4-10
「おいおい、何故そう言う事になる?何の為の決闘かな?」
アイラさんに対する私の決闘の申し込みに、驚いた顔の父様が聞いて来る。
「・・・」
私は無言で父様を真っ直ぐに見詰め返す。
「・・・あの、殿下、そちらのマクディアス男爵様と随分仲良くされておられましたが、・・・その、お妃に迎え入れる御つもりでしょうか?」
私が声を発しないので、クラスメイトの女子が代わりに父様に聞く。
父様は片方の眉を器用に吊り上げる。
「ふむ、私の『御つもり』はともかく、そう言ったものは相手のある事だからな・・・」
そう言って、意味有り気にマクディアス男爵の方を見る。
「有り得ない話だ」
セーラ様がきっぱりとそう言う。
クラスメイトの女子達がほっとする。
「で、では、イザーク様かクリストファー様とそちらのセーラ様の養女との縁談が有ったりとかは?」
続けてそう聞かれる。
その質問で、父様はこの騒ぎの大体の原因を察した様だ。
「なるほど、私がセーラと一緒に居る事で、そう言った話が有るのではないかと誤解させてしまった様だな」
その言葉に、クラスの女子達は一旦、安堵の息を吐くが・・・
「確かにそう言った話が持ち上がった事も有るな」
父様のその言葉に、一度落ち着きかけたみんなが再度どよめき出す。
「・・・落ち着き給え。身内の間で冗談でそんな話が出たというだけだ。本人達には言っていない。さっきも言った様に、こう言った事は双方の意思が大事だろう?アイラ殿はどう思われるかな?」
父様が、アイラさんに聞く。
イザーク兄様は今、精霊甲冑での模擬戦をしている最中でここには居ないので取り敢えず彼女に聞いたのだろう。
「申し訳ございません。私では身分が釣り合わないと思います」
アイラさんがやんわりと否定の意を伝える。
「ああ、身分とかは気にしなくて良い。率直な気持ちを教えて欲しいのだが」
「恐れながら、お断りいたします」
養母であるセーラ様と同じ感じで、きっぱりと拒否する。
まるで、兄様の事など少しも気に掛けていない様だ。
安心すると同時に、兄様に魅力がないと言われた様で、少々気分が悪い。
「それならば、私は無理強いはしないよ。これで決闘などする意味は無くなっただろう?」
父様がそう言う。
「それにしても、他のお嬢さん方ならともかく、イリアが決闘を申し込むなんて、よほど兄妹仲が良いのだな。兄を盗られるのがそんなに嫌か?」
続けてそんな事も言う。
「なっ!別にそんなのではありません!」
私は思わず大きな声を出してしまう。
本当にそんなつもりは無かった。
イザーク兄様の事はあんまり気にしてはいない。
何と言うか、言葉に出来ないモヤモヤが有るのだ。
ただ、図星を突かれて慌てて大声を出した様に思われたかもしれない。
その事に顔が赤くなる。
「可愛らしいお嬢さんだな」
父様に向かって、セーラ様がそう言う。
私の顔は更に赤くなる。
「ああ、自慢の子供達だよ。だが、君の娘も可愛いではないか?」
父様もそう言う。
チラリとアイラさんの方を見るが、彼女は私と違って無表情のままだ。
その冷静さが少し妬ましい。
「あ、あの、セーラ様ではなく、アイラさんの方と殿下が結婚するなんて事は・・・?」
先程持ち上がっていた話をクラスメイトの女子が、おずおずと聞く。
やはり突拍子も無い話だったのだろう、父様は目を丸くする。
「ははは、流石にそんな話が出たことは無いな。アイラ嬢も自分の親より年上の男など嫌だろう?」
父様がそう言う。
「そうだな、私も殿下が義理の息子になるとか、どうして良いか分からん」
セーラ様も笑いながらそう言う。
アイラさんも小さく頷いた。
父様の言葉にクラスの女子達が安堵する。
しかし、自分達にも可能性が無いだろう事を知って、複雑な顔をする者も居た。
ともかく、これで決闘の件は無くなるか。
私も安堵する。
勢いで決闘を申し込んでしまったが、精霊甲冑の実技に於いて多分学年一の実力者である彼女に勝てる見込みは無い。
だが、冷静になった事で、私の胸のモヤモヤの正体が分かった様な気がした。
そんなアイラさんに私は憧れていたのだ。
私が生まれる前から実績を積んできたセーラ様に憧れるのは良い。
しかし、同い年の彼女に憧れるのは自分のプライドが許さない処がある。
だから、彼女に勝ちたいと思ったのだと思う。
つまりは嫉妬だ。
誰もがうらやむ皇女と言う立場でありながら、私は一男爵令嬢をうらやんでいる。
頭ではそんな事ないと思い込もうとしていたけど、一度認めてしまうと、気分はすっきりとした。
「では、先程の決闘とか言う話は無しで良いかな?」
父様が改めて、そう言う。
・・・しかし。
「お待ちください。私は先程の申し込みを取り消しません」
私は、そう宣言した。
周囲の人達が騒めく。
「おいおい、もう決闘する意味は無いだろう?大体、何を賭けるつもりだい?」
呆れた様な声で父様が言ってくる。
「そうですね。別に決闘などと言う大層なものでなくても良いのです・・・」
私はアイラさんの方に向き直る。
「アイラさん、この時間の模擬戦で小さな賭けをしませんか?」
私は彼女に向かって、提案をする。




