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囲まれて多方向から攻撃された時の対処方法は幾つかあるが、基本的には一点突破が最善だろう。
素人は一番弱そうな相手に向かって行くが、どんなに弱い相手でも、ある程度は時間を稼げる。
その間に残りのより強い相手に背中から攻撃されてしまうので、大抵は上手く行かない。
だから玄人は一番強い相手に向かって来る。
この場合は、私、セーラ・マクディアスのバロン・ルージュ一号機だ。
今までの報告から、この銀色の悪魔がかなりの手練れだという事は分かっている。
案の定、私の方に向かって来た。
さっき、私がミラとロルフに号令を出していたのを聞いているから、私がリーダーだという事も分かっているだろう。
「良い判断だ!だが・・・」
相手の動きを予測出来ていた私は、慌てずに槍を突き出す。
穂先には魔法の光が宿っている。
だが、銀色の精霊甲冑はまるで武術の達人の様な動きで槍をかわす。
「なにっ!?」
無駄のない見事な体さばきだ。
槍はリーチが長く、人間が使うにしても、精霊甲冑で使うにしても、有効な武器であるが、一度かわされて懐に入られると途端に不利になる。
「まだだ!」
私は突いた槍を引き、穂先の反対側、石突で相手を打ち据えようとする。
だが、この攻撃も当たらない。
敵の銀色の手刀がひらめく。
魔法を付与された手刀らしく、槍の柄が切られる。
武器を持たないのは、この戦闘スタイルの為か?
私は仕方なく、二本になった槍の上下を両手に持って構える。
一連の攻防では私が不利だったが、時間は稼げた。
ミラとロルフが敵の背後に迫っていた。
ロルフが銀色の精霊甲冑の背中目がけて槍を突き出す。
しかし、これもかわされる。
背中に目が付いている様だと言われるかも知れないが、大抵の精霊甲冑には操縦席の映像板に後方の映像も映す機能がある。
かわされたロルフの槍が私の目の前に迫る。
私は自分のバロン・ルージュを仰け反らせて穂先を避ける。
今までこの三人でチームを組んで戦ってきたのだから、お互いの動きを見てこれくらいの連携はとれる。
続いて、ミラが横に避けた銀色の精霊甲冑に剣を振るう。
槍の突きは点の攻撃だが、剣は横薙ぎに斬撃が出来る。
だが、敵は低くしゃがみ込んでこの攻撃も避ける。
そのまま地面に手をつき、そこを軸に両足を振り回してコマのように回転する。
足払いを受けたミラの精霊甲冑が転ぶ。
ただの足払いではなかった。
足先にまで、攻撃魔法がこめられていたらしく、ミラのバロン・ルージュの脚部装甲が損壊している。
切断まではされていないが、修理しない限りまともに立てる様には見えない。
ロルフが槍を引き、立ち上がった銀色の悪魔に再度突きを繰り出す。
また、かわされる。
今度は槍の柄を掴まれた。
銀色の精霊甲冑が槍を引く。
槍を奪うかロルフの体勢を崩すつもりかと思ったが、そうではなく、自ら地面を蹴って彼の機体目がけて迫る。
槍の柄をガイドにして、一直線に距離を詰めたのだ。
操縦席のある胸部に肘打ちを打ち込む。
衝撃でロルフのバロン・ルージュが倒れる。
短くなった槍を持っているだけで、私は何も出来ない。
今まで強い敵と戦った事は何度もある。
しかし、一度負けたとしても敵の戦い方を観察して、二度目には勝って来た。
だが、この相手には何度やっても勝てるイメージが湧かない。
固有魔法も使わず、ただ機体の基本性能だけで私達三機を圧倒した相手はこれまで居なかった。
