4-11
バイロンフォード先生に頼み込んで、対戦の順番を変えて私とアイラさんが当たる様にして貰う。
ちょっと卑怯だが、父様の威光を借りてしまった。
私が使用する精霊甲冑はいつも授業で使っている学校の備品の教導機ではなく、自前のサファイア・ラークだ。
主に敵陣偵察に使用される精霊甲冑で、戦闘能力は低い。
皇帝の孫が騎乗する機体ゆえに高価な専用機ではあるが、飛行特化型である為だ。
兄様のアーク・チェンタウロは強力すぎる為に授業では教導機を使っているけど、私の場合は逆の理由で教導機を使っていた。
それでも、サファイア・ラークを使用するのは、教導機で普通に戦ってはアイラさんに勝てないと思ったからだ。
先に模擬戦を終えた兄様がアーク・チェンタウロを貸そうかと言って来たが、断った。
幾ら兄様の専用機が強力だと言っても、扱い慣れない機体を使用するのは不利だと思ったからだ。
それに、アイラさんだったら、兄様の乗るアーク・チェンタウロにも勝ってしまいそうな気がする。
だから一か八かだけど、奇抜な戦法を使う。
彼女に勝てる気はしないけど、私に出来る最善を尽くそうと思う。
「何で、こんな事になってんの?」
私はバロン・ルージュの操縦席でそう呟く。
お母様が皇子殿下と一緒に授業参観に来た事で、A組の女子達に変な疑いを掛けられたけど、それは殿下に直接解消してもらった。
そのはずなんだけど、イリア皇女は私との対戦を強硬に要求して来た。
決闘ではないとは言っているけど、皇帝の孫相手に勝負をするのなんて、私としては避けたい。
なんか、一部の生徒の間で私は誰にでも決闘を吹っ掛ける狂犬の様な人間だと思われてるらしいけど、断じてそんなことは無い。
やっぱり、入学初日にクラスの男子に決闘を申し込んだのが不味かったのかもしれない。
とは言え、後悔はしていない。
自分のプライドの問題ではあるけど、あの時は決闘をするだけの理由が私には有った。
だけど、今回はそんな理由は無い。
私に皇女様に何か要求する事は無いし、皇女様の方にも無いはずなんだ。
疑念は既に解消されているし、皇女様ももう怒っている風ではなかった。
彼女が提示した勝者が得る賞品も良く分からない。
それは、今後、負けた方が勝った方を『お姉様』と呼ぶと言うものだった。
私にとってはどちらも嫌なのだけど、彼女としてはそれに何かの意味が有るらしい。
多分だけど、イザーク様がイリア様より数ヶ月先に生まれていて、お兄さんに当たるから、もし私がイザーク殿下と結婚すると、皇女様は私の事を『お姉様』と呼ぶ事になるから、私に勝ってその可能性を無くしたいのだろうか?。
それとも何か別の意味がある?
自分の養母の特殊な性癖を思い出して、私は背中に嫌な汗をかいた。
「手加減は要りません。全力で戦いましょう、アイラさん!」
やたら元気な声で、イリア皇女がそう言ってくる。
「はじめ!」
教導機に乗ったリック先生の合図でアイラさんとイリア皇女の試合が始まる。
入学式の時の決闘での事件が有るので、先生の他にも両クラスのクラス委員が審判兼暴走時の対応係として待機している。
開始の合図とともに、イリア皇女の青色の精霊甲冑が飛行形態に変形する。
「やっぱり、そう来るか?」
俺、ジルベールこと転生者の茂武はそう呟く。
お姫様の機体はどう見ても戦闘向きではない。
飛行形態の時は両腕が翼と一体化するので武器は持てなくなってしまう。
かと言って、人間形態では変形機構の都合で手足は貧弱である。
空を飛んで偵察をする目的なら、いっそのこと変形機構なんか無くして飛行形態だけの方が良いのではと思うが、精霊甲冑は両手両足を持った人型をとる事が出来なければいけない決まりが有るらしい。
その決まりはどうやら、精霊との契約に関わっているそうだ。
ウェンディの水陸両用精霊甲冑もそうだ。
イザーク皇子のアーク・チェンタウロは特殊な例だが、アレも両手両足が有る。
馬体の後半の方が余計に付いている分には問題ないらしい。
ともかく、お姫様のサファイア・ラークの歩行形態ではアイラ・マクディアスのバロン・ルージュ相手に勝ち目はない。
ならば、飛行形態で空を飛んで一撃離脱で攻撃した方がまだ勝負に勝てる可能性は有る。
精霊甲冑には魔法付与した武器での攻撃しか効かない。
また、魔法は本体から離れるほど弱くなるので、飛び道具によって、サファイア・ラークが撃墜される危険も無い。
この戦法が一番効果的であろう。
サファイア・ラークは歩行形態時に武器として他の精霊甲冑が使用している物より短い短剣を持っていた。
もちろん、魔法付与されていない模擬剣ではあるが、これを飛行形態に変形する際に頭部の鳥の頭を模した兜に装着する。
丁度、くちばしの様になる。
これが、サファイア・ラークの唯一の武装らしい。
一旦、飛行魔法により高く飛びあがったサファイア・ラークが急降下して、対戦相手に迫る。
だが、精霊甲冑での模擬戦に慣れているアイラは少しも動揺しない。
この戦法を読んでいたバロン・ルージュは地上で迎え撃つ様に剣を構える。
勝負はすれ違い様の一瞬で決まるだろう。




