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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
4章
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4-9


 結局、盗賊達はその時に私達が運んでいた食料の半分だけを持って行った。

 しかし、私の説得がを聞き入れてくれたのか、その後、帝国の輜重隊が襲われることは無くなった。

 王国に比べて帝国の税率の方が低いので、我々が勝つ方が得だと判断したのだろう。

 彼女等は諸王国連合の輜重隊だけを襲う様になった。

 あの銀色の悪魔が居るのだから、食料の強奪に失敗する事は一度も無かったらしい。

 レオンハルト皇子からの依頼である盗賊の討伐は失敗に終わった訳だが、結果として帝国の利益になったので、皇子からの叱責は無かった。

 マリオン辺境区での戦線は帝国優位になった。

 マルスハイトや他の戦線でも帝国は諸王国連合を圧倒して、開戦前よりも大きく領土を増やして終戦を迎える。

 終戦と同時に盗賊団は現れなくなった。

 盗賊の精霊甲冑相手に手も足も出ず負けた私だが、その後も連合軍相手には勝ち続けたので、立場が悪くなることも無かった。

 終わって見ればレオンハルト皇子をはじめ帝国貴族等から賞賛される身になる。

 彼女(その時は名前は聞かなかった。盗賊をしているのだから名前を明かすはずもない)とはもう会う事も無いと思っていたが、その後色々あって、再会する事になる。

 これまたなんやかんや有って、彼女とその夫をマルスハイト辺境区内の村に移住させた。

 あいにく、マクディアス男爵家の領地に空きが無かったので、少し離れたアクセル村に家を用意してやった。

 その時私は正式に男爵位を襲名していて、その上マルスハイト辺境伯の代行も兼ねる様になっていたので、そう言った無理も効く。

 もちろん、彼女が一時期とは言え帝国と周辺諸国に悪名を轟かせた盗賊団の首領だったという事は伏せている。

 その事実が公に知られると、私の立場が不味くなるから当たり前だ。

 そこまでして、彼女に便宜を図ったのには訳がある。

 いや、大した理由ではないが、ただ単純に彼女に惚れていたからだ。

 いつの間にか彼女が結婚していたとしても、関係ない。

 私は私の気持ちにだけは正直でいるつもりだ。

 別に彼女の夫から略奪するつもりは無かった。

 ただ、自分が好ましいと思った女性には幸せになって欲しいだけだ。


「あのアイラのクラスで授業をしていた女教師、なかなか良いな。好みだ」

 帝都騎士学校付属の工房に挨拶をしに行った後、次の授業があるグラウンドへ移動しながら、私はそう言った。

「相変わらず良い趣味をしている。レーヴェン男爵の娘らしいぞ」

 隣を歩くレオンハルト皇子が相槌を打つ。

「彼女も良かったが、君の娘の隣の席に座っていた娘も可愛くは無かったか?」

 続けて、そんな事も言う。

「オイオイ、自分の末娘と同い年の娘ではないか?」

「そうだが?自分の娘と同じくらいに可愛いと言っているだけだ」

「詭弁を・・・」

 レオンハルトと私は軽口を叩き合いながら、騎士学校内の小道を進んで行く。

 話の流れを例の件から逸らす事には成功している様には思える。

 グラウンドでの実技の授業は既に始まっている様だったのでお互い足を速める。



 帝都騎士学校のグラウンドは広いが、二クラス分の生徒が全員精霊甲冑を出せるほどでは無い。

 一クラスでも広がって体操をするだけでギリギリである。

 なので、四組八機で模擬戦をする事になった。

 A組とC組の生徒で一対一の模擬戦だ。

 入学して数ヶ月、皆基礎的な操縦技術は身に付けて来ている。

 それでもまだ本格的な試合ではなく、一本取るとかの決着が着かなくても時間が来たら次の人と交代する形式だ。

、当然だが、自分の番になるまではグラウンド脇で見学となる。

 私、アイラ・マクディアスの順番は大分後の方だ。

 仲の良い女子達と一緒にかたまって、他の生徒の試合を見ている。

 A組の女子も一塊になっていたが、試合が始まって少ししてからこちらの方に近付いてきた。

「アイラさん。アレはいったいどう言う事かしら?」

 一人のA組女子が私に険のある口調で話し掛けて来る。

 騎士学校に通う女子は少ないので、女子同士仲良くしたいのかと思っていたのだけど、どうやら違う様だ。

「・・・アレとは何でしょうか?」

 私は聞き返す。

「貴女のお母様が皇子殿下と一緒に居る事です!」