バロン・ルージュ六号機は修理中で今予備機としてあるのは一機だけだが、現在乗っている一号機を破壊される覚悟で特攻したとしても、それで勝ち筋を見出せる気もしなかった。
銀色の悪魔が地面に倒れたロルフの機体の胸を踏みつける。
「くっ、山賊相手にこの屈辱・・・殺せ!」
ロルフが吠える。
相手の機体は足にも攻撃魔法を付与できる。
その気になれば、操縦席を踏み抜くことも容易だろう。
万一を考えて、戦闘が始まると直ぐに輜重隊の隊員達に緊急脱出用転送魔法の転送先魔法陣を展開する様に頼んでいるが、横目で見てみるとまだ三つ全てを展開出来ていない。
順番から言って、まだ準備出来ていない魔法陣はロルフの物だと思われる。
「待て!我々の負けだ!殺すな!」
私が叫ぶ。
転送先が用意出来ていなければ、転送魔法は発動しないから、そのまま死亡だ。
「別に殺さないよ」
銀色の悪魔の操縦者が応える。
「食料さえもらえればそれで良い」
「分かった。引き渡そう」
相手から殺気が消えているのに気付いてはいるが、私は手にした槍の残骸を捨てる。
更に自分の精霊甲冑を格納する。
銀色の悪魔が踏みつけていた足を退けると、ロルフもバロン・ルージュを仕舞う。
ミラの機体は破損個所が大きいので格納できないから、修理出来る所まで運ばなければいけないだろう。
銀色の精霊甲冑の胸部装甲が開いて、操縦者が顔を出す。
見下ろされるのは屈辱だが、それにしても無防備過ぎないだろうか?
精霊甲冑が無くても生身で攻撃魔法が使える者が居たら、狙撃されてしまいかねない。
この少女、確かに強いが、盗賊の首領としては緊張感が無い様にも思える。
「兵糧だけで良いのか?武器や精霊甲冑の部品なら高く売れるぞ?」
彼女を見上げ、私はそう聞く。
「売る伝手が無い。それに、ここいらの住人は皆食うに困っているんだ、金を積んでも誰も食べ物は売ってくれない」
そう答える。
やはり、この盗賊団は地元の住民のうちの困窮した者達の様だ。
聞いたところに寄ると、奪った食料を住民達に配っているという噂もある。
「食うに困って、軍の食料を奪っていると?」
私は更にそう聞く。
「そうだ。王国との戦争だか何だか知らないが、私等の少ない貯えから徴発するから皆困っている」
彼女の答えに私は頷く。
「それは済まなかった。だが、今我々が運んでいるこの兵糧が届かないと、前線の兵は不足分を補うために更に周辺の領民から徴発しなければいけなくなるぞ?」
「え?」
私の話に、彼女は不意を突かれたように戸惑いの声をあげる。
「それに君達は諸王国連合軍からも兵糧を奪っている様だが、お陰で、双方の戦力が拮抗してしまって、戦いが長引いてしまっている。食料の徴発を避けたいなら、どちらか一方だけを襲って弱体化させた方が、早く戦闘が終結して、君達に都合が良いのではないか?」
私はたたみ掛ける様に理屈を述べる。
「え?ええと・・・」
私の論法に、彼女は頭を抱える。
三対一でも相手を圧倒するほどの使い手だが、こう言った戦略には明るく無い様だ。
それでも、悩みながらも私の話を理解しようとしているだけ、見込みがある。
「すこし、話をしないか?双方に良い解決策が有るかもしれない」
私の提案に、彼女は銀色の精霊甲冑を格納して、地面に降り立つ。
思ったよりと言うか、思った通り素直だ。
少し距離を置いて、お互いが対峙する。
「ところで、その精霊甲冑はどうやって手に入れたのだ?まさか、君は本当に亡国の姫だったりするのかい?」
私が聞く。
やはり、あの異常な戦闘力は気になる。
「姫?何のこと?これは偶然拾っただけだよ」
銀色のメダルを掲げて、彼女はそう答えた。
小首を傾げる仕草がやはり思った通り可愛らしい。




