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精霊甲冑が発明され、戦場の主役になってから数百年が経っているが、それでも生身の一般兵は無くなっていない。
領地の制圧にはどうしても多数の兵士が必要だからだ。
また、精霊甲冑にダメージを与えられるのは魔法付与された攻撃だけであるが、それは精霊甲冑の手持ち武器に限らず、通常の個人魔法でも有効である。
その為、人が隠れられる場所の多い市街地や森林地帯では奇襲攻撃を避ける為に随伴歩兵は必要だ。
そして、多数の兵を運用するのには食料をはじめとする多くの物資が必要で、兵站を担う輜重部隊の重要性は古来から変わっていない。
補給が滞る事は戦線の崩壊につながるのだから、これを脅かす盗賊の対処は重要な案件である。
「しかし、盗賊がそれほど強力な精霊甲冑を持っていて、その上、操縦者が若い女とはな・・・」
マルスハイトからマリオン辺境区に向かう馬車の中で私、セーラ・マクディアスは呟く。
「噂では、今は亡きマリオン王国の秘密兵器で、乗っているのは王家の末裔の姫だとか」
私の隣に座るミラがそう言う。
「それは確実にデマでしょう。確かにマリオン王国は百年ほど前、正確には今より九十三年前に帝国に併合されて消滅していますが、その王家は今も帝国の公爵家として残っています。今更帝国に反旗を翻す意味が有りません」
御者台で馬の手綱を引く執事のロルフがそう言って来た。
「それもそうだ。それに帝国の輜重隊だけではなく、お題目だけとは言え古王国の独立を謳っている諸王国連合の部隊まで襲っている意味が分からない」
私もそう言う。
重要なのはその正体ではなく、いかにして補給経路の障害を排除するかだ。
マリオン辺境区は帝国領の北端、マルスハイトの西にある。
マルスハイトと同じく冷涼な気候であるが、標高はこちらより低い。
ただ、雨が少なく土地が痩せている為、麦などの作物はあまり育たず、酪農が主な産業である。
草原の中の道を帝国の輜重隊が食料などの物資を国境の戦線に運ぶ為に進んでいる。
道はあまり良くないので、荷馬車は使えず、馬やロバの背に直接荷物を乗せている。
他には背中に荷物を背負ったゴーレムも数体いる。
ゴーレムは野盗の襲撃に対抗する為の戦力でもある。
襲撃を恐れてか、固まり合って歩いて行く。
見通しの良い草原では奇襲を受ける事は無いだろうが、その様な場所ばかりでもない。
道はやがて、ゴーレムが隠れるほどの巨大な岩が転がる荒野に入ってきた。
その先に国境が有り、味方の軍が陣を張っている。
岩場を少し進むと、予想していた通りに、野盗が現れた。
正規軍と違いバラバラな格好で、武器も貧相だ。
槍や剣を持つ者も居るが、薪割り用の斧や土を耕す鍬を手にしている者も居る。
ただ、向こうにも数体のゴーレムが居た。
精霊甲冑の補助をする戦闘用ゴーレムではなく、一般の荷運びや土木作業用のゴーレムだ。
「荷物を寄越せば危害は加えない!用が有るのは食料だけだ!それ以外は盗らない!」
野盗の先頭の男が、こちらに向かって叫ぶ。
いきなり襲い掛かって来ないし、野盗にしては理性的ではある。
「精霊甲冑は居ませんね」
輜重隊の制服を着たロルフがそう言う。
確かに襲撃者にはこちらと同数程度のゴーレムしか居ない。
「こっちのやる事は変わらないでしょ?」
流石に合う制服が無く、いつものメイド服の上にマントを重ねたミラがそう言った。
「そうだな。二人とも、盗賊相手だからと言って油断しない様に」
私はそう言って、精霊甲冑の格納形態のメダルを懐から取り出す。
私達は輜重隊の隊員に紛れ込んで盗賊を迎え撃つ作戦をとっていた。
メダルを掲げ、精霊甲冑を顕現させる。
三体のバロン・ルージュが荒野に現れる。
元は皆同じ機体であるが、何度か修理しているので、三機には僅かな差異が生まれている。
持っている武器は私とロルフの機体が槍、ミラの機体は小さめの盾と細身の剣だ。
盗賊達が驚き、後退る。
彼等のゴーレムは五体だが、ゴーレムと精霊甲冑では戦闘能力が違う。
例え一機でも、全ての敵を圧倒できるだろう。
それでも、彼等は逃げ出さなかった。
「お頭!お願いします!」
盗賊の一人が、叫ぶ。
彼等が左右に分かれて、一人の人物だけが残る。
覆面で顔を隠しているが、体型から女性なのは分かる。
多分、歳は私と同じくらいだ。
隙間から僅かに見える目元から、私好みの美人だと察せられる。
盗賊の殆どが彼女より年上のむさ苦しい男どもだ。
それなのに、彼等の頭目でいるからには、それに見合った実力が有るのだろう。
彼女も精霊甲冑のメダルを取り出し、頭上に掲げる。
風が渦巻き、見た事の無い型の銀色の巨人が出現した。
報告に有った盗賊の精霊甲冑に間違いなさそうだ。
マリオン辺境区に於いて『銀色の悪魔』と呼ばれる精霊甲冑だ。
「囲むぞ!」
私の合図で、三機のバロン・ルージュが相手を取り囲む。
三対一で卑怯に見えるかもしれないが、私達は確実に勝てる事を重視する。
しかし、銀色の精霊甲冑は少しも怯まない。
今まで帝国軍の輜重隊は何度も襲われている。
こちらの部隊の司令部も馬鹿ではないので、二度目からは精霊甲冑を持つ者を護衛に付けていたが、彼等は全てこの精霊甲冑に破れていた。
精鋭は前線に配置しないといけないので、二軍相当の騎士と精霊甲冑だったが、それでも正規の軍人が歯が立たなかったと聞いている。
戦いに巻き込まれない様に、敵味方のゴーレムと徒の者が遠巻きに離れる。
私達は槍や剣を構えるが、銀色の悪魔は未だ武器を取り出さない。
「・・・舐めてるのか?」
私はそう呟く。
「それとも戦意が無い?」
そうだとしたら、わざわざ精霊甲冑を呼び出したりしないだろう。
ともかく、盗賊は倒さなけれならない。
「攻撃!!」
三体のバロン・ルージュが同時に三方向から銀色の精霊甲冑に攻撃を仕掛ける。
どれほど高性能な機体だとしても、三対一では勝ち目はない。
・・・私のその目算はあっさりとひっくり返された。