 別のA組女子が詰め寄って来る。

 なんか、みんなが私を責めているみたいだ。

 A組の女子は皇女のイリア様以外は良く知らない。

 その皇女様は女子達の後ろの方で、黙っている。

「ええと、それは私も知りたいです。お母様が授業参観に来るのは聞いてたけど、皇子様も来るは今日初めて知ったくらいなんで」

 私はそう答える。

「まさか、貴方のお母様を第三婦人に迎えるという事なのでは?」

「それとも、貴女をイザーク様かクリストファー様の伴侶にするつもり?」

 彼女達は更に私に詰め寄る。

 クリストファー様と言うのはイリア様とイザーク様のお兄さんだ。

 レオンハルト皇子の次男で、今騎士学校の三年に在籍している。

「いえ、そう言う話は全く聞いてませんけど」

 私は否定する。

 あの真正の女好きのお母様が男の人と結婚するなんて考えられない。

 しかし、A組の女子は納得がいっていない様子だ。

 ウェンディはじめC組の人達は私が知らないと言ったら納得したのに。

 この違いは現実味の差なのかもしれない。

 私達下級貴族の娘は憧れは有っても、皇帝の血族と結婚出来る可能性は低い。

 でも、A組の人達にはその可能性が十分に有るのだ。

 必然的に必死にもなるだろう。

「もしかして、もしかして、貴女をレオンハルト殿下が召し上げるなってことは無いでしょうね?」

 私に詰め寄る女子の一人がそんな事を言う。

 それって、イリア様やイザーク様のお父様である現第一皇子が私を嫁にするって事?

 何でそんな考えに至るのだろうか?

 有り得ない話だ。

「ええと、イリア様!そんな話は出てないですよね?この人達に何か言ってください!」

 私はもう片方の当事者である皇女様に助けを求める。

 今まで黙っていた彼女だけど、そんな事有り得ないって言って欲しい。

 私の言葉だと信用されないかもしれないけど、皇女殿下である彼女の言葉ならこの人達も納得してくれるだろう。



 アイラさんの言葉に私、イリアは少し考える。

 確かに、そんな話は聞いていないし、父様が私とおんなじ年齢の女性を妃に迎えるなんて考えたくもない。

 しかし、有り得ない話でもないと思う自分も居る。

 父様は私達に対して放任主義ではあるが、その分、自分も私達に相談なく自由にしているところがある。

 父様は帝国の第一皇子で、次期皇帝になるのはほぼ確定している。

 そんな身分なら、私達の母様達の他にもっと妃を増やしても問題は無い。

 さらに言えば、娘ほどの若い娘を娶ったとしても表向きは誰も文句は言わないはずだ。

 また、級友の女子達の邪推に対してもある程度の理解は出来る。

 イザーク兄様やクリストファー兄様は長男であるレオニード兄様に比べて皇帝になれる見込みは低い。

 結婚によって自分の格を上げたい女性にしてみれば、より身分の高い相手に見初めて欲しい。

 レオニード兄様にしても、皇帝に即位するのは大分先の話になる。

 そんな人達にしてみれば兄様達より、父様の方が遥かに確実に見えるのだろう。

 そんな打算まみれの人達にとっては歳の差なんか、些末な事なのかもしれない。

「こ、こうなっては我慢出来ません!アイラ・マクディアス!決闘を申し込みます!私が勝ちましたら、大人しく身を引きなさい!」

 私が一瞬アイラさんに対する返答をためらった隙に、級友の侯爵令嬢が彼女に向かってそんな事を言いだす。

「ま、待ちなさい!そう言う事でしたら、私が決闘を申し込みます!」「いえ、私が!」「私が!」

 クラスメイトの女子達が我先にと言い出す。

 別に、アイラさんに兄様や父様に対する縁談なんて持ち上がっていなくて、それは彼女達の妄想に過ぎない。

 もし、決闘して勝ったとしてもどうにかなる訳でもないのだが。

 私はクラスメイト達の見苦しさに幻滅する。

 そんな中、横から声を掛けられた。

「おやおや、何を騒いでいるのかね?」

 今まで何処に行っていたのか、帝国第一皇子たる父様が遅れてやって来たのだ。

 騒いでいたクラスメイト達が慌てて居住まいを正す。

 私は一瞬安堵する。

 私が言うより、本人である父様に否定してもらった方がより確実だ。

 だけど、父様の隣に立っているセーラ・マクディアスの姿を見て、今まで私の胸の奥でくすぶっていたモヤモヤが再燃した。

「皆さん、待ちなさい!ここは私が代表して、アイラさんに決闘を申し込みます!」

 何故、そんな事を言いだしたのか自分でも分からない。

 だけど、アイラさんに詰め寄るクラスメイト達を制して、私はそう宣言した。


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