の傷を眺めた
「……なぁ。触られたところは何ともないんだけどさ。なんか……体の奥が、ずっと熱いんだ。変な感じがする」
「……ふん、それが『異能』が芽吹こうとしてる証拠だ。魔球の連中に触れられて、お前の芯に火がついたんだ。おい、そこ。死にそうなツラしてないで、こっちへこい。らいきから預かった以上、死なせるわけにはいかないからね」
ぽるは小さな体を二人に添えた。
「【ヒールテルセイン】。……大人しくしてろよ、少し時間がかかるから」
ぽるがそう呟いた瞬間、その小さな体から柔らかな、けれど密度のある不思議な光が溢れ出し、ゆうまを包み込んだ。傷がひとつ、またひとつと塞がっていく。
「……すごい。痛みが消えていく……」
「当たり前だ、僕を誰だと思ってる。僕はただの豚じゃない。戦闘中だって、シールドを張りながらこれを使いこなすことだってできるんだからね。……よし、次はみこだ。こっちに来い」
ぽるは手際よくみこの全身の怪我にも触れ、その温かな力で癒してくれた。治療が進むにつれて、みこも「芯の熱さ」をはっきりと感じ始めていた。
「……ふぅ。これで治療は終わりだ。さて……」
ぽるは前足を腰に当て、仁王立ちして二人を交互に睨みつける。
「怪我が治ったなら、もう言い訳はできないよね? 今日から地獄の一週間だ。お前たちがその『体の芯の熱』を自在に操れるようになるまで、徹底的に叩き込んでやる。修行の内容はシンプルだ。死ぬ気で僕に攻撃を当てる……いや、**『タッチ』**してみろ。それができなきゃ、お前らはただの死に損ないだ。……さあ、始めるぞ。当てるまで、飯も寝床もなしだぞ!」
これから一週間、みことゆうまの地獄が始まるのだった。
うぁぁぁぁぁぁぁ
つかれた俺にも【ヒールテルセイン】かけてー




