見慣れない土地と謎の一匹
目の前に豚がいた
「喋った……? 豚が、いま、喋ったよね……!?」
ゆうま君も、痛みを忘れて目を丸くしている。
「喋るぐらい造作もない。それより……お前たちは運が良かったな。あの『三手』に遭遇して、五体満足で生きている奴など、今のこの星にはまずいない」
「三手……あの、怪物のこと……? 私たちは、なぜここに……」
「我が主がお前たちを拾い上げたからだ。主はこの地球の人間ではないが……お前たちのことは、少しばかり知っているらしい。……さあ、ついて来い。真実を教えてやる」
子豚はくるりと小さな尻尾を揺らして背を向けると、トコトコと歩き出した。
追いかけようとした瞬間、全身に凄まじい衝撃が走った。
「あ……っ、が……ぅ」
脇腹に熱く熱した鉄棒を突き立てられたような鋭い激痛。
呼吸をするたびに、折れた肋骨の端が内側の肉をガリガリと削り、脂汗が滝のように流れ落ちる。ゆうま君も壁に爪を立て、一歩歩くごとに生爪を剥がされるような痛みに耐えながら、どうにか外へと這い出した。
そこで目にした光景に、私は絶望した。
「……どこ、ここ……っ」
そこは、切り立った山の頂上だった。
眼下には、街の至る所から白い湯気が立ち上る、穏やかな温泉街が広がっている。
私たちは、ついさっきまで東京にいたはずなのに。
数百キロもの距離を無視して、静まり返った別府の街を見下ろしている。建物も、景色も、私たちが知る「普通」のまま。だからこそ、ここへ一瞬で連れてこられた現実が恐ろしい。
「早くしろ。足が止まっているぞ。主を待たせるな」
「……ちょっと待ってよ、豚ちゃん……。元は東京にいたのに、なんで……。もう、一歩も動けない……」
私が弱音を吐くと、子豚は不機嫌そうに振り返り、その透き通った瞳を険しく光らせた。
「誰が豚ちゃんだ! 失礼な奴め。僕には誇り高き名前がある……かつてピグレットに憧れて名付けられた、【ぽる】だ!」
しかとした
脊髄を針で刺されるような激痛に耐え、脂汗で視界を滲ませながら五分ほど歩き続けた先。
断崖の縁で、静かに瞑想している「彼」の背中があった。
禍々しいオーラなど一切ない。 けれど、ただそこに座って深く呼吸を繰り返しているだけで、周囲の空気が浄化されるように澄み渡り、ピンと張り詰める。
「……らいき、君」 震える声で呼びかけると、彼は瞑想を解き、ゆっくりと、私たちの方へ顔を向けた。




